取り消しの利かぬ愛(ネロ晶♀) むず痒い体温の気配に誘われ、重たい瞼を僅かに開ける。どうやら彼女は今朝も、飽くことなくしきりに俺の髪に触れているらしい。目先で鈍色が混じる水色の前髪は細い指先になぞられていて、同じ朝を迎える度にカーテンを開ける時もこんな風に優しい仕草だったなと思う。
ネロは薄目を開けながら、柔らかなシーツと静寂に身を任せる。前髪に指を通す彼女のあどけない表情を盗み見ては、身に余る幸せを噛みしめつつ。
本来ならばいつまでも、こうして彼女を慈しんでいたいものだが。
「……はよ」
「おわっ」
頃合いを見ながら声をかける。晶は驚きに目を丸めながら、彼の前髪から指を離した。もう少し眺めていたい気もしていたけれど、今日も今日とて魔法舎に住む面々のために朝食を拵えなければならない。それに、彼女が寝ぼけ眼を見開きながら驚く様を逃さず見届けることは、ネロにとってのささやかな恋人特権のひとつとも言えた。
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