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    マリレン

    何故こんなことになったのか、レン自身事態を飲み込めていないまま、真剣な顔をしてレンに向き合っているマリオンの瞳に長い睫毛がつくる影を、ぼんやりと眺めている。
     いつもの自主トレの前に、問答無用で「ついてこい」と言われ連れられてきたのは、ブルーノースシティに古くからあるテーラーだった。担当しているセクターの老舗であるから、レンも店の存在自体は知っていたが、足を踏み入れるのは初めてだ。
     十八年の人生の中で、制服以外の正装が必要となる機会はほとんどなく、唯一必要となったのは喪服くらいのものだった。だからレンは、きちんと誂えたスーツというものを持っていない。話の流れでそのことをマリオンに告げると、彼はしばし神妙な顔をしてみせたのち、踵を返して出かける準備を始めてしまったのだ。常々「絶対にはぐれるなよ」と耳にタコが出来そうなくらい言われている以上、レンは迷いなく先を行くマリオンの背を追うことしか出来なかった。
    「……どうして、俺にネクタイをあてているんだ」
     ようやく、疑問を口にする。すると、マリオンは真剣なまなざしをそのままに、眉をつり上げた。
    「オマエがスーツを持っていないって言ったからだろ」
    「別に、必要じゃない」
    「ノースがサウスみたいな式典をすることはほぼないだろうけど、オマエもそのうち『ヒーロー』として正式なパーティの場に呼ばれたり、人前に出たりする機会が出てくる。その時になって慌てても遅いんだ。ボクに恥をかかせたいんじゃないなら、大人しくしていろ」
     そう言いながら、マリオンは新たにネイビーのネクタイを手に取ると、レンの首元に添える。その目つきがあまりに熱心に見えて、レンはどこか落ち着かない気持ちで視線を逸らした。
    「オマエは青系のイメージがあるし、実際にこの系統が似合うけど……。あえて外してみるのもありか? ……いや、色で外すよりは、柄で目を惹く方が……」
     マリオンの白く細長い指が、絶え間なくレンの首元を行ったり来たりして、時折、鎖骨のあたりを掠めていく。そのたびに、むず痒いような、もうやめてほしいような、でも不思議と嫌ではなく拒絶は出来ない、不思議な気分を持て余す。マリオンの表情を直視できずにいるレンの視線をとらえたのは、アメジストが小さく光るネクタイピンだった。
    「あれ……」
    「どうした、何か気になるものでもあったか?」
     思考が浮ついているせいで、つい興味が口をついて出てしまっていたことに気づく。レンが取り繕うより早く、マリオンはレンの視線の先を追ってしまっていた。
    「ああ、ネクタイピンか。こういうのでアクセントをつけるのも、悪くないな。こういう色が好きなのか?」
    「す、好きじゃないっ」
     反射的に、自分でも想定外の大きさの声を出してしまった。マリオンは一瞬怪訝な顔をして、けれどすぐに「大きな声を出すんじゃない」と、レンの焦りを一蹴した。
     ……何を焦っているんだ、俺は。自分でも理解出来ない感情の動きに戸惑いつつも、やっぱり不快ではなくて、どこかふわふわとした気持ちのまま、レンはマリオンに窺うような目を向けた。
    「に、似合うだろうか」
     そういうの……。自分でも、どこに着地したいのか把握できないまま口にした問いかけは、細く小さくなっていく。別に、似合うからなんだというのだ。似合わなくても興味なんてない。けれど、マリオンがどう感じ、何を返してくるかは気になった。
    「ああ。やっぱりオマエは寒色系の色が合う」
     その声色は、いつもと寸分違わず変わらない。マリオンにとっては、何の気なしに放たれた、取るに足らない感想だ。
     けれど、言葉を発した一瞬、角度が和らいだ眉尻に。薄く細められた目元に。マリオンの手元で輝く宝石以上のきらめきを、レンは確かに見た気がした。
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    DONEマリレン何故こんなことになったのか、レン自身事態を飲み込めていないまま、真剣な顔をしてレンに向き合っているマリオンの瞳に長い睫毛がつくる影を、ぼんやりと眺めている。
     いつもの自主トレの前に、問答無用で「ついてこい」と言われ連れられてきたのは、ブルーノースシティに古くからあるテーラーだった。担当しているセクターの老舗であるから、レンも店の存在自体は知っていたが、足を踏み入れるのは初めてだ。
     十八年の人生の中で、制服以外の正装が必要となる機会はほとんどなく、唯一必要となったのは喪服くらいのものだった。だからレンは、きちんと誂えたスーツというものを持っていない。話の流れでそのことをマリオンに告げると、彼はしばし神妙な顔をしてみせたのち、踵を返して出かける準備を始めてしまったのだ。常々「絶対にはぐれるなよ」と耳にタコが出来そうなくらい言われている以上、レンは迷いなく先を行くマリオンの背を追うことしか出来なかった。
    「……どうして、俺にネクタイをあてているんだ」
     ようやく、疑問を口にする。すると、マリオンは真剣なまなざしをそのままに、眉をつり上げた。
    「オマエがスーツを持っていないって言ったからだ 1561

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    DONEディノキスいてっ、と小さく漏れた声は誰にも届いていないと思っていた。
     キースが料理を出来ると知ってからというもの、ジュニアは毎夜のようにキースの手料理をねだるようになった。好物であるハンバーグやオムライスのレトルトを冷蔵庫に詰め込んではキースの晩酌用スペースを圧迫し、それをフェイスに揶揄されても「美味いからいいんだよ」と言っていたはずだが、さすがに好物であろうと、レトルトの味が続くと飽きるのだろうことは想像に容易い。面倒なことこの上ないが、ディノやジュニアのような、表情から感情が伝わりやすいタイプに食事を振る舞うのは悪い気はしないし、普段は澄ました顔をしているフェイスが己の手料理に顔を綻ばせるところを見ると、同期であるフェイスの兄、ブラッドにどこか勝ったような気持ちになって、これも悪くない。手伝いや片付けを担うことを条件に、キースが夕食を準備する機械は格段に増えた。
     今も、皿洗いをしているフェイスとジュニアの横で、キースはさっと作ったソースの味見をしようとしていたところだった。とろみのついたデミグラスソースが唇に触れて、味を確認する前にピリッと鋭い痛みが走る。痛みの残る部分を舐めとると、唇の 2510

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    MOURNINGディノキス クリスマスの時期に書いててそのままお蔵入りしてしまったやつ…クリスマスといえど『ヒーロー』に休みはない。ハロウィンと同じく、否、それ以上に一大イベントであるクリスマスは、多くのヒーローを抱えるHELIOSにとっても例外ではなく、通常の任務に加え、市民サービスと称したアピールイベントも行わなければならない。
     それらがようやく一段落ついてから、フェイスとジュニアのルーキー二名は一日だけ休暇をとり、遅めのクリスマスを家族と過ごすべく実家へと帰省している。ウエストの居住ルームに残されたのは、定期的な検査を必要とすることからタワーを離れられないディノと、元より帰りたい実家などないキースの二人だけだった。
     ディノには「付き合わせて悪い」と申し訳なさそうな顔をされたが、仮にキース一人きりになったとしても、クリスマスを楽しもうなんて考えは微塵もなかったのだから問題ない。むしろ、ブラッドやジェイが貴重な、そして大事な家族サービスの機会に追われる中、一人手持ち無沙汰になるところを、大事な相手――そう表現するのは極めて小っ恥ずかしいが――と過ごせることになったのは、キースにとって喜ばしいことだった。『ヒーロー』として迎えるクリスマスは面倒なことこの上ないが、ディ 1810

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    DONEりつがくだよ~金曜日の夜は、社内で浮足立っている者があちこちで散見される。翌日からの休みに心躍らせる者、アフターファイブに飲みに出る者など理由はさまざまだが、どちらにせよ、定時から半刻ほど前の現時点で未だ仕事が山積みの律瑠にとっては関係のない話だ。溜まりに溜まった未読メールを捌くにつれて、一向に減らないTO DOリストは増えていくばかりで、思わず腹の底からため息をついてしまった。
     嫌で嫌で仕方がなかった就職活動をどうにか乗り越えて、律瑠は今、嫌厭していた社会の歯車になりつつある。古い慣習や前時代的なノリに辟易とし、それらと足並みを揃えることを要求される現実に絶望することも多々あるが、そう悪い人間ばかりでもない。クソみたいだと唾棄したくなるような先輩もいれば、人間として格が違うのではないかと首を捻りたくなるくらい、人として出来た上司もいる。ブラックだホワイトだと一言に言っても、画一的に語れるものではないのだと知れたのは、経験に依るものだ。
     だが、時折ひどく心許なく思うときがある。ここにいて、自分は本当に、あの人の言葉に恥じないぐらいの人間になれるのだろうか。近づけているのだろうか、と。尊敬できる人 2376

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    DONEフェイディノルーキーズキャンプでの活躍を受けて、改めてフェイスの能力について一考したディノは、フェイスにある提案をした。
    「モールス信号を覚えよう!」
     そう言って渡したのは、使い古したテキストだ。ディノがルーキーの頃、通販でチームメイト四人分を取り寄せたもの。みんな、まだ持ってくれているだろうか。
     【HELIOS】に入所して間もない若かりし頃、チームワークを新たな課題として掲げられた当時のディノは、これを一目見てピンときたものだ。チーム内だけで伝わる秘密の暗号。いかにも『ヒーロー』っぽくてかっこいいだろうと、ワクワクしながらブラッド、キースとメンターのジェイにプレゼントしたはいいが、結局、ついぞ使う場面は訪れなかった。
     だが、ディノは今でもある程度内容を覚えている。恐らくブラッドはディノ以上にしっかり会得しているだろうし、ジェイもきっと簡単なものなら分かるはずだ。キースがこれを開いているところは、一度も見た覚えがないけれど。
    「俺のおさがりでごめんな。けどこれ、すっごい分かりやすいんだ! 今でもいい買い物したなって……」
    「あーはいはい、それで? なんで突然モールス信号?」
     うっかりテレビ 1557

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    DONEショッピングデートするディノキスの短文ディノが戻ってくるまでに、四年の月日が経過していた。
     そうは言っても、子どもがいなくなっていたわけではないから、体型に大きな変化があったわけでもなく、制服も普段着も、いなくなった当時のものをそのまま着られる。キースがディノの私物をほとんど全て保管していたおかげで、新たに買い直すべきものは最小限で済んだ。
     だがディノは、好奇心旺盛で新しい物好きなところがある。自分の知らない流行りものを街で見かけては、「あれ何?」と目を輝かせて問いかけてくるのが半ば恒例と化していたところで、合流して初めてのオフの日、キースはディノに引きずられるようにして、ウエストのショッピングモールを訪れていた。
    「つっても、オレは流行りとか分かんねぇぞ……」
     そういう類は、フェイスの方がよほど詳しい。だからといって、ただでアドバイスをしてくれたり、休日にショッピングに付き合ってくれたりするとは考えにくいけれど。
    「いいんだよ、俺はキースの意見が聞きたいんだから! ほら、これとかどう?」
     そう言ってディノは、自らの上半身にグレーのニットを翳した。人好きのする、愛嬌のある顔立ちに、キースやブラッドと並んで遜色のない 1432

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