マヨイさんは誘いたい〈2〉お題『気になること』
なんだか酷く居たたまれない気持ちがしていた。それがマヨイの習慣で日常で、つまり人気の無い通路を歩いていた。
学院は集まる人間の性質上、ESビルよりも好奇の目に晒されやすい。なるべく人目につきたくないので天井裏を移動したいところだが、あいにくそのスペースがない部分が唯一あった。渡り廊下だ。だから渡り廊下だけは規定の場所を歩いて通らなければいけなかった。
教室のある棟の向かい側の棟は専門的な部屋が集まっている。普段はそちらの棟にばかり居るので、マヨイが自分で通ることは珍しかった。
(……この間は野暮用で通りましたけど)
そういえば、気になることがある。
どうしてあの日、藍良は渡り廊下の向かい側からやってきたのだろうか。藍良が向かってきたのは教室の棟からではなかった。レッスン室などがある棟だ。それなのに……。
「あれっ、マヨさん!?」
考え事をしながら歩いていたので、声を掛けられたことに必要以上に驚いてしまった。
「ひいぃ!! すみませんすみませぇん! 私ごときが考え事をしながら歩いていたので肩がぶつかってしまったのでしょうか!? 通院代はいくら払えば?」
「あははは。マヨさんはぶつかってないからねェ」
「藍良、さん?」
「そう。おれが呼び止めたの」
慌てて捲し立てるマヨイを、仕方なさそうに藍良が覗き込む。じっと見つめる瞳には嘘など無さそうで、しかも、どことなく嬉しそうな雰囲気が漂っている。
「なんか学校で会うなんて変な感じィ~。実はこっちじゃあんまり会わないよね」
屈託のない笑みを浮かべたまま間近で見つめられてはこそばゆい。と、同時に申し訳なくなってしまう。
醜い自分をそんなに見てもいいことは何もないし、藍良に言われたことが全て真実ではないと解っているから余計に。
(本当は校舎でも、ずっと前から見つめていたんですけどね……)
出来ればこの眩しい姿をずっと見続けていたい。けれど、近づきすぎては焼け焦げてしまう。
そんな気持ちが、ついついマヨイの顔に出る。
とことん困り果てて見える眉と逸らされた視線。それを見逃すほど藍良は浮かれていない。