続 先輩とAV「銀がな」
侑がそう喋りかけてきたのは、練習も終わり寮まで帰るその道すがら。前を歩く何人かとの距離は一メートルあるかないか。
「銀さんが」
「またAV寄越してん」
思わず前方を確認した。誰もこちらを向いていない。ふうと小さく息を吐いて、侑に視線を戻した。
「はあ」
普段と変わらない表情で、今日の晩ごはん何かなの流れからどうしてこうなったと言わざるを得ない話題を何故このタイミングで振ったのか。日向には少しもわからなかったが何も返さないのもあれだろうと、何となく出した声は間の抜けた音になって空中に漂った。
「また一緒に見いひん?」
そして今度は言葉もなくただ隣を見上げた。きっとぽかんとアホみたいな顔をしていた。
あの、どうにも形容しづらい夜から一週間。お互いその事には触れず、しかし幸いにもいつもの日常が送れていたから無かったことになったんだと思っていた。
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