魈君おたおめ小説「よもや、ここまで業障の影響が出ていたとはな。」
仮面を解き、未だ自壊している魔物共の残骸を見やる。小物と呼べるヒルチャールやシャーマンやスライム、中物の盾持ちや斧持ち、更には大物である岩兜の王までもがそれの影響を受け孤雲閣に拠点を作っていた。魔神の邪念からなる業障の本能で憑かれた奴らは必然的にここ引き寄せられ巣を作り、留まる。
「まぁ、分からない訳でも無いが」
返事の無い骸に溢し、槍を風に溶かしてその場を去る。分からないでもなかった。業障を受けたあの日から仮面を被り魔物を屠った後、この場へふらりと立ち寄りたくなる、その場に行けば痛みが遠のく心地がするのだ。だから、分からないでもないと思った。
さくさくと取り留めもなく浜の砂を踏みしめているとコンと何かを蹴った感覚と音が耳に届き視線を下げる。青と白の縞模様の貝殻が一つ埋まっていた。
星螺に確か言い伝えがあったのだが、何だったか・・・
「確か言葉を伝える、だったな」
拾い上げたそれを耳に当て、目を閉じ傾ける。届くのは波の音と穏やかな風が通り過ぎる音のみ。
・・・馬鹿馬鹿しい、矢張俗説は俗説だったか。
浜に放り投げようとして、待てよと思い止まる。
もしかすると、自分自身人では無いから聞こえぬのではないか。
そんなわけないと頭の隅で思いつつもそうじゃないかと言う疑念と好奇心の方が大きかった。もしかするともしかするのではないか。思い立ったが吉日。近くにある星螺を五つ拾い上げ、その一つに言葉を吹き込む。
『 』
届かなくても良かった。届けば上々。
さて、そうと決まれば早く望舒旅館へ戻り手紙を出そう。
明日届くであろうこれを聞いて旅人はどう思うだろうか。こんなに明日の期待を浮かべる日が来る等思いもしなかったが、旅人が毎度毎度事ある毎に贈り物を送ってくる気持ちが今少しだけ分かった気がした。