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    ヴィーノ

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    ヴィーノ

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    行きの新幹線で、秋山は帰りの事なんて心配してないんだから答えは出てるようなもんなのにね。

    #秋品
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    ##秋品

    雑居ビルの屋上から見上げる夜空は明るすぎて目に眩しいぐらいだ。昔は見えたであろう満天の星空は、現代では人工の光でもってその美しい輝きが霞んでしまっている。それを悲しいとは思わないが、少しばかりの残念さを紫煙と共に吐き出した。

    「秋山さんのことが好きだと言ったら、どうしますか?」

    そう困ったように笑って重い重い置き土産を秋山に渡して去った品田のことを思い出した。咄嗟のことで何も言えずただ黙って品田を見つめていれば、諦めた目をして新幹線へと乗り込んだ。勝手に告白して勝手に諦めて名古屋へと帰っていった品田に怒りが込み上げてくる。自分の周りは身勝手な奴が多すぎるのだ。誰も話をきちんと聞かないで早合点して、去っていく。それに嫌だと賛同してくれたのは何処のどいつだ?と思わなくもないのだが。

    風が、思考の海に浸かった秋山の代わりに短くなりつつあるタバコを吸っていく。灰がぽろぽろと飛んでいく。それを見ながら、やはり思い出すは品田の事だった。

    ――自分は、品田の事が好きなのだろうか?

    わからない……それが素直な感情だ。だって、彼と過ごしたのはあまりにも短くて強烈だった。お互いを知るには時間が足りない。
    いわゆる、吊り橋効果というやつではないだろうか。特殊な環境下で秋山を最初に頼ったから恋が芽生えたのだろうか。わからない、秋山には全くわからなかったが、それでも一度あの厚ぼったい唇から「好き」と言われてしまえばその感情に囚われてしまう。もしかしたら、好きかもしれない。あるいは、その前から。

    「なごや、名古屋……錦栄町か」

    自分の気持ちにさえ名前を付けられぬまま、この出口のない迷路へと背中を押した本人に聞けば何かがわかるかもしれない。
    すっかり短くなったタバコを消して、歩き出す秋山の足取りがいつもより軽いことを、そそり立つ神室町のビルだけが知っていた。
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