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    koshikundaisuki

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    12/11 影菅アドベントカレンダー

    #影菅
    kagesuga

    免許「今日は外に食べに行こう」「焼肉に行きたい!」「カルビ!ハラミ!タン塩!ホルモン!」
    夕方にそう言い出した菅原さんは、年末の大掃除を終えたところで「これ以降絶対に家事をしたくない」という顔をしていた。
    料理も皿洗いも俺がやりましょうか?そう提案しかけたが、菅原さんの顔を見て察する。家事をやりたくない以上に、焼肉が食べたいのだ。もう菅原さんの心は焼肉に囚われている。
    俺が頷くと、菅原さんは「よっしゃー!」と飛び上がり、ドロドロのスウェットを脱ぐと黒いパーカーに着替えた。
    思うに、焼肉の臭いがついても洗濯機で洗えてかつタレが飛んでも汚れが目立たない服を選んだのだろう。言わば焼肉屋に行くときの一張羅なのだ。

    「わーい、明日休みだしビール飲んじゃお!」ウキウキそう言った菅原さんだが、次の瞬間ぴたりと停止した。
    いつも行く焼肉屋はとても徒歩で行ける店ではない。となると、車を運転するために飲酒は諦めなければならないと気付いたのだろう。
    そして絵に描いたように「がっくり」と肩を落とした。

    「俺が運転しましょうか」
    菅原さんは振り返り、「なんて?」と聞き返す。
    「俺が運転しますよ。そしたら菅原さんは飲める」
    菅原さんは「まあそれができたら嬉しいよな」と苦笑し、近場の焼肉屋を検索し出した。いい感じの店がなかったのか、今度は公共機関を調べて「うーん」と唸るのだった。
    「電車はめんどいよなぁ……思い切ってタクシー使うか、帰りだけ代行使うか……今日は頑張ったし……」
    「キー貸してください。俺が運転します」

    再度そう言うと、菅原さんはスマホから顔を上げて、ポカンとした表情を浮かべた。






    とある番組の企画で何かやりたいことはないか、と言われた時「普通免許を取りたい」と言ったら叶うことになった。当然教習所には通わなければならないので、日常生活との両立を含め、数ヶ月はかかったが取れた。意外にも取れるものだな、と思った。

    まだ放送されていないので菅原さんにも言っていなかった。
    菅原さんは俺の免許証をまじまじと見つめ、明かりに透かしたり撫でてみたり、隅々まで確認した後「本物?」と聞いた。
    「本物です。割と最近取ったんで初心者マークつけます」
    「ええ……なんで?」
    放心した声を出す菅原さんの手を引き、駐車場へ向かう。
    「イタリアとか東京では困らないんですけど、こっちでは車乗れる方が便利だなと思って取りました」
    「影山が?うそ……だってタクシーとか使ったらいいじゃん」
    「でも呼ぶの時間かかる時あるし、深夜は捕まらないじゃないですか。荷物持って移動するのになんだかんだ言ってあった方がいいなと思って」
    「し、知らんかった……」

    その後も俺の免許証を持ったまま突っ立っている菅原さんの手を引いて助手席にのせると、初心者マークを貼り付け、車の確認をした。菅原さんは窓から不安げに俺を見ており、運転席に乗り込んだ瞬間「本当に影山が運転するの?」と恐々聞いてきた。
    「俺が行きだけ運転しようか?」
    「逆に心配じゃないですか?どんな運転するかも知らないで帰りに任せるの」
    「確かに……」
    「安全運転で行きます。シートベルトしてください」
    そう言うと菅原さんはすでにしているシートベルトをガチャガチャさせて慎重に確認した。俺はシートとミラーを調整し、周囲を確認してエンジンをかける。
    菅原さんが唾を呑み込む音が響いた。





    「ちゃんと運転できてたなぁ」
    菅原さんはタンにネギを撒きながら、はー、息を吐き感心したような声を出した。まだ緊張感が解れていない。車内でもずっと体に力を入れていたようだった。

    俺も菅原さんも、あまり肉の部位をきちんと理解していないので、いつも盛り合わせを頼む。ここの盛り合わせは大きな皿に葉っぱが乗せられ、盛られた肉のそばに部位が書かれた短冊が添えられている。
    ネギがたっぷり盛られたタン塩を食べた後は、がむしゃらに肉を焼いていく。
    ミスジ、ザブトン、イチボ、何一つどこの部位なのかわからない。昔は調べながら食べていたが、意識がそっちに行くので結局全力で味わったほうが美味い、と言う結論になってからは気にしないことにした。
    念願のカルビを食べても、菅原さんは一向にビールを頼まない。
    「飲まないんですか?」
    そう尋ねると一瞬ギクッとした。
    「え、うーん……腹一杯になっちゃうからやっぱやめとこっかな……」
    生焼けの肉を突きながら、視線を逸らす。俺はすぐにチャイムを鳴らして店員を呼んだ。
    「はい、ご注文お決まりでしょうか」
    「この壺漬けカルビとナムル、白米大盛りで」
    「はい、かしこまりました」
    「あとビール一つ」
    俺が追加注文をすると、店員はニコッと笑って立ち去り、菅原さんは唖然とした顔を見せた。



    往生際が悪く、卓にきたビールを菅原さんは恐る恐ると言った感じで口をつけた。一杯飲んでからもソワソワしているので「掃除やったご褒美に来たんじゃないんですか」と言う。頷いた菅原さんはようやくお代わりを注文したのだった。

    いつもより飲んでないのは少し不服な気もしたが、要は安心と実績を残せればいいのだ。レジでもらったガムを食べながら、菅原さんは大人しく助手席に座った。
    俺が運転席に乗ると「お願いします」と頭を下げる。
    「シートベルトしめて」
    「しめた」
    「じゃあ出発します」
    車が走り出す。行きの時ほど、菅原さんは緊張を見せなかった。

    話しかけてはいけないと思っているのか、菅原さんはずっと無言だった。
    交差点では過剰なくらい視線を彷徨わせ、ミラーをしょっちゅう確認している。
    「怖い?」
    俺がそう聞くと菅原さんは驚いてこちらを見た。
    「いや……ただ影山に何かあったら……」
    「そうならないように練習したんで」
    「……そうだよな、ごめん」
    菅原さんが自省するような顔をするので「うまかったですね、肉」と話題をふる。
    「……うまかった。ユッケ久しぶりに食べたわ」
    「あんなに騒いでたのにあんまりカルビ食ってなかったですよね」
    「いやいや!お前全然平気だった?俺4枚くらい食べたらもう結構ウッてなったんだけど」
    「全然なってない」
    「え〜……!?やっぱ2年の差ってでかいのかな?」
    菅原さんは「お前も2年後はこうなる」と言いながら、ようやく屈託のない笑顔を見せたので、ほっとした。
    調子に乗って遠回りをした。菅原さんは多分気付いていたけど、車の通りが少ない道を選んだのもあってか、何も言わなかった。
    途中「撮ってもいい?」と聞かれ、何のことかと思って助手席を見ると、手にスマホを持っているので頷いた。一枚くらいのつもりだったが何度かパシャ、と音がしたので「どんだけ撮るんだよ」と思ったものの好きにさせた。そのどれもが真っ直ぐな見通しのいい道路や赤信号の時だった。菅原さんの要望でコンビニに寄ってアイスを買った。菅原さんはいつものラクトアイスではなく、300円くらいするカップアイスを選んだ。俺は菅原さんが迷っていた別の味を選んだ。



    自宅の駐車場に着いた時、「行ける?」と確認されたが、それは最初の心配そうな言い方ではなくなっていた。
    「教習所では結構、駐車得意でした」
    菅原さんはコクリと頷いた後、急に目を輝かせ「あれ!あれやって欲しい!助手席のここに手掛けてバックするやつ」とねだってくるのだった。
    「何それ」
    何を求められているのかわからないまま、バックをすると唇を尖らせて不服そうにした。思っていたものと違ったらしい。

    「後ろ全然見ないじゃん。俺は助手席に腕回されて真剣な横顔とか距離感とかにドキドキしたかったのに」
    「だってこの車バックモニターついてるし」
    「……確かに」



    帰宅するとアイスを冷凍庫に入れ、それぞれ風呂に入った。風呂から出た菅原さんは届いたばかりのもこもこパジャマを着ていた。グレーで柄も派手でなく、下もロングパンツだった。
    菅原さんはいそいそとアイスを取り出す。ソファに腰掛け、テレビをつけながらアイスを食べていると菅原さんが俺の腕をつつく。食べたいのかと思ってカップを差し出すと、菅原さんは意表をつかれたような顔をしてから俺のアイスを掬って食べた。
    そして食べながら「腹やばい。触って」と言う。左手で触れると、もこもこと柔らかい生地の下に、丸く膨らんだ菅原さんの腹があった。食べ過ぎだ。腹の脇の肉をつまみながら笑うと「えっち!」と手を叩かれる。
    「自分が触れってって言ったくせに」
    「ちょっと確認すればよかったの!」
    ぷりぷりしながらゴミ箱にアイスのゴミを捨てる姿を見て、気分が高揚していることに気付いた。先程の、手の中にあった柔らかな感触を思い出す。

    歯磨きから戻ってきた菅原さんに「今日したいんですけど」と言うと、菅原さんは「え!?どこにそんな要素あった!?」と、これでもかというくらい動揺を見せた。
    今日は疲れてるしダメだろうか、と仕方なく気分を落ち着けようとしていると、「……まあ、明日休みなんで、別にいいですけど……」と聞こえるか聞こえないくらいのボソボソとした声がした。


    終わり
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