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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    星の声8

    ##宇奈七

    「これが最後の任務になるとさ」
     組織が拠点にしていた建物の廊下を並び歩いて、上官の元へ向かおうとしていた日のことだ。俺は突然、吐き気がこみ上げてその場にうずくまった。嘔吐こそしなかったが、酷く眩暈がして立ち上がれそうにはなかった。
     俺は十六だったその当時、身長が今と同じくらい──一八〇センチほどあったのだが、アスプロは俺を抱き上げて医務室へ運んだ。頭を動かさない方がいいから担架が来るのを待て、とその場にいたコーキノやマヴロから言われたにも拘わらず、「嬢ちゃんが倒れるなんざ、よっぽどのことだろう」と、俺を抱えて駆け出した。重たいだろうに無茶なことをする奴だな、とか、怪我なら日常茶飯事だが体調不良というのは稀だからな、とか、さすがは日頃ライフルを持っているだけのことはあるな、などと、俺は奴の腕に収まってぼんやりと考えていた。
     医務室にいた医師は──当然、表社会で正規に医業を営んでいる者ではない──俺の体や血液などをいろいろと調べた後、「三ヶ月になる」と結論を出した。腹に子どもがいたのだ。アスプロと俺の子どもが。
    「──全く考えなかったわけじゃないんだ。嬢ちゃんとこうして過ごしてりゃあ、いつかは有り得ることだろうって。だけど、こんなに早いとは思わなかったな」
     奴の穏やかな声が耳元で聴こえたのを、よく覚えている。満月の浮かぶ星空を窓から眺めながら、二人で布団にくるまっていた。
    「四騎士が解散してからだったら、嬢ちゃんもその体で戦わなくたって済むんだが……」
     案じるように言う奴の手を取り、俺は人差し指をその掌に滑らせた。
     σ―ε―λ―ή―ν―η。『セレーネー』。
    「何だい? 『月』?」
     俺はさらに、指を動かした。
     Ά―ρ―π―α。『アルファ』。
    「……『竪琴』? ……ああ、もしかして」
     そうだ、と俺は手を開いて奴の掌に重ねた。痣のある指がすぐ、握り返した。
    「もう考えてくれたのか。どっちも、いい名前だ。嬢ちゃんと俺との子どもなんだって感じがする」
     冷えてるな、と握る手が二本に増えた。
    「大事にしよう。何なら、嬢ちゃんだけ一足先に四騎士を抜けたっていいんだ」
     俺は首を横に振った。
    「父親の働き振りを見せてやらないと」
     奴は笑って、手を俺の髪に伸ばした。
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