【ディル蛍】眠気覚ましを今すぐに「うぅーーーん……」
旅人は一人、たくさんの本棚に囲まれて唸っていた。今日はアデリンからの依頼で、ワイナリーの仕事を手伝いに来ている。報酬は申し分ない額だし、ディナーも用意してくれるというものだから食いしん坊なパイモンはやけに張り切っていて、二人は言われるがままにアカツキワイナリーのメイドの服に身を包むと、蛍は書庫の整理を、パイモンは屋敷の庭の掃除を任された。最初こそ順調に進んだ書庫整理も、こうも膨大だと疲れてしまうし、何より──
「届かない……」
一生懸命腕を伸ばしてみるけれど、やはり一番上の段には手が届かない。台か何かがあればいいのだけれど、生憎この部屋には無いようだった。下段の整理にばかり気を取られ、上段のことをすっかり忘れていた。始めてすぐの頃はアデリンが指示を出すのにそばに居てくれたけれど、手際の良い蛍を見て大丈夫だと思ったらしい彼女は別の仕事へ行ってしまった。ここには蛍一人しかいない。
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