Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    いなり

    毛の生えた程度で絵を描くのが好きな筋肉ゴリラ。
    海外俳優、アニメ、なんでも好き。

    絵はiPad+Apple Pencil。ソフトはクリスタ。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 101

    いなり

    ☆quiet follow

    まりも(@marimo_london)様の素敵企画、誰でもえるゔぃんSS3月に参加させて頂きました。

    ★お題「ぬくもり」
    ★台詞「君はあたたかいな」

    タイトル「答え合わせ」
    エルヴィンと訓練兵時代の同期で駐屯兵。
    マリア奪還前のお話です。

    「眉毛〜!おまたせー!」

    同期の彼女が手をブンブンと振って歩いてきた。
    眉毛・・・これは訓練兵団の頃から彼女に呼ばれているあだ名だ。(幼少期のあだ名を話したら彼女のツボに入ったらしい)

    同じ訓練兵団で釜の飯を食い合った彼女は30代になってもあの頃と変わらない強気な笑顔で俺を見つければ手を振ってきた。

    同期会・・・というものが開催されかれこれ数年。
    仲間が壁外調査で亡くなったり、結婚して家庭を持ったりなど、その参加数は段々と減り・・・

    「ナイルは?」
    「あーアイツは今夜無理らしい。子供ちゃんが熱出したとかで」
    「あぁ・・・」

    俺は把握した、と頷くと

    「じゃあ、今回は俺とキミと2人だけの同期会だな」
    「そういう事になるね。んじゃ、いつもの店でいいでしょ?」
    「ふふ、高級レストランに変えてもいいんだぞ?」

    すると彼女は驚くと眉を寄せて心底嫌そうな顔になると

    「はあぁ!?ちょっと本気?嫌に決まってんじゃん。こんな色気ない格好だよ?」

    細身のパンツとジャケットというセットアップ姿を同期は両手を広げて見せる。
    俺は思わずはははっと声を出して笑うと

    「キミは綺麗だから何着ても似合うよ。その服装でもレストランに行ったって問題は無さそうだが」

    そう褒めれば、彼女は照れ隠しなのか「うっさい!」と俺のお尻に軽く蹴りを入れると、2人で行きつけの酒場へと向かった。


    自分の事を「眉毛」と呼ぶ数少ない・・・いや、こんなあだ名で俺を呼ぶのは彼女だけで、調査兵団団長という立場になり周りが敬礼をする中俺のケツに蹴りを入れてくるのは彼女しか居ない。
    未だにお互い独身者同士、駐屯兵団の上の立場にいる彼女はバリバリの仕事人間で部下や民間人とも仲良くやっているそうで評判もいい。

    乾杯、という掛け声でグラスをぶつけ合い彼女はグイッとお酒を飲むと

    「んで、おチビくん元気?」
    「ははっ!元気だよ」

    おチビくんとはリヴァイの事だ。おそらく本人が聞いたら「うるせぇぞ年増」と言い返しているのだが・・・きっと今頃兵舎でくしゃみしているに違いない。
    酒を飲みながら駐屯兵団での近況報告や小鹿団長の愚痴、酒癖の悪い司令官の話を聞いては相槌をうち、同意を求められれば確かに、と笑う。

    数ヶ月前の巨人襲来で、調査兵団が駆けつけるまで粘った駐屯兵団兵士の大半は失われた。
    そこには彼女の部下も入っていたらしくその日はわんわんと号泣する彼女に引きずられヤケ酒に付き合った事もあった。
    そんな彼女は俺の腕を見て目を細めると

    「・・・んで、腕大丈夫なの?」
    「んー?」

    俺は何本目かのウィスキーをグラスに注いでいた。俺の右腕は、先日の件で巨人の胃袋の中・・・きっともう溶けてるか道端で吐き出されているかのどちらかだろう。俺は注がれていくウィスキーを眺めながら

    「なんとかなっているよ。リヴァイがママみたいに世話してくれているからね」
    「そりゃ良かった。あぁもう、危なっかしいなぁ・・・ほら」

    そう言うと彼女はグラスが倒れないように手で支えてくれたので思わず笑みがこぼれ「ありがとう」とつぶやいた。

    「リヴァイもキミも世話好きだな」
    「貴方が無茶するのをおチビくんも放っておけないんでしょうよ。私に関しちゃ、周りからはおせっかいオバサンって思われてそうだけどなぁ」

    彼女は頬杖をついてはあぁ・・・と深くため息を着く。
    オバサン、と言っても彼女は昔のまま変わらず綺麗な顔立ちで、化粧をし始めてからもっと美人になった。
    そんな彼女を周りの男が放っておくはずもなく・・・彼女の美貌は俺のいる調査兵団でもちょっとした噂になっている。

    「寿退団って言うのか? 結婚すればいいじゃないか。キミなら引く手数多だろ?」
    「なよなよした男は嫌いなの」
    「じゃあ同じ兵士にすればいいじゃないか」
    「んー・・・兵士ねぇ」
    「悪くないだろう?」

    彼女は目を伏せて少し考えた後、俺をを見つめてニッと意地悪く笑うと

    「私が結婚したら、アンタとナイルだけの同期会になるけど?華が無くなるわよ?」
    「・・・それは嫌だな」
    「でしょ?で、そっちはどうなのよ」
    「俺か?俺は・・・」

    ぐるぐると片手でコップを回しながら俺は返答を探す。こんな職業柄、調査兵団の既婚者は皆無に等しい・・・俺もその1人で、それはきっとこの先も続くだろう。
    彼女に対しての気持ちも、墓に入れるかは分からないがこのまま墓まで持っていくつもりだ。

    「・・・俺は、調査兵団だからな」
    「隠居しちゃえばいいのよ。片手しか無いんだし・・・足引っ張るだけよ。アンタは索敵陣形の考案で死亡率を劇的に減らしたり十分に活躍したんだから調査兵団の中から新しい団長を決めて、後は上で頭だけ回してりゃいいの」
    「っぷ、ははははは!」

    突然大笑いしだした俺に彼女は「はぁ?」と眉を寄せてため息をつくと

    「ねえアンタって、昔っから変な所で笑うよね。大丈夫?」
    「ははは、大丈夫だよ。いや、キミもリヴァイと同じ事を言っていたから思わず笑ってしまったよ」
    「おチビくんとは気が合いそう。」
    「今度連れてこよう」
    「よろしく」

    そう言って俺は残りのウィスキーをぐいっと煽ると静かにテーブルに置く。

    「・・・俺は、確かめたい事がある。だからまだ、団長を退く訳にはいかないさ」
    「昔言ってたアレ?」
    「覚えてるのか?」
    「いや正直あんまだけど、あなた訓練兵の頃ずーっと喋ってたじゃない。断片的だけど覚えてるよ」

    呆れたように彼女は頭をコンコンと細い指で叩いた。父の仮説について、俺はずっと彼女に話をしていた。最初は「頭大丈夫か」と言う顔をされたが無視はせずずっと俺の話を聞いていてくれたのは彼女だけだった。

    「あの巨人になる坊やが出てきてからほんっとこっちも忙しくてたまんないわ。おかげさまで同期は腕を無くして帰ってくるし・・・」
    「その節は心配かけたね。でも、あと少しなんだ」

    ウォール・マリアを奪還してエレンの地下室に行けば父が考えた仮説の答え合わせができるかもしれない。それはもう、手を伸ばせば届く距離にあるのだ。

    意思は固い、俺の目を見つめて彼女はそれを察して苦笑いすると

    「ま、その答え合わせができたら、とっとと帰ってきて隠居するこったね」
    「ああ。それに、もう次の団長は決めてある。」
    「そう」

    そう言うと彼女は拳を突き出すと

    「・・・ウォール・マリア、頼んだよ」
    「ああ。任せろ」

    俺も左の拳を突き出してトン、と合わせた。

    ***

    ずっと片思いしていたエルヴィン・スミス。訓練兵団入団当初、私に向かって仮説という名の外の世界についての話をした時は「この眉毛、頭大丈夫か?」って疑問に思った。

    兵団に所属してから同期会を開こうと言い出したのは私だ。気づいたら目で追っていたエルヴィンはもちろん調査兵団一択で、臆病だった私は駐屯兵団に入団した。彼と疎遠になりたくなくて周りを巻き込んで、ただ彼と繋がっていたかったのだ。

    やがて調査兵団の同期は巨人に食われたり周りは結婚して家庭を持ったり・・・その数はだんだん減りついにナイル、エルヴィン、私の3人だけになった。

    エルヴィンの腕が無くなって帰ってきた時は気が動転しそうになったし、彼が昏睡状態の時も見舞いに来てこっそり泣いた日もあった。調査兵団が解体の危機に逢い、エルヴィンが処刑されそうになった時だって私は彼を守るために偽りの王に刃を向けた兵士の1人だ。
    ・・・次、壁の外に出たらエルヴィンはもう戻って来ないのでは? そう感じた私は怖くなり酔った勢いで「隠居すればいい」などと口走ってしまった。
    案の定彼は 「確かめたい事がある」の一点張り。腕は無くなれどその意思は固かった。きっとあのおチビくんが両足の骨を折っても無駄だろう。

    居酒屋を出た帰り道、少し前を歩く揺れる金髪を見上げ私は

    「ねえ」
    「ん?」

    こちらを振り向いて首を傾げて微笑む彼。思わず私は彼の、無くなった右袖を掴んでいた。

    「ねえ・・・眉毛」
    「どうした、飲みすぎて吐きそうか?」

    違う。私は首を振ると、エルヴィンをまた見上げて

    「答え合わせしたら、絶対帰ってくるって約束して」

    絞り出すように出たか私らしくないか細い声に、彼は目を見開くとフッと目を細めて掴まれた空っぽの袖を見て笑うと

    「君はあたたかいな」

    向かい合わせになると、低く優しい声色で私の頭を撫でた。いい歳して子供扱いされ、顔が熱くなった私は照れを隠すように、彼の袖をぶんぶんと振り回しながら

    「あたたかいって、何言ってんの。腕無いくせに」
    「いいや、分かるさ」

    グッと私は涙を堪えるとそれを見せないようにエルヴィンの袖をまた強く握り、それを顔に押し付けた。

    「キミに宿題を出そう」
    「へ?」
    「俺には、好きな人がいる」

    突然の事に私は顔を上げてポカンとしているとエルヴィンは楽しそうに私を見下ろして

    「歳は俺と同い年でバリバリ仕事をこなす。顔も俺の好みで美人だ。しかし俺の事を眉毛って呼ぶしケツに蹴りも入れてくる女性にしてはかなりの乱暴者でな。女版のリヴァイだと思った方がいい。・・・でも面倒見も良くて、あたたかい太陽のような優しい女性だ」
    「ちょっ、ま、エルヴィ」

    ン、といい切る前にエルヴィンは私の後頭部に腕を回して抱き寄せた。長い付き合えど、こんなに密着した事なんて無かった。初めて全体で感じる彼のぬくもりに私は戸惑っていると、エルヴィンは子供をあやす様にぽんぽんと頭を撫でる。

    「帰ってきたら・・・次は2人きりでレストランに行こう。こっちの答え合わせは、その時に」

    離れ間際にこめかみにキスをされ、私の顔が途端に熱くなる。ゆっくりと身体が離されて寂しくはなるが辛うじてコクリと頷くと

    「・・・分かった。それまでに、考えとく」
    「ああ。いっぱい考えてくれ」

    そう言うとエルヴィンは私の手を取りギュッと握るとゆっくりと歩き始めた。

    ***

    それから数ヶ月が経った。
    あれからエルヴィンが帰ってくる事は無く、答え合わせは出来ぬまま・・・彼の遺体はまだシガンシナ区にあるそうだ。

    私は彼のお墓の前に花を添えると、調査兵団が地下室で見つけた本に書かれた外の世界の報告書を読み上げた。

    「・・・以上。答え合わせの結果でした。」

    ふぅ、と私はお墓の前に座り込むと

    「こっちの答え合わせが出来たけど、私との答え合わせはどうなったのかねぇ」

    硬い石で出来たお墓にデコピンをするとサクサクと草を踏む音が聞こえた。

    「お前、エルヴィンの」
    「あ、おチビくん」

    やってきたのは人類最強のおチビくん、ではなくリヴァイ。 彼は心底不機嫌そうに「その呼び方やめろ」と眉を寄せるとエルヴィンのお墓の前に花束を置いた。

    「・・・お前は責めないのか」
    「何が?」
    「エルヴィンの件だ。」

    エルヴィンではなく、別の兵士に注射器を打ち巨人の能力を手に入れた。その件に関してかなりバッシングされていたのを覚えている。

    「あの人の近くにいたのは貴方でしょ?貴方なりに思う事があっての行動じゃなかったの?」
    「俺は、アイツを・・・」

    黙り込んでしまったリヴァイに、私はふふっと笑うと

    「まあ・・・この眉毛には休息が必要だよね」

    リヴァイは私を見て小さく頷くと兵団のコートの内ポケットをまさぐる。

    「あと、お前宛にエルヴィンからこれを預かった」

    ジャケットの内ポケットから出されたのは手紙。私はそれを受け取ると隣に座っていたリヴァイが立ち上がる。

    「中身は分からん。だが『答え合わせ』と言えば通じると聞いた」
    「っ・・・」

    ドクンと鳴る心臓、気を緩めれば涙が出てしまいそうだ。それを察したリヴァイは背中を向けると

    「邪魔をしたな。あとは2人でごゆっくり」

    そう言って墓地を出ていくと、私はゆっくりと手紙を開いて懐かしい綺麗な字を目で追うと

    「エルヴィン、答え合わせ・・・合ってた」

    あの日の夜、彼が抱き締めて、握ってくれた大きな手のぬくもりを思い出すと涙が止まらず、私は年甲斐もなく声を出して大泣きした。

    END.
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💘💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works