ターバン○○○
しゃらりと金属がふれあう軽やかな音がする。楽師が奏でる音楽は不要だ。ここに必要なのは目の前で華麗に舞う踊り子と、それを見る俺だけ。
赤い絹の向こうに透けて見える褐色の肌から汗がひとしずく垂れた。上質の絹は音も立てずに柔らかな隆起を描いてふわりとはためく。
喉の奥から愉悦が漏れでてしまうのは仕方がないことだ。ずっと、これが見たかった。
「ははっ、いいぞ。もっとだ。もっと踊れ。この俺を喜ばせてみろ」
たん、と床を踏み鳴らす音を合図に踊り子の動きが激しくなる。
最高にいい気分だ。
月も星も今宵は美しい踊り子のために輝いている。そしてこの踊りは俺だけのために捧げられるのだ。
まるで王様にでもなった気分だ。
こっそり持ち込んだ酒は故郷の美酒で口あたりがよく、いくらでも飲めそうだ。
学園内での飲酒は禁じられているがここは寮の、誰も入ってこないよう鍵をかけた部屋だ。
大きく開け放たれたバルコニーは軽く認識阻害の魔法がかかっており、外からは誰が立っているのかなど見えないようになっている。
みんな、思いもしないだろう。この寮の長たるカリム・アルアジームがターバンだけを身に纏い月明かりの下で踊りくるっているなんて。
ああ、なんて愉快なんだ。
「おい。踊りはもういい。こっちに来て酒をつげ」
空になった盃をみせると、いまや俺のいうことを従順に聞く召使いは「はい。ご主人様」と返事をしてこちらに歩いてくる。
カリムが跪くと長く垂らしているターバンの裾が床につきシャラシャラと音を立てた。
「遅い。走ってこないか」
「申し訳ありません。ご主人様」
頭を下げたカリムのうなじが晒される。浮きでた汗が一粒流れ落ちた。呼吸が荒い。今まで踊っていたせいだろう。鎖骨に玉のように丸い汗が浮かんで思わず舐めとりたくなるのをぐっと堪える。
カリムの手が酒の瓶を持ち上げる。少しふらついているのは踊り疲れたからだろうか。
「あっ」
間抜けめ。
案の定手元が狂ってカリムは俺の足に酒をこぼした。ズボンに大きく濃いシミができた。
「おい、濡れたぞ」
「申し訳ございません」
洗脳したカリムはうつろな目でこちらを見た。ちっ、もう少し焦ったりすれば可愛げがあるものを。
「お前がこぼしたのだから、きれいにしろよ」
そう言ってみるとカリムは頭のターバンを取って拭こうとした。
「おいおい。そのターバン、いくらすると思ってる。酒なんて付けてみろ。匂いがついてしまうじゃないか。誰が洗うと思ってるんだ?」
はじめて、洗脳中にカリムは少し困った表情を浮かべた。悪くない顔だ。
「……………………」
「どうした。何をすればいいかわからないのか。素直に俺に聞いてみろよ。教えてやってもいいぞ」
するとカリムは膝を床につけたまま、俺に向かって手を合わせた。
「教えてください。ご主人様」
カリムの口からご主人様という音が聞こえるとゾクゾクする。俺はゆっくりとズボンの濡れたところを指差した。
「舐めろ」
理解ができないのか、カリムの反応はない。
俺はカリムの頭を掴んで自分の股ぐらに引き寄せた。
「お前が舐めてきれいにしろよ」
「かしこまりました。ご主人様」
今度は理解できたらしい。カリムはズボンに顔を近づけてから口を開け舌を突き出した。
「おっと、手は使うなよ」
カリムが持っていたターバンを取り上げて両手首を縛り上げると一瞬、反抗的な目をこちらに向けた。
「なんだ。ご主人様のすることに文句があるのか」
「いいえ」
魔法がしっかりかかっているらしく、いつもならムカつく正論を振りかざすカリムが大人しく這いつくばる。いい眺めだ。
「…………はっ………はっ……………」
懸命に濡れた箇所を舐めながら息を吐く姿は、犬のようだ。普段なら絶対に見られない光景に興奮する。
あのカリムが、俺に跪くなんて…………ッ!!
「ふっ……くくくっ…………なんてザマだ。カリム! 従者にこんなことするなんてアジームの名が泣くぞぉッ!?」
「はっ、はっ……はい……申し訳、ありません。どんな罰でもお受けします」
「ふうん? お前、俺にお仕置きをしてほしいのか?」
カリムが俺の顔を見上げた。洗脳の証である赤い色が光る。対象的に何の表情もない顔がはい、と同意の言葉を口にした。
ああ、この顔がぐちゃぐちゃになるところを見てみたい。
「いいだろう。お仕置きしてやる。こいッ……!!」
拘束されたままのカリムの腕をとって立ち上がらせる。フラフラとふらついているので仕方なしに抱き上げる。まったくご主人様に世話を焼かすな。
夜は長い。これからどんな声でカリムが泣くのか、想像しながら上唇をそっと舐めた。