⇄【オル相】「君に触れてもいいのかい」
お付き合いをする運びとなって久しいのに、この人は恋人という肩書を持ってしても俺が許可を出さないと触れてくる気はなかったらしい。
「どうぞお好きに。ただし他人の目のあるところでは自重してくださいね」
「それは、勿論」
交際はいい。俺も望んだことだから。
だが吹聴は困る。祝福の裏返しだとわかる揶揄いも、それ以外の主にナンバーワンに付随してしまうスキャンダルやゴシップの類にも一生縁なく生きていきたい。そんな俺の想いを汲んでくれている、と思う。
だからこそ、忙しさにかまけて、交際を始めたという事実にどこか浮き足立ったまま二人きりの時間を敢えて避け続けて来た結果が、今現れている。
左手は怯えながらも近づかずにはいられないとでも言いたげに、ゆっくりと伸びて来た。
「……」
指先が顎に触れる寸前に戸惑う。いいのかい、と視線が何度も問い掛ける。
どうしてそんなにも、繰り返し確認する必要があるのだろう。
まどろっこしいやり取りは性に合わない。だから手首を掴んでべたりと頬に触れさせた。迷う暇があるならさっさと触ってもらおうじゃないか。
こうしたかったんでしょう?と視線を送った先でオールマイトは僅かに目を眇めて俺を見た。
ばくん、と心臓が跳ねる。
頬に伝わる熱より強く感情が流れ込む。
「もう、逃してあげられないよ」
低く、官能的な声が鼓膜を振るわせる。
しつこいくらいの確認はそのためだったらしい。
残念ながら、見せないにしてもこちら側にもそのくらいの覚悟は既にあるので。
「上等ですよ」
惚れているし、惚れられている。
改めて思い知らされた事実を刻み込むように、俺は頬に添えさせた恋人の大きな手の甲に自分の手を重ねる。
逃すつもりはないとそのまま指を絡めれば、オールマイトは薄く笑って俺の安い挑発に乗った。