添い寝【オル相】(泊まって行ってくれないんだよね)
寝袋に潜り込む相澤の姿を遠目に、オールマイトは多分認識が間違っていなければ恋人であるはずの彼と夜を共にしても朝を迎えたことはないのだという記憶を思い返して微妙な気持ちで眺めていた。
夜の営みを終え、幸福感に満たされたまま抱き合って眠りたいのにどうしてか相澤はそれを頑なに拒み、どんなに喘いだ夜もふらつきながら帰って行く。
気絶するほど抱き潰すのは容易いのに、理由は説明されることがないけれど絶対に隣で眠らないという相澤の決意を強引に覆すのはどことなく気が引けて結局今の今までできずにいた。
職員室での片隅の彼が、いつもの黄色の寝袋に潜り込む要因が昨夜にあるのだとしても。
横たわった瞬間に眠っているのだろうなと思う。
オールマイトは手に持ったファイルを胸に抱いたまま気配を消して黄色い寝袋の塊に近づいた。
覗き込んでも起きる気配はない。
「……」
ああ、ここが自室で、ここがベッドであればいいのに。
そうしたら、絶頂の余韻に息も絶え絶えな相澤を抱き締めて余すところなくくちづけてそのまま眠りに落とすことができるのに。
したことはないけれど。
多分できるのに、相澤がそれを許さないからオールマイトは今日も寝袋で仮眠をとる相澤のすぐそばで、添い寝の代わりに沈黙と共に見守るだけだ。
「いつになったら泊まってくれるのかな」
撫でようと伸ばした手を途中で止めてぼそりと呟いた本音がある。しかし応えはない。
「……よし、テストの丸つけしちゃお!」
自分を鼓舞するために口にした独り言に、小さな天啓があった。
「日曜の朝飯、パンが良いです」
振り向いた相澤はしっかりと目を閉じている。
幻聴か、それとも?
「美味しいパン屋さん知ってるんだ」
わざと聞こえるように向けた声は、眠り姫の鼓膜を震わせたのだと信じた。