キ学煉義パンツの日「わっ!」
ベランダで洗濯物を干していると背後から大きな声が聞こえた。振り返った瞬間、手に持っていたものを煉獄が奪い取る。怪訝に思いその表情を窺うと、やや赤面して何か動揺しているようだった。
「こ、これは自分で、干すから……!!」
そう言って後ろ手に隠したのは、煉獄のパンツだ。俺は困惑した。何故、パンツだけ? 首を傾げ、しばらく考えたあとハッと気づく。
「──恥ずかしいのか?」
「……っ」
分かりやすく反応する煉獄。俺は少し呆れてしまった。煉獄が俺のマンションに移り住む形で始まった同棲生活。ルームシェアではないのだから、食事も洗濯物も一緒に……と考えていたのだが。まさか、煉獄がこんな反応をするとは思わなかった。
「別で洗うわけにはいかないだろう」
「それは、そうだが……」
パンツを背後に隠したまま、煉獄は目玉を忙しなく動かし挙動不審である。まるで思春期の少年みたいだ。これはこれで愛おしいと思うものの、男同士でありこれから一緒に暮らすのだから面倒なことは避けたい。
早く貸せと促してもモジモジしているので、俺はつい意地悪な気持ちになってしまった。
「……いつも躊躇いなく、俺のパンツを脱がせるくせに」
洗って干すどころか、何回脱がされたか分からない。そう零すと、煉獄の顔はいよいよ茹蛸みたいになり、それどころか額に汗まで滲ませようやく観念して濡れたパンツを引き渡した。
「そうだな、すまん…………これを、頼む」
恥ずかしさに耐えられないのか片手で目元を隠しつつ、顔を背けている。そこまでか? とほとほと呆れ果てたが俺は気を取り直し、煉獄のパンツをベランダに干した。あまりに初心な反応をされると、俺だって調子が狂う。ただでさえ、初めての同棲生活で浮足立っているのに──。
見上げれば薄い水色が広がる春の空。日の光は穏やかに降り注ぎ、眼下では桜の花が咲き始めていた。新しい一年が始まる。
終わり