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    「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。

    #クロロレ
    chloroethylene

    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探しているがイエリッツァに中々辿りつかない。彼の目からすれば同僚であるイエリッツァは疑いにくいのだろう。事態が膠着したまま日数を重ね商人から依頼された盗賊の征伐を終えた晩にローレンツはクロードの部屋を訪ねた。

    「クロード、君の記憶でも月末だったか?」
    「そうだ。ただ、知っていて犯人を泳がせていた可能性もある」

     クロードは五年後のクロードにとどめを刺したと言うベレスをとことん警戒しているがローレンツには想像がつかない。ベレトはベレトだ。ダスカーの悲劇で傷ついたファーガスの学生たちに真摯に寄り添っていた姿しか浮かばない。

    「君の体験を思えば仕方ないのだろうがそれでも穿ちすぎだ」

     エーデルガルトの所業についてはローレンツもクロードも庇いようがない。入学早々盗賊を雇ってクロードとディミトリを殺害しようとしただけでも噴飯物だし五年前に惨劇が起きたルミール村は帝国の領土だ。そしてローレンツの記憶では生き残った村人を保護したのは帝国ではなくセイロス教会だ。そんなエーデルガルトにベレスが与した理由は何なのだろうか。グロスタール家が帝国に与したのは領地がルミール村のように扱われるのを恐れてのことだった。ローレンツはクロードの机の上の本を大きさ別に積み上げてから言葉を続けた。

    「案外、何故そんなことをしたのかエーデルガルトさんから話が聞きたかっただけかもしれないではないか」

     ローレンツの素朴な言葉を聞いてクロードはぽかんと口を開けた。中身はローレンツより一歳下なだけだが年相応の少年らしい表情をしている。

    「倫理観が好奇心に負けただけってことか?だがレアさんの代わりに勝手に戴冠式に出てたんだぜ?」

     今後の展開を知っているからこそ現在のローレンツはクロードの深夜徘徊について好意的に評価が出来る。しかし学生時代は好奇心に負けて規則を破るクロードをよく思っていなかった。

    「それだって単なる好奇心の発露かもしれない。君にも心当たりがあるだろう。だが僕も人のことは言えない」

     教師陣に対してイエリッツァが怪しい、とローレンツが示唆していないのは今のクロードなら時間さえあれば五年後を知る自分たちですら知らない何かを突き止めるのではないかと期待しているからだ。クロードはローレンツの真っ直ぐな視線に耐えかねて視線を外した。その先には工具がいくつか置きっぱなしになっている。

    「期待に応えられなくて悪かった。明日、先生たちにそれとなく伝えよう。俺たちに知らされてからもう十日になる。探索の時間はいくらでも欲しいがさすがにフレンが気の毒だ」
    「分かった。君に任せる」

     セテスも自力で一日二日はフレンを探したはずだから実際はそれよりも数日長い。月末までフレンは堪えられると知っているがクロードの言う通り辛い時間は短い方がいいに決まっている。だがローレンツの記憶に残るクロードらしからぬ判断だった。そう感じてしまったことが申し訳なくてローレンツも先程のクロードのように相手から視線を外した。

    「なんでそんな意外そうな顔してるんだ?」

     褐色の手が白い頬を挟んだ。彷徨う視線をこちらに向けろとクロードは言いたいらしい。

    「すまない、どうしても自分の記憶と比べてしまう」
    「でもお前の目の前にいるのは俺だよ。お前に心を開こうとしなかった奴じゃない」

     緑の瞳がローレンツを捉えた。直視したら目を傷めてしまうほど眩しいと思ったから五年前の自分は目を閉ざしたのだろう。

    「明日、先生方に言うなら君抜きで戦闘があるだろうから失礼するよ」

     クロードの瞳に映る自分をこれ以上見ることにローレンツは耐えられそうになかった。

     翌日、イグナーツが駆け込んできてイエリッツァの部屋で倒れているマヌエラを発見、死神騎士との戦闘の後にフレンと昨年度の学生だと自称するモニカが保護された。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090