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    「説明できない」53.地底・下
    赤クロ青ロレの話です。

     ゴネリル領のすぐ近くに異世界としか言いようのない空間が広がっていた。広大な空間には芸術に詳しいイグナーツですら見たことがないという建築様式の建物が見渡す限り連なっている。ローレンツにはよく理解できないが内部の機構は素晴らしいらしく好奇心旺盛なクロードがいちいち言及していた。

     こんな風にクロードがはしゃいでいたのは五年前、儀式へ参加するために聖墓に皆で降りて行った時以来だろうか。あの時もクロードは地下に降りるための仕掛けの動力源が何であるのかを気にしていた。あの時ローレンツは動力源は魔道に決まっていると思い込んでいた。

     魔道を利用して何かを動かせば痕跡が残る。修道院は魔道研究の場でもあるのでそこらじゅうに痕跡が残っており痕跡など気にも留めなかった。だがここはおかしい。こんな広大な空間に黒魔法の痕跡が全くない。黒魔法を使っていないとなると人力や牛馬などであらゆるものを搬入し組み立てたことになる。動力源は一体なんなのだろうか。ローレンツはそこに大きな深淵があるような気がした。施錠された部屋に設置されていた巨大な兵器が闇魔法で動いているのが分かってむしろ安心したほどだ。

     今回は部隊が四つに分かれている。ローレンツはクロード、マリアンヌと共にまず外周の敵を排除しタイタニスと呼ばれる巨大な魔道兵器を破壊するようにベレトから命じられていた。その後、他の部隊と合流して敵の首魁が潜む内部に侵入していく予定だ。マリアンヌはさっそく別の地点から突出してきたラファエルにリブローをかけている。アガルタ兵を一撃で倒したクロードは前に出て周囲の様子を窺い安堵のため息をついた。

    「何か気になることでも?」
    「俺がアンヴァルでどんな目にあったかマリアンヌも見てたよな?先生やリシテアと同じ部隊だからイグナーツが心配でな……」

     イグナーツはハンターボレーが使えるので有り得ない話ではない。急に強敵のど真ん中に放り込まれる恐怖を知っているクロードにとっては実現する悪夢の内のひとつ、になったようだ。奪った鍵を弄びながら言葉をぼやかす。

    「確かに……連戦で皆の疲労が心配だったからとおっしゃっていましたがあれは……私のリブローの範囲外でしたし…」

     クロードと同じくマリアンヌも言葉を濁した。

    「流石に初めて見る謎の兵器がある場所では流石の先生もあんなことはやらないだろう」

     ローレンツは一応クロードに反論してみたが確かに初見の魔道兵器であるタイタニスがなければやりかねないとは思っている。リシテアは全く悪くないのだが部隊編成を聞いた時にリシテアと別の部隊で安堵した。イグナーツは今も別の理由で緊張しながら弓を引いていることだろう。

     きょうだいと合流した後が危ないな、と言いクロードは敵から奪った鍵で扉を開けた。辺りを見回しローレンツとマリアンヌを呼び寄せとある方向を指さす。扉の内側は落雷にも似た光線と音が上から無作為に降り注ぎ異形としか言いようがない魔道兵器がいくつも鎮座していた。

    「あれはどう見ても雑魚じゃないがまだ俺たちに気づいてない。あの場所ならさっきいた辺りから攻撃できるだろうから一度交代しよう」

     一度開け放ってしまった扉からは敵が攻め込んでくるだろう。ローレンツはマリアンヌとクロードを先に元の位置に戻らせて槍を握りしめた。数人のグレモリィやウォーロックがローレンツたちを探しに扉の外に出て来たがじわじわとクロードたちのいる地点へ後退しつつすべてローレンツ一人で屠った。

    「戦況は?」
    「ここからだとあのデカブツの反撃が届かないんで楽だね、ただ俺とマリアンヌだけだと決め手にかける。頼むよローレンツ先生」

     大将戦に備えてフェイルノートを温存しているため仕方ない話だった。決め手にかけるとクロードは言っていたがそれでも気絶はさせてある。ローレンツがタイタニスに向かってライナロックを放ちとどめを刺すとクロードはその奥にいる魔道士に向かって矢を放った。その背にリーガンの紋章が浮かぶ。彼を動かす赤い血がフォドラのものであることを示す三日月が不気味な地下都市で明るく輝いた。

    「ん?!何か様子が変わったな。ちょっと音を聞きたい」

     そう言ってクロードは口の前に人差し指を立てた。静かなマリアンヌに頼むよりそれこそひとり勝手に口を閉じる方がよほど静かになるだろうと思ったがローレンツも口を閉じてやった。

    「中の雷みたいな音が消えた気がしないか?」
    「言われてみればそうですね、先程クロードさんが倒した魔道士が操っていた可能性があります」
    「戦闘中にあんなもんをいちいち打たれたら避けるのも大変だからな」

     ローレンツとマリアンヌがクロードと共に扉の中へ入っていくと意外なことにセテスがタレスと戦っていた。過保護なセテスはフレンを少し離れた場所において守っている。フレンは前方にいるセテスではなく何故か開いた扉の周りばかり気にしていた。

    「またかよ!!」

     クロードが小さく悲鳴をあげたかと思うとその身体が白い光に包まれていく。前回、言われるがままにクロードをワープでエーデルガルトの目の前に放り出したことを気にかけていたリシテアもベレトに向かってワープの呪文を唱えた。見覚えのある光景だが今度はクロードたちのいる地点まで障害物がない。フレンの方が堅実なのかもしれないとローレンツは思った。

     闇に蠢く者たちの指導者であったタレスは結局、ベレトによる天帝の剣の一閃でとどめを刺されたが最後まで負けを認めず同胞を退去させない状態で再び光の杭を自らの本拠地に向けて放った。そこが大きな違いなのだろう。

     体が弱っていたにも関わらずレアは迷うことなく皆の前で白きものに姿を変え五年前と同じく皆を守ってくれた。女神に使わされた瑞獣は残された命を同胞でもないヒトを守るために燃やし尽くそうとしている。

     明け方に見た悪夢のようだと思いながらローレンツたちは崩壊する建物の瓦礫から瀕死の大司教レアを守りガルグ=マクへと帰還した。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    9.典儀・上

     情報には出元と行き先がある。それを見極めずに判断を下すと間違いが起きる。前節、カトリーヌがロナート卿の所持品から見つけた大司教レアの暗殺計画に関する密書は様々な波紋を読んだ。真偽の程は定かではないが対応せねばならない。

     謁見の間に呼び出されたベレトから今節の課題を聞いたクロードは教会があの密書をどう判断したのか悟った。今回も彼の記憶と同じく何者かが教会を混乱させる為に作成した偽物であると判断したのだ。そうでなければ士官学校の学生に警備や見回りを担当させないだろう。だがクロードにとっては丁度良かった。賊の狙いが何処であるのか確かめる為という大義名分を得て修道院の敷地内を直接、自由に見て回れる。賊が聖廟の中で何かを探し、奪いに来たがそこでベレスが天帝の剣を手に取り賊を撃退したことをクロードは覚えているのだがだからといって日頃入れない聖廟を直接探る機会を逃したくはなかった。それにロナート卿の叛乱の時と同じくまたクロードたちが当事者になっている。詳しく調査しておいて損はないだろう。

     ガルグ=マクにはフォドラの外からやってきた住人がクロード以外にも存在する。自然と祖先を 2082