蝉が鳴く。
蝉が鳴いている。
太陽が照っている。
空は青い。
雲は白い。
朝はまだ過ごしやすいのだが、これからどんどん世界は熱を持っていく。じっとりとした空気と元気に明るく照りつける太陽、
「ラヴクラフト……何をしているんだ?」
早起きをしてしまったラヴクラフトは、本日、やるべきことのために倉庫をあさり、目的のものを持ち、敷地外に出ようとした。
井伏鱒二が彼を呼び止める。
「司書。約束。商店街。おばあさん、庭、整えます」
「……整え、る……?」
ラヴクラフトの言葉は独特だ。これでも、主であるエドガー・アラン・ポーが言うにはまだ前よりもマシにしゃべられるようには
なっているらしい。司書は、鱒二たち文豪を転生させた特務司書の少女のことだし、彼女と、約束をした。商店街にいるおばあさんの
庭を整えると言っていたが、手に持っているのは、
「整えます」
「……整えると言っても手にあるのはポリタンクだが……」
「キョウチクトウ。咲きました。庭。おばあさん、動きづらい。整えられない。野焼き。司書。言いました。やる。楽。探しました。
私、ポリタンク、灯油。ありま」
「冗談で司書も言ったと想うんだが……!?」
ラヴクラフトは野焼きを覚えていたが野焼きはやってはいけないのである。場合によっては家事になる。いけない。危ない。
商店街のおばあさんが年なのか動きづらく、そのため庭が整えられないので特務司書の少女がやると言ったのだろうかとなるが、
「司書。ファウスト。来る。憂さ晴らし、する。します」
「よし。司書を止めるぞ」
彼女はファウストが、結社の彼がそう好きではない。それでも以前よりはマシになったのだが。ストレス解消に庭を整えるというが、
恐らくは刃物を持ってきて庭を切りつけたりするような気がしないでもない。
「井伏。どうし」
「佐藤先生。司書を止めないと。刃物を振り回して庭を燃やす可能性が」
「何があった!?」
バイオレンスな表現に佐藤春夫が叫び声をあげた。
ポリタンクは没収されました。
中の灯油は今年の冬に余ったものでした。特務司書の少女がポーにすごく怒られていました。野焼きは冗談だったんだよとは
司書は言っていましたがストレスを晴らすために高山虚子や河東碧梧桐とお出かけしていました。
「燃やす。駄目、駄目、です?」
「キョウチクトウは毒の花だからな。野焼きはまずやっちゃだめだが、キョウチクトウは燃やすと毒が出るんだ」