あの頃の話 花のような甘い香りに、お酒みたいにくらくらする香り。様々な香りがする艶めかしいボディラインをした美人なお姉さん三名に、私は囲まれていた。
「ふぅん」
「こういうのが今の趣味なわけ?」
「平和になったってことかしら」
背の高いエレゼンの三人。見上げるとおっぱいが屋根のようでちょっと楽しい。
「えっと、何のことだ?」
「……あいつよ、あいつ」
「今のあなたの情夫のこと」
「い、いろ??」
何のことか分からなくて首を傾げると、良く知った名前を告げられる。
「エスティニアンよ、エスティニアン」
「娼婦になりたての子に同情したとか?」
「ありえる〜。平和ボケしてそう」
綺麗なお姉さんたちが次から次へと話をする。
私が首を横に振ろうが縦に振ろうがもう関係なさそうだ。
「優しい男じゃないでしょ?」
「絶対キスしてくれないし」
「濡れたらすぐ挿入するし」
「出したらすぐ帰るし」
「あいつは誰でもそうだからね。抱いた後にベッドで一緒に寝もしないんだから、気にしちゃだめよ」
次々と私の知らないエスティニアンの話が飛び出てくる。
本当に同じ人なのだろうか。
暇さえあればキスしてくる。唇だけじゃなくて、髪や頬や指や腕にもたくさん。
もう無理と言っても舌と指でとろとろになるまで弄り続けてくる。
終わったあとはずっと傍にいて、髪を撫でたり抱き締めたり、上に乗せられたり。私が寝るまでずっとくっついている。
同じ人とは思えない、私の知らないエスティニアンの話。
「――って、言われたんだ」
娼婦さんたちに囲まれて同情された話を家に帰ってエスティニアンに伝えると、エスティニアンは眉間を押さえて項垂れてしまった。
「……悪かった。嫌な思いをさせた」
「私は昔の話を聞けたから面白かったぞ。エスティニアン、好かれてるのか嫌われてるのか良く分からないのが面白いな」
今でも彼女たちで発散していたなら、み成熟な自分の身体が悲しくもなるけれど。そういう器用な人じゃないのも、もう分かっている。
嫉妬というよりも、若い時のエスティニアンに会えたお姉さんたちが羨ましいくらいだ。
「今のエスティニアンと全然違うから、不思議だなって思ったぞ。でも、何だかしっくりもして……何でだろう~って考えたんだ」
ベッドの上に抱っこで運ばれ、エスティニアンの膝の上に乗せられる。
きっと顔を見られたくないのだろう、顔を隠すように背中から抱きしめられて思わず笑ってしまった。
「何をだ?」
「初めての時は、確かにエスティニアン乱暴だったし雑だったかも! って」
処女じゃないって嘘をついてエスティニアンに抱かれた、初めてのあの日。
お願いするまでキスもしてくれなかったエスティニアン。
あの時から、エスティニアンは変わっていった。
「――あれは、…………悪かった」
「忘れてないけど、ちゃんと上書きされてたぞ」
「覚えていたら上書きじゃないだろ」
私も嘘をついて処女じゃないと見栄を張ってしまったあの日の夜。
そして、やり直させろと言われた次の日のこと。
背中を預けると分厚い筋肉の感触と、熱いエスティニアンの体温が伝わる。すっぽり包んでくれる大きな身体が好きだ。
「お前は、俺の特別なんだ」
後頭部に唇が触れる。耳に甘やかなリップ音が響く。
「……うん」
背中側でよかった。思う存分ニヤニヤできる。
「あ、そうだ」
「まだあるのかよ」
エスティニアンの両手が私の胸を包む。
「全員、おっぱい大きかったぞ! やっぱり大きいのが好きなんだな……」
包まれると姿を消す自分の胸に視線を落とすと、エスティニアンにがぶりと首筋を噛まれた。
終わり