初夏 日は落ち、帰路につくサラリーマンが駅から放出される。梅雨明けも近いこの時期は夜でもじっとりと空気が重たく、一様に額に汗を滲ませくたびれた顔で歩いていた。
リョータと牧が一緒に暮らし始めて、初めての夏である。
「あっぢ〜!!!もうやだぁ、」
冷たい空気を求め喘ぐ頬に汗が伝う。ぱたぱたと、隣にいる大男より薄い手のひらで仰いではいるものの少しの風も送られておらずただの気休めだ。
「暑いな」
「平気そうなツラしやがって…」
外気に毒でも入ってるかのようなリョータとは対照に、牧は涼しげに口端を上げ微笑んでいる。上界から見下ろしているようにも見えるその顔を少しでも歪ませてやろうと、体当たりしながらピッタリと身体をくっ付けてやってるのに戯れてくる動物を見るようなむず痒い瞳で見つめられ、なんとなく心地が悪くなるだけだった。
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