仕事仕事に追われる日々で、けれど自分で望んだ立場に就いてのことなので、多忙を嘆くつもりはない。ヴェインをはじめリーダー役の者たちにも同様の負荷を負わせていることも、申し訳なくはあるが、彼等もこの国を良くしていきたいと志を同じくしているのだから、受け入れてくれているものと信じている。
そんな多忙な身であればこそ、息抜きのイベントは大事なんだ。イベントだからこそ治安維持のため普段以上に警邏の人数を割くが、できる限り全員が半日以上のオフになるように組んでいる。騎士団内でも無礼講で、それぞれに企画して楽しんでいいことにもしている。
そんな数あるイベントのなかでも、ランスロットの愛するものがやってくるという数日前、ジークフリートがフェードラッヘへやって来た。個人的には「帰ってきた」と言いたいところだが、今彼の所属するのはグラン率いる騎空団であるのを忘れないよう、自戒のためにその言葉は、脳内であっても選ばない。
訪れることは手紙で予告されていたから、こちらも当然予定は調整している。一晩たっぷりと、それから到着した昼間の数十分。彼も愛する城下町を、視察がてら散歩するのがお決まりのコースだ。
いとおしげに街を見る目が店先や街路樹の飾りに移ったのを見て話は数日後のハロウィンのことに流れ、騎士団の采配についても口にした。
「昔から、おまえはハロウィンが好きだったな」
「えっ」
「覚えていないか? 黒竜騎士団のころにも進んで企画していただろう。俺はそういう気遣いはからっきしだったから、おまえに助けられていたな」
「ああ、そっちの……そんなこともありましたね」
「ヴェインからの被害届も聞いているがな」
「ちょっ……!」
安堵に胸を撫で下ろしたところで悪戯に笑うジークフリートさんに覗き込まれ、思わず数歩後退る。ガキ大将時代を恥と思うわけではないが、このひとの前でだけ、未熟を煮詰めた黒歴史だ。こんなふうに思うことこそ、未熟の表れなのだろうが。
(つづけたい……)