花と、香炉と、秘密と。 今日は、炭治郎が杏寿郎の屋敷に来る日だった。無限列車の戦いで死にかける前、継子にして鍛えると彼に約束したものの、回復してからも前ほど体が動かない杏寿郎は、同じく引退したが余力のある宇随に彼を託すことにした。だがときどきは炭治郎は杏寿郎に会いに煉獄家にわざわざ通ってくれている。律儀な性格のあの少年は、来る前日にはきちんと鴉を飛ばしてくれていた。
彼のそういう生真面目さが、自分にはありがたい。おかげで、人より鼻の効く炭治郎が来る日は、香炉を焚いていろいろとごまかすことができるからだ。
彼はまだ十五歳の少年だ。杏寿郎が何の為に母の形見の香炉で、花の香りの香を焚いているかなんて、きっと考えもつかないだろう。
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