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    ニシカワ

    @psynk

    ジェイアズ・イドアズ沼在住ジェ推しフロ中毒患者。アズ大好きなジェ&フロが生きる糧。

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    ニシカワ

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    🦈のふりして🐙にちょっかい出そうとしたらとっくにフロアズしていたみたいで自爆した🐬のジェイアズ

    #ジェイアズ
    j.a.s.

    【ジェイド・リーチはフロイド・リーチがうらやましい】 誓って言える。決して下心などは無かったのだ。それはそれは可愛らしい、稚魚の悪戯のつもりだった。すぐにネタバラシをする気でいたし、そもそも続けられるほどの辻褄だって合わせていない。
     片割れに許可を取る前にタイを解いてシャツのボタンを二つ外した。目と声を魔法で変えて、髪に手を入れ分け目を変えた。好奇心は猫をも殺す。そんな陸のことわざを思い出したが、まさかウツボまでは殺せまい。そう思ったから。だから僕は、愛しの片割れに姿を変えて、VIPルームの重厚な扉を蹴破った。
     その時は、とてもわくわくとした気持ちで。
     幼い頃より何度か繰り返してきた入れ替わりのこの遊び。髪型を変え、口調を変え、態度を変えればそれだけで大抵の人魚は僕達の入れ替わりには気付かなかった。色や形を変える魔法を覚えてからは、両親ですら疑問を抱かず僕をフロイドと呼び、フロイドをジェイドと呼んだ。最近では魔法の精度も真似をする技術も上がっていて、自分自身ですらフロイドとの見分けが付かないほどだ。鏡ではなくガラスの向こうに片割れが居るのではないかと思うくらいによく似ている。そんな自分の姿を見て思ったのだ。果たしてアズールはこれが僕だと気付くだろうか、と。一度そう考えれば、僕の好奇心はおさまらなかった。
     いつしよう。どのタイミングで試してみよう。もういっそ、たった今にも試してみたい。そんな事ばかりを考えて、ようやく訪れたのが今のこの瞬間だった。
    「アズール、おまたせぇ。今日の賄はー、エビのクリームパスタだよぉ。いーっぱい食べてぷにぷにのタコちゃんになってねぇ」
     機嫌良く丸いトレーを翻し、アズールの目の前でクロッシュを開けた。出来たてのパスタは本物のフロイドが作ったものだった。僕がアズールにお届けしますねとそう言って、先ほどフロイドから受け取った。有名リストランテの息子である彼の、その肥えた舌までを誤魔化せる自信はないからだ。
     にこにこと機嫌の良い時のフロイドを模倣して、賄をトレーごと執務机の端に置いた。僕が僕だと気付かれなかったら、向こう一週間はアズールとの会話の種に困らない。気付かないなんてひどいですと可愛らしく泣き真似をするたびに、アズールは苛々と言葉を返すだろう。そしてもしも気付かれたとしたら、それは非常に残念だけれど、それでも僕は内心よろこぶはず。自分自身ですらも見分けがつかない外見を、アズールに言い当てられるのだ。きっとその快感は言葉にならない。
    「まったく。もう少し静かに入って来られないんですか」
     特に違和感を覚えた様子もなく、アズールが呆れたように声を聞かせた。それから、開けっ放しの扉を指先ひとつで静かに閉じる。魔法は万能ではないとよく聞くが、このひとを見ているとありとあらゆる物事に応用の利く、何よりも優れたすべのように思えてしまうから不思議だ。死者を蘇らせる力を持っていると言われても、アズールならばと信じてしまいそう。
     そんな彼を欺く事は、本当に可能なのだろうか。
    「用事が済んだのなら早く持ち場に戻りなさい。今日の売り上げ目標は達成したんですか?」
    「ハァ? そんなん知らねーし。ジェイドに訊けばぁ? オレは今からきゅーけーなの」
    「お前、昨日もそう言ってサボってましたよね。その分給料から天引きしますからね」
    「えへへ。アズールのそーゆーとこスキだよぉ」
     金儲けに興味の無い僕達兄弟を知っていての発言に、どうしてもフロイドへの甘さを感じてしまう。確かに、気分ではない時のフロイドに何を言っても仕方がないとわかってはいる。それでも同じことを僕がしたら、アズールはどうするだろう。とてもフロイドと同じセリフを口にするとは思えない。
     本音を言えば僕はいつも少しだけ、不満と嫉妬を覚えていた。
    「フロイド」
     賄いを食べ終えたのだろう。
     帽子を顔に被せてソファに寝転ぶ僕を覗き込むようにして、アズールが片割れの名前を呼んだ。ジェイドではなく、フロイドと。
     僕はそれに笑ってしまいそうな充足感と、それから案外大きい落胆を覚えた。相反する二つの感情が複雑で、面白くて、愉快で、不愉快だ。もう少しフロイドを愉しんだら、ネタバラシをしてみせよう。すぐに気付いてもらえると思っていたのに悲しいです、としくしく泣いて責めてやろう。アズールはどんな顔をするだろう。驚くだろうか、怒るだろうか。それとも呆れてしまうだろうか。想像に想いを馳せながら、僕はフロイドの返事を真似て顔の上から帽子を外した。なぁにぃ~、と。
     唇にやわらかい感触を覚えたのは、それと同時のことだった。
     一瞬、自分が何をされているのか分からなかった。焦点が定まらないほどの距離に、アズールの白い顎がある。お気に入りの艶ぼくろがぼんやりと見えていて、なんとなく魅入ってしまった。
     近すぎる距離。は、と湿った呼吸が唇に当たる。アズールのコロンの香りがすぐそばにあった。いつもの、ひとの情欲を小指の先で撫でるようなかぐわしい香りが。目を閉じて息を吸う。それから、あたたかくてやわらかい感触にもう一度唇を塞がれて、僕はようやく今の事態を理解した。
     キスをされている。
     アズールに。
     アズールと僕が、キスをしている。
    (ああ、……違う)
     キスをしているのは、僕じゃない。
    (アズールと、フロイドだ)
     それを思い出した瞬間に感じたものは、殴られるに似た衝撃だった。

     混乱と動揺がぐるぐると頭の中を掻き混ぜている。キスを止め、アズールが、赤い顔でフロイドの僕を見下ろしている。狼狽えながら起き上がった僕をまるで追いかけてくるように、アズールが片膝をソファについた。
    「フロイド……」
     アズールが甘えるに似て僕の片割れの名前を呼ぶ。肩に腕を回し、首を傾け、薄く開いた唇を近付ける。まるで催促をするようなとろけた視線を至近距離で見せられて、僕は混乱したままアズールの唇にそれを重ねた。裏切られた気分で。
     アズールとフロイドがキスをする間柄だったなんて、そんな事僕は知らない。いつの間に、どうして。だって。そんな。
     アズールがフロイドに甘い理由。それを、たった今僕は思い知った。
     誰にも見せず誰にも言わず、誰にも触らせずにしまっておいたアズールへの恋愛感情。頑丈に鍵を掛け、心の深くに沈めていたそれが、たった今無残にもアズールの手で握り潰されている。軽率な行動の代償にしては強すぎる力で僕を叩きのめしている。こんな事をしなければ何も知らずに済んだのに。
     二人の親密な関係も、僕に秘密にしていた事も、恋を知った表情も、愛を与える方法も、体温も、感触も、触れる唇のやわらかさもなにもかも。
     胸が破裂しそうだ。焼けた鋼を飲み込んだみたいに、熱くてにがくて苦しい物が喉の奥からせり上がってくる。何度も何度も求められるキスに、叫び出してしまいそうな痛みを覚えた。傷付いている、はずなのに。どうして僕は、アズールとのキスを止めることができないのだろう。
     アズールの後頭部に触れる手に力を込める。合わせた唇をかじるように食んでは舌先を差し伸ばす。コロンだけじゃない、アズール自身の香りがした。掻き抱き強く身体を押し付けて、夢中で舌を絡ませる。
     フロイドのキスがどんなものか僕は知らない。どうやって真似たらいいのかわからない。だから僕は僕のキスで、自分の舌で、自分の想いで、アズールに何度も口づけた。これがフロイドを裏切る行為だと知りながら。アズールを侮辱する行為だと、自分自身を傷付ける行為だと知りながら。それでもどうしても、自分自身を止められなかった。
     アズールが好きだったから。
    「……はぁっ。…………ふろ、いど」
    「…………………」
     どのくらいの時間僕達はキスをしていたのだろう。熱を持った唇を名残惜しむようゆっくりと放し、額を合わせて目を開けた。
     見たことも、もう二度と見る事もない、あまくとろけた顔のアズールと真正面で見つめ合う。
    「ふふっ、どうしたんですか? そんなお前らしくもない顔をして」
     果たして僕は今、どんな顔をアズールに見せているのだろう。泣きそうな顔なのか、嫉妬に狂った顔なのか、それともそのどちらでもなく、想い人とのファーストキスに逆上せあがった顔なのか。わからない。ただ、恋人とキスをした男の顔では決してなかった。それだけは見なくとも理解ができた。
     後悔が嵐のように胸の中を乱していた。自分自身の愚かさに俯いて唇を噛む。じわりと鉄の味が舌先に広がると同時に、グローブをはめた手に僕は顎を持ち上げられた。
     アズールが、挑発的な様子を見せて僕の唇を指で拭った。真っ白なグローブの指先が、滲んだ血で赤く染まった。
    「それで」
     もう一度、……二度、アズールが僕の傷を指で撫でた。とても、とてもたのしそうな顔をして。
    「続きはどちらで?」
     この言葉がフロイド・リーチへの誘いなのか、それともジェイド・リーチへの慈悲なのか、ばれているのかいないのか、僕は何もわからないままそれでも両手を上げて降参した。


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    ニシカワ

    DONE🦈のふりして🐙にちょっかい出そうとしたらとっくにフロアズしていたみたいで自爆した🐬のジェイアズ
    【ジェイド・リーチはフロイド・リーチがうらやましい】 誓って言える。決して下心などは無かったのだ。それはそれは可愛らしい、稚魚の悪戯のつもりだった。すぐにネタバラシをする気でいたし、そもそも続けられるほどの辻褄だって合わせていない。
     片割れに許可を取る前にタイを解いてシャツのボタンを二つ外した。目と声を魔法で変えて、髪に手を入れ分け目を変えた。好奇心は猫をも殺す。そんな陸のことわざを思い出したが、まさかウツボまでは殺せまい。そう思ったから。だから僕は、愛しの片割れに姿を変えて、VIPルームの重厚な扉を蹴破った。
     その時は、とてもわくわくとした気持ちで。
     幼い頃より何度か繰り返してきた入れ替わりのこの遊び。髪型を変え、口調を変え、態度を変えればそれだけで大抵の人魚は僕達の入れ替わりには気付かなかった。色や形を変える魔法を覚えてからは、両親ですら疑問を抱かず僕をフロイドと呼び、フロイドをジェイドと呼んだ。最近では魔法の精度も真似をする技術も上がっていて、自分自身ですらフロイドとの見分けが付かないほどだ。鏡ではなくガラスの向こうに片割れが居るのではないかと思うくらいによく似ている。そんな自分の姿を見て思ったのだ。果たしてアズールはこれが僕だと気付くだろうか、と。一度そう考えれば、僕の好奇心はおさまらなかった。
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