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    #じゅじゅプラス 伊(再掲)
    伊さんに命を救ってもらう話

    #じゅじゅプラス
    longevityBonus
    #伊夢
    iDream

    伊さんに命を救ってもらう話伊地知さんに命を救われる話
     呪霊の消失反応を確認し、伊地知が帳を下ろすと1人の女性術師が飛び出してきた。
     その両手にはぐったりとした少年が抱えられている。
     
    「伊地知くん! 要救助者! 出血多量!」
     
     簡潔に状況を説明した彼女も、腹部から多量に出血していた。
     
    「あなたも怪我を……!」
    「私はまだ保つから、この子を先に!」
     
     言うなり彼女は少年を抱えながら後部座席に乗り込んだ。
     この場まで救急車を呼ぶより、伊地知の運転で病院に駆け込んだ方が早いという判断だろう。
     伊地知は呪符を取り出して、彼女に渡した。
     
    「こちらで止血を」
     
     そして急いで家入に連絡し、これから怪我人を搬送する旨を伝えた。
     この場からなら病院に向かうより高専に帰還した方が早い。
     すぐさま道筋を脳内で検索し、運転席に乗り込んだ。
     彼女の容体も気がかりだが、少年の意識はなく一刻を争う状態だ。
     今は彼女の言葉を信じるしかない。
     後部座席を気にしつつ、車を発進させた。
     慎重にハンドルを切りつつ、できる限りの速度を出して走らせる。
     この時間帯、混み合う大通りを避け裏道を縫っていく。
     後部座席からは「しっかりして」「大丈夫だから」と少年を励ます声が聞こえてくる。
     呪符での止血は応急処置でしかない。
     そうなると少年の命を繋ぎ止めるには、ひたすら声をかけ続けるしかなかった。
     
    「すぐに着きますからね!」
     
     ハンドルを握る掌に汗を滲ませながら伊地知も声をかけた。
     こんなときに反転術式が使えれば。
     どうしようもない無力感を募らせながら、振り払うように車を走らせていく。
     
    「大丈夫だからね……!」
     
     叫ぶ彼女の声から少しずつ力が抜けていっているように感じて、伊地知は背筋を凍らせた。
     確かに彼女は呪術師で、一般人に比べたら遥かに頑丈だ。
     それでも彼女の命も少しずつ失われていってることには変わりない。
     呪符で止血しているならまだ保つだろうが、少年の止血を優先している現状では、それもままならないだろう。
     恐怖と悔恨に俯きそうになるが、懸命に前を向き運転に集中する。
     今は自分の役目を果たさなければ。
     自分の役目とは、1分でも、1秒でも早く2人を送り届けること。
     自分の無能さに絶望している暇などないのだ。
     全神経を集中して車外に注意を払う。
     不慮の事故など起こして、足止めを食らったりしたら目も当てられない。
     それでなくても年度末のこの時期、あちらこちらで道路工事が行われており迂回を余儀なくされる。
     脳内に叩きこまれた道路地図と工事予定地を照らし合わせ、瞬時に最適なルートを導き出す。
     下手なカーナビより、よっぽど頼りになるよ。人間カーナビだね、と笑った彼女の笑顔が蘇り胸が詰まった。
     その笑顔を失いたくない。
     震えを抑えつけながら伊地知はハンドルを握りしめた。


     高専に辿り着き、校舎の玄関前に駐車する。
     普段ならば駐車場に停めるのだが、そんな余裕はない。
     運転席から飛び降り後部ドアを開く。
     
    「この子を先に……」
    「ですが……」
    「私は自力で行くから早く!」
     
     促されて少年を受け取り、後ろ髪を引かれながら医務室に急いだ。
     医務室では連絡を受けて治療準備を整えていた家入が待っていた。
     
    「随分早かったな」
    「この子を先に。あと1人、夢さんが」
    「そこに寝かせて」
     
     少年を診察台に載せ、あとは家入に任せた。
     医務室を飛び出し、玄関まで駆け戻る。
     自力で向かうと言った彼女に行き当たることなく玄関に辿り着くと、伊地知はそこで息を飲んだ。
     玄関前に停められた車の後部座席で、彼女が目をつぶってぐったりしていた。
     車内は床までぐっしょりと赤く染まり、出血の多さを裏づけるように顔面は蒼白になっている。
     
    「夢さん……!」
     
     胸が潰れるような思いで彼女に駆け寄り、その肩を揺らした。
     彼女の瞼が重そうに開く。
     
    「……あの子は……?」
    「家入さんに診てもらってます。あなたも診てもらいましょう!」
     
     伊地知は声をかけると、許可も取らずに彼女の身体を抱き上げた。
     想像以上に軽くて慄く。
     迫り来る喪失感に怯えながら、伊地知は再び医務室に向かって駆け出した。
     
    「大丈夫ですからね! すぐに診てもらえます!」
     
     腕の中の彼女は意識があるのかすら解らない。
     
    「もう少しだから頑張ってください!」
     
     それでも必死で声をかけ続けた。
     そうしなければ泣き出してしまいそうだった。
     
    「夢さんが言ってた美味しいレストラン、一緒に行くって約束しましたよね!?」
     
     まだ約束を果たしていない。
     
     だから――。
     
    「だからっ、置いていかないでください……!」
     
     絞り出すような声で彼女に呼びかけた。
     何度も、何度も、腕の中の彼女の名前を呼んだ。
     こんなにも自分が補助監督であることを悔やんだことはない。
     術師の盾になることも、治療を行うことすら叶わない。
     それでも伊地知は懸命に走り続けた。

     

     
     凍えそうな寒さのなか、ふと片手に温もりを感じた。
     その温もりに導かれるように、意識が浮上していく。
     気だるさを感じながら目を開くと、側にはこちらを伺う様子の伊地知くんの姿。
     
    「い、じち、くん?」
     
     ぎこちなく口を動かすと、伊地知くんの眦に涙が浮かんだ。
     
    「夢さん!」
     
     良かった! 意識が戻った! と喜ぶ伊地知くんに事態を理解して身体を起こした。
     
    「あの子は?」
    「無事です。先程、高専系列の病院に運ばれました」
     
     家入さんによって治療はされたけれど、他に怪我はないか、呪霊の影響がないか検査されるという。
     説明する伊地知くんの声は震えていた。
     無理もない。
     男の子の止血を優先したばかりに、自分の出血はなすがままになっていた。
     それを目の当たりにした伊地知くんには、どれだけ心配させたことだろう。
     
    「さあ、まだ休んでてください。治療は済んだとはいえ回復には時間がかかります」
     
     促されて私は再びベッドに横になった。
     
    「確かにちょっとダルいかも」
    「当たり前ですよ……! あんな……、あれだけ血を流せば……」
     
     膝に置かれた伊地知くんの両手が固く結ばれる。その手は今でも震えている。
     私は解くように片手を伸ばした。
     
    「心配かけてごめんね、伊地知くん。でも運転が伊地知くんだったから私もあの子も助かったんだよ?」
     
     え? と伊地知くんが顔を上げた。
     
    「伊地知くん、交通状況だけじゃなくて工事の予定とかも頭に入ってるでしょ? だから運転が伊地知くんなら絶対に間に合うって信じてたよ」
     
     信じがたいことに伊地知くんは任務地周辺の通行可能な道路地図は当然として、時間帯による渋滞状況や道路工事の予定まで頭に叩き込まれている。
     しかもそれらは逐次、最新情報にアップデートされているため常に最短ルートでの移動が可能なのだ。
     だから私は伊地知くんに命を託した。
     伊地知くんなら、絶対に間に合わせられると信じていたから。
     
    「そんな……いや、結果的に、間に合いましたけど……無茶がすぎますよ……」
     
     謙遜というよりは卑屈な様子だが、伊地知くんは自分の凄さを解ってない。
     伊地知くんたら、いつもそうだ。
     周りに五条や七海がいるからか、自分のことを低く見積もる傾向がある。
     呪術師のバックアップという役割を、12分以上に果たしているというのに。
     でもなんだかんだ、そういうところが可愛かったりもする。
     自信満々な伊地知くんというのも、何か違うなと思うし。
     私はちょっとからかいたい気持ちになっていた。
     
    「まあ、死にかけたかもしれないけど、あれだけ情熱的に引き止められたら死ぬに死ねないよね」
    「は」
     
     伊地知くんが固まった。
     
    「『私を置いていかないでください』だっけ?」
     
     見る間に赤くなっていく。
     
    「なっ、ま、きっ、聞いてたんですかっ?!」
    「聞かせるように言ってたんでしょ?」
    「そ、それはそうなんですが!!」
     
     人間、死に瀕したときに最後まで残っている感覚は聴覚だという。
     だから意識を失った人間を呼びかけることは、死なせたいために少なからず効果がある。
     そして、それだけの緊急時にかけられる言葉は、間違いなく本心から発せられるものだろう。
     恥ずかしがって、なかなか距離をつめてくれない伊地知くんの本音の言葉だ。
     嬉しくないわけがない。
     
    「レストランも一緒に行こうね? あ、今夜はどう?」
    「……今夜はゆっくり休んでください」
     
     首まで真っ赤になった伊地知くんは絞り出すように言ってから言葉を付け足した。
     
    「予定は、……必ず空けますからっ!」
     
     それだけ言うと堪えきれずに医務室を飛び出していった。
     ちょっとからかいすぎたかな?
     まあ、予定は確約しそうだし、伊地知くんの言葉の真意を確かめるのは食事の時でもいいだろう。
     その時はさすがに逃げ出さないと思うし。
     まだ予定すら決まったわけではないのに、私はその日が待ち遠しくて仕方がなかった。
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