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    せんぽー

    @Senpo122

    🦚🌟載せていくよ!!
    R18のアベ星を猛烈に書きたいっ!!

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    せんぽー

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    #アベ星
    #学パロ
    School Parody

    アベンチュリン・タクティックス 後編2 ごっこ遊びは終わり パンっ――――。

     あまりにも急なビンタだった。何にも構えていなかったからこそ、星は驚いていた。まさか自分がビンタがされるなど思ってもいなかった………それも学校で。

    「っ………」

     ビンタされた拍子に切れたのか、口の中に広がる血の味。叩かれた頬に手で触れると、かなり腫れていた。きっと赤くなっていることだろう………また丹恒に叱られるかもしれないと心配になった。

     最近の丹恒は怪我にうるさかった。机にぶつかってできた痣ですら、あたかも大事かのように治療し始められたぐらいだ。

    (でも、今日のは仕方ないかも………)

     思っていた以上に強烈なビンタだった。こちらが準備していなかったのもあるが、かなりの強さに星は驚きを隠せなかった。

    「あなたどういうつもり!?」
    「………………」

     ビンタをしてきた女は鬼の形相で星を睨みつける。

    (どういうつもり、だなんて………その言葉はこっちが言いたい)

     本当にどういうつもりなのか………ただ来てくれと言われたからついて行っただけなのに、ビンタをされるなんて。
     休み時間、珍しく星はアベンチュリンから解放されていた。とある女子から呼び出しがあったからだ。星に女子から話しかけてくれるなど珍しい。嬉しくなった星は彼女たちについて行った。

    「会長に色目を使って………ヤクザの娘だかなんだか知らないけど、会長に近づかないでくれるかしら!?」

     でも、まさかラノベのような展開になるとは思っていなかった。恐らく彼女は星に嫉妬しているのだろう。

    (この子も社長令嬢か何かだったわね………)

     ビンタしてきた黒髪ロールの彼女は美人さんではあるが、星に向ける瞳は蔑んでいるような鋭いもの。教室で話しかけられた時とは全くの別人だった。

    「あなた、この前会長と2人で出かけていたらしいじゃない」
    「えっ、見てたの?」
    「別に直接は見ていないけど、学園では広まってる話よ。本当に下劣な女ね」

    (そ、そうだったのか………)

     星をビンタした社長令嬢はアベンチュリンの彼女になりたいのだろう。彼の外見だけ見れば魅了される理由も分からなくはない。

    「付き合ってはいるけど、別にあの人、私のことなんてこれっぽっちも好きじゃないだろうから………誘ってみれば? アベンチュリンならデートなんて何回でも行ってくれるよ」
    「っ………!! わたくしをバカにして!!」

    (いや、バカにしたつもりは毛頭ないけど………)

     社長令嬢はまた手を振り上げる。後ろにいた女子たちも楽しむようにふふふと笑っていた。
     誰も止める人はいない。もう一発来る。でも、これでお終い―――と星はこれ以上口を切らないように歯を食いしばって目をつぶった。

    (………………………あれ?)

     だが、ビンタはこなかった。待っても来る気配がない。
     そっと目を開けると、振り上げていた社長令嬢の手は止められていた。

    「――――君たちどういうつもり?」

     いつの間にか現れたアベンチュリンが令嬢の手を掴んでいた。

    「ねぇ、誰か説明してくれないかい? なぜ星が叩かれていたのかをさ?」

     随分と低い声で、全てをバカにしているようなあの軽やかな声ではなかった。アベンチュリンの瞳に光はなく、冷たい目で女の子たちを睨んでいた。
     彼が現れると思っていなかった星。呆然としていると、アベンチュリンは社長令嬢から乱暴に手を離した。

    「彼女から離れて」
    「………………」
    「何ぼーっとしてるの? 早く離れて」
    「は、はい………」

     アベンチュリンに笑顔はなかった。苛立ち、怒り、殺気………彼から凄まじい覇気を感じる。思わず星は背筋を凍らせていた。
     だが、彼は星の傍によると、瞳は穏やかで優しくなり、柔和な微笑みへと変わる。アベンチュリンは赤く腫れた星の頬にそっと手を沿わせた。

    「大丈夫かい?」
    「…………うん、大したことない」

     ビンタは少し痛かっただけで、ケンカの怪我よりもずっと軽い。しかし、彼は眉間に皺を寄せ、「後で治療してもらおう」と言い始めていた。本当にそこまではいいのに。

    「君たちが何を言おうと、星は僕の恋人。二度と傷つけるようなことはするな」

     ぎゅっと抱き寄せられる。途端にゼロ距離になり、星は思わずアベンチュリンをみてしまう。

    「次はないから、覚えておいてね」

     社長令嬢たちに脅しをかけたアベンチュリンは星に向き直り、顔を近づける。キスをしそうな距離で、星は思わず胸の高鳴りを覚えた。

    「いいかい、星。暴力を振るわれると思えば、すぐに逃げるんだ」

     普段は笑顔を張り付けているアベンチュリン。しかし、今の彼の顔は真剣そのもので、本心を顔に出してしまうほど星を心配していた。まぁ、そのことに当人たちは気づいていないのだが。

     武器を持った不良男子集団を1人で壊滅にさせてしまう星。暴力を振るわられそうになる前に、星が先に暴力という名の鉄槌を下すことが多かった。
     だが、今回は相手が女の子で令嬢。彼女たちが自分を叩かなければ、事は収まらないだろうと判断し、星はあえてビンタを受けた。

    「自分が犠牲になるなんて考えないでくれ」

     なぜ彼はこんなにも自分の心配をするのだろう………所詮他人事。お遊びが終われば自分のことなど関係なくなるのに。自分に向ける感情など一ミリもないのに。

    「では保健室に行こう」
    「いや、そこまでは………」
    「腫れてる。口の中は切れてないかい?」
    「………………」
    「切れてるんだね」

    (いや、別に何も言ってないけど………)

     結局、治療をアベンチュリンに強く勧められ押し負けた星は、彼とともに中庭を去る。ちらりと後ろを振り返ると女子たちはフリーズしたままだった。

    (私たちは所詮おままごとような関係、いつかは終わる関係。心配せずとも彼はあなたのものになる………)

     星は知らない。去り際に女子たちを睨んでいたアベンチュリンの瞳――それが今にも人を殺しそうなほど鋭いものだったことを。



     ★★★★★★★★



    「おい! そこの星穹組の娘! 今日こそはボコボコにしてやるからなァ!?」

    (はぁ、またか…………)

     星は大きなため息をつく。振り向くと、彼女の予想通りいたのは男子学生たち。彼らは以前星が1人でコテンパンにした不良たちだった。

    (いつかはやってくるとは思っていたが、こんなにも早く回復してくるとは………)

     不良たちは放課後、しかも星が1人の時を狙って、こうして襲ってくる。しかし、最近はアベンチュリンと帰ることが多かったため、ケンカをせずに済んでいた。

    (まぁ、久しぶりの肩慣らしにはいいかも…………)

     全く星穹組の娘を舐めないでほしい。組長や姉御、丹恒たちにどれほど鍛えられたのか。

     星とのケンカは人数で勝てる問題ではない。100人連れてこようが、1000人連れてこようが関係ない。学習しない彼らに星は呆れてさらに大きな溜息をついていた。

     流石に道端でケンカをするのはと思い、星は人気の少ない公園へ移動。幸い誰1人いなかった。
     星は背負っていたバッドを手に取り、堂々とした態度で構えた。彼女の唇は楽し気に弧を描いていた。

    「どこからでもどうぞ――――」

     そう煽ると、不良たちは一斉に飛びかかる。バッドが頭に向かって来ていれば、素早くしゃがみ込み、足を掴まれそうになれば、掴んでくる前にバッドで殴るか、上にジャンプして人の肩へと乗っかる。

     時には捕まえた不良を盾にして戦う。アクロバティックな戦い方だった。

    (全員正面から戦ってくれるから、倒しやすいな………)

     夕日は沈んでいく。風は冷たくなっていく。殴打音と怒号が響く広場で、星は舞うように不良たちを倒していく。星の視界には襲ってくる全員の動きがスローに映っていた。

    「これで全員かな」

     星はあっさりと襲ってきた不良共倒してしまった。殺したわけではないので、彼らは全員生きていた。カエルの合唱のようにうめき声は絶えないが。

    (これでもう懲りたでしょう………)

     今回やってきた不良たちは隣町の男子高校生。彼らは星が以前この町の不良を壊滅した時の噂を嗅ぎつけてやってきたため、また違う町から不良をやってくるかもしれない。しかし、彼らはこれで十分やったはず。

    (一時は静かな生活を送れるかな)

     一段落付き星が家に帰ろうとした瞬間だった。

    「はぁ――――!!」
    「!!」

     草陰から突如現れた男。彼は星に向かって猛ダッシュし、アルミ棒を振ってきた。完全に不意打ち、油断していた。背中のバッドに星の手がかかった時には、すでに遅し。

    「っつ!!」

     棒で横から頭をぶたれ、激痛が走った。

    (まずい。これ、死ぬかも…………)

     星は勝てるから、全てのケンカを買っていた。まぁ、大体男相手に1人の女の子がケンカをすること自体おかしい話なのだが………星は女子の中でも怪力な方。華奢な体のせいでか弱い娘だと思われがちだった。

     そのためか、相手からなめられ、大した武器もなく正面から襲撃されることが多く、圧倒的強さを持つ星には対処しやすかった。しかし、今回は奇襲。星もあまり仕掛けられたことがなかった。

    「くっ………」

     眩暈がし、星の体は右へ左へと揺らめく。視界はぐるぐると回った。次第に立てなくなり、その場に座り込む。

    (これ、ヤバいな………)

     頭にまともに攻撃を受けたことがない星。予想外の攻撃とあまりの痛さに動揺し、目を回していた。

    「ただ頭を勝ち割るだけと思ったか――――ヤクザの女」

     殴ってきた男以外にも草陰から現れた不良たち。星に近づいてきた1人の手には1つの注射があった。男は星の腕を乱暴に掴むと、注射の針を刺した。

    「っあぁ!!」

     何を注射されたのか分からない。痛みと恐怖が襲うが、抵抗しようもすでに全て打たれた後。何もできなかった。

    (逃げないと………)

     星は激しい頭痛に耐えながらも、必死に地を這う。しかし、這った程度で敵から距離は取れない。男に髪を掴まれ、星は悲鳴を上げた。

    「は、なしてっ………っ!!」
    「あはは! 所詮はただの女だな!」

     何をされるのか分からなかった。ボコられるだけなら、注射などせずとも殴ればいい話。男の目は憎しみや苛立ちとは違う。星を見る目はどうみても………。

    (気持ち悪い………嫌だ………)

    「助けて………………アベンチュリン」

     いないと分かっていながらも、星は呼んだ。
     真っ先に彼が頭に浮かんだ。
     藁にも縋る思いだった。






    「――――――――もちろんだよ、マイハニー」

     鈍い殴打音とともにぱたりと倒れる男。
     同時の髪を引っ張られていた星も解放されていた。

    「君、僕の星を傷つけるとはよほど殺されたいようだね?」

     声は震え、苛立ちで満ち溢れている。
     知っている声だが、聞いたことのない怒りの声だった。
     意識が遠のきそうだった星は、力を振り絞って瞼を開ける。

    「なんで………?」

     目の前に立っていた1人の男。
     ブロンドの髪が眩しい星の恋人。
     彼の背中を見た瞬間、星は不思議と安堵できた。

    「なんであんたがここにいるの?」
    「恋人のピンチに駆け付けない男がどこにいるんだい?」

     当然かのように笑って見せるアベンチュリン。
     彼の笑顔に、安心した星も笑みを漏らす。

    「………ありがとう」
    「どういたしまして。もう少し早く来ていれば、君が怪我をすることもなかった………すまない」
    「別にあんたが謝る必要なんてない………でも、なんで私の場所が分かったの?」
    「そこは察してくれないかい、マイハニー?」

     アベンチュリンはそうはぐらかし、軽くウィンク。これ以上聞くなと言いたげな圧があった。

    (つまりつけていたと………)

     すぐに来れなかったあたりから、部下にでも星につけさせていたのだろう。アベンチュリンの行動に呆れながらも助けられたのでそれ以上文句は言わない。大体呼んだのは星自身だ。
     そうして、星はアベンチュリンに抱きかかえられ、ベンチの上に寝かされる。

    「君は眠っていていい。僕が片付けておこう」
    「ありがとう………」

     アベンチュリンは星の頬にそっと触れ、そして額にキスを落とす。名残惜しそうに星から離れ、男たちの元へと向かった。気力を失っていた星は、アベンチュリンの提案に甘え、そのまま目を閉じる。

     なぜ自分がアベンチュリンを呼んだのだろう―――その疑問が頭の中で反芻する。
     彼が仮の恋人だったから? 最近関わりが増えたから? デートしたから? この前助けてくれたから?

    (いや、違う)

     何となく分かっていたその感情。デートの時から若干自覚していたその思い。
     そう。自分が彼に助けを求めたのは………。

    (アベンチュリンが好きだからだ――――)



     ★★★★★★★★



     アベンチュリンはベッドに眠る星を見つめる。透き通った白い肌、今にも折れそうな細い足………想像していた人物とは程遠く、思わず笑みを零してしまう。

     大切な恋人を傷つけた不良たちを全員倒したアベンチュリンは、星を抱えて家に戻り、ベッドの上で彼女を寝かせた。
     その後、星に注射したものについて調べたが、命には関わらないもので、麻薬でもなかったので、特に治療をしていない。ただ星が起きた時、彼女がどうなるか心配はしていた。

    「全く君は僕の予想を超えて行くね………」

     ヤクザの娘だから、どんな人間なのだろうと気になっていたが、実際の彼女はゴミ箱を漁る変人だった。常識人であれば、そんなことはまずしない。全く星穹組ではどんな教育をしていたのやら。
     しかし、黙っていれば美人この上ない。今までに出会ってきたどんな美女も霞むぐらい美しかった。

     小学生の頃、星穹組というヤクザがいると聞いていた。ヤクザなど物語の世界の存在なのではないかと思っていた。
     中学生に上がる前だっただろうか、親が死んだ。交通事故だった。1人身となったアベンチュリンは親戚に引き取られ、スターピースカンパニーの跡取り息子として養子になった。養子であることはほとんどの人間が知らないだろう。

     当初は義父の隠し子だの、母親は愛人だの好き勝手言われた。しかし、義母との関係はよかったため、成長するまで存在を隠していたのだろうと思われるようになった。

     跡取り息子として公表されたある日。アベンチュリンはどこから送り込まれてきたのか知らないが、男たちに囲まれ襲われかけた。多分敵会社からの刺客プレゼントだったのだろう。

     アベンチュリンは只得さえまともにケンカなど経験がない。複数人相手など無理な話だった。
     絶体絶命の大ピンチ――――そんなアベンチュリンの前に突然1人の救世主が現れた。

    「消えて――――」

     アベンチュリンを庇うように立った灰色髪の少女はバッドを振り回して、男たちを次々に倒していく。驚きのあまり座り込んでいたアベンチュリンは呆然として、彼女の戦いっぷりを眺めていた。

    「これで全員…………」

     気づけば、敵は1人も立っていなかった。路地裏に残されたのはアベンチュリンと少女だけ。
     彼女は無言のまま慣れた手つきでバッドを振り、背中にしまった。小さな体ながらも彼女の背中は誰よりも大きく見えていた。

     振り返った少女は、蜂蜜色の瞳をアベンチュリンに向ける。その瞳は静かだが温かな光を宿していた。

    「あなた、大丈夫?」
    「………」

     多分一目惚れだったんだと思う。手を差し伸べる彼女が、女神のように天使のように輝いて見えた。
     その後、護衛がやってくると、少女は「じゃあね」とだけ残して去っていた。

     時間にしてみれば数分の出来事。だが、アベンチュリンは少女に落ちていた。朝から晩までずっと忘れられず、夢に見てしまうほど彼女を欲していた。

     耐えきれなくなったアベンチュリンは持っている情報網を使って彼女の身元を調べた。ストーカー的な行為だったと思う。

    「星穹組の娘………星」

     少女の名前を知り、ヤクザの娘であると同時に知った。最近噂でよく聞く一匹狼の不良娘だった。
     偶然にも彼女の誕生日会があると聞き、行こうとしたが、招待状も来ていない、尚且つ抜け出せないカンパニーの用事があり、プレゼントを贈るだけとなった。直接手渡したいと、彼はどんなに願っていたことか。

     時は過ぎて、高校で再会した2人。星を見つけた瞬間、アベンチュリンは驚きを隠せなかった。星は中学の頃よりも一層美しく、とても学生とは思えない大人びた魅力を持って成長していた。本人は気づいていなかったようだが、周りの男たちの視線は彼女に集まっていた。

     だから、敵は全部潰した。星は自分のものだと主張するように、自分以外星を汚らわしい目で見ることがないように、星へ好意を向けていた男は様々な手を使って、時には汚い手段を使って、全員諦めさせた。
     そして、ようやく彼女の一番近くの男になったわけだが。

    「こんな風になるとは思っていなかったけど………」

     また、アベンチュリンは灰色の髪をくるくると指に巻き付け、遊び始める。すーすーと吐息をたてて眠る彼女は愛らしく、額にそっと口づけた。
     このまま目覚めてほしくないという感情と、起きて恥じる彼女を見たいという感情が葛藤しながら…………。



     ★★★★★★★★



     目を開くと見えたのは豪華な天蓋。和室の部屋だった星には見慣れない光景だった。
     重い体を起こすと、ベッド脇に座っていたのはブロンド髪の彼。暗い部屋の中で光を灯していたのはベッド先のライトだけだったせいか、彼が妖艶に見えた。

    「………助けてくれたんだね」
    「僕は君の恋人だ。当然だろう?」
    「………それはどうもありがとう。それで、ここはどこ?」

     窓の外を見れば、光が遠くに見える綺麗な夜景が広がっていた。随分高い場所にある部屋で、星は自分がいる場所はホテルだと予想していた。

    「僕の家」
    「――――――は?」

     しかし、アベンチュリンの口から出たのは『家』、しかも彼の『家』だという。見渡せば、ホテルにしては物が色々と揃い過ぎている。家具も多く、窓際にあった書斎机には本が積まれていた。

    「厳密にいえば、僕の部屋だね」
    「…………」

    (じゃあ、今私が寝てるこのベッドは、アベンチュリンが普段眠っている場所………)

     夜景に意識が持っていかれていたが、よく見れば服も変わっている。いつもの学生服ではなく、下着もなく、眠りやすい白のワンピースになっていた。

    「私、なんで着替えてるの?」
    「さー? なんで着替えてるんだろうね?」

     アベンチュリンは何一ついかがわしいことはしていない。服が濡れていたから着替えさせただけ。その着替えも使用人させた。帰ってきてから、アベンチュリンは髪と額以外は触れていなかった。

    「…………」

     だが、そんな事実も知らない星はあらぬことを予想してしまい、頬を赤く染めてしまう。普段は仏頂面な癖に可愛い顔をして、とアベンチュリンは嬉しそうに笑っていた。

    「それよりもマイハニー。体の調子はどうだい? 頭は痛くないかい?」
    「頭は大丈夫そうだけど………」

     体はいつも以上に重くだるい。針で指されたところも若干痛む。が、それよりも気になることがあった。

    「暑い……体の奥が暑いの………」
    「………………」

     くらくらしそうになる。猛烈にアベンチュリンを欲していた。この感情の原因を、星はなんとなく察していた。

    (あの注射は媚薬だったの?)

     キスをしたくって、彼が欲しくって仕方がない。好きになってしまったアベンチュリンが近くにいると、一層暑くなった。
     暴走しそうなその感情を、ぐっと抑え込み何とか耐える。

    「星、大丈夫?」
    「たぶん大丈夫………でも、近づかないで」
    「なぜ?」
    「な、なんででも………」

    (迷惑なんてかけたくない。近づかないでほしい。どうなるか分からないから………)

     星はベッドの上を這って逃げようとするが、アベンチュリンはぐっと腕を掴み彼女を逃がさない。彼女の体を自分に引き寄せ、鼻先が触れ合うぐらい顔を近づけた。

    「苦しくないかい?」
    「………………」

     本音を言えば苦しい。苦しくてたまらない。そんなことは彼に言えない。言いたくない。迷惑などかけたくない。

    「く、苦しい………助けて………」

     だが、遂に本音が漏れた。ゼロ距離で耐えるなど拷問に等しかった。

    「もちろんさ」

     アベンチュリンの顔がさらに近づき、星の唇は彼に奪われる。最初こそ優しいキスだったが、徐々に荒々しくなり舌が絡み合う。

    「んっ、んっ」
    「ああ、可愛い♡」

     彼に何度も何度も攻められて、星は必死に受けるので精一杯だった。

    「あっ、べ、ちゅ、んっ……んっ! ………まっ、て………あ、んんっ」
    「………っ、待たない」

     あまりの激しさに求めたはずの星から止めようとするが、彼は拒否。逃がさないように、アベンチュリンは星の後頭部を手で抑え込み、キスを続ける。

    「ぷ、はっ………」

     アベンチュリンが解放したところで、ようやく息ができた星。彼女の息は乱れ、白い頬、耳まで赤く染まっていた。

    「可愛いね、星」

     満足気に笑うアベンチュリンも頬を染めていて、休みかと思ったのだが、また星の口を塞いでいた。
     そうして、キスだけで何度も攻められるうちに、星はまた意識を失って………。



     ★★★★★★★★



    「………………」
    「ごめんね、星」

     すっかり媚薬の効果は無くなり、眠りから覚めた星。しかし、彼女は隣で眠るアベンチュリンに顔を見せず、反対側を向いていた。

    「やりすぎたとは思うよ。でも、楽になっただろう?」
    「………」

     確かにあのキスで楽にはなった。だが、あまりにも激しすぎた。もう少し手加減というものがあると思う。

    「…………もしかして、あんた、私のこと好き?」
    「今更気づいたのかい?」

     寝返って顔を向けると、いたずらな笑みを浮かべるアベンチュリン。彼は星に手を伸ばし、そっと頬に触れる。彼の手は何よりも温かく触れられて心地がよかった。

    「君は僕のこと好きかい?」

     もうここで嘘をつく必要はない。自分の感情などとっくに彼に気づかれている。だが、口にするのは恥ずかしく、星は勇気を振り絞ってなんとか思いを伝えた。

    「うん、好きだよ」
    「そっか、それは良かった。僕も愛してるよ」
    「っ………」

     あまりにもストレートな告白が返ってきて、星は頬をぽっと赤く染める。見られたくないあまり、また顔を背けていた。
     ふとベッドサイドにあった時計が見えた。針の指す時刻は深夜の1時。門限などとっくに過ぎていた。組長の説教は確定、丹恒からのお叱りもあるだろう。それでも、このまま帰らないのはマズい。星はすぐに帰ろうと、体を起こす。
     しかし、アベンチュリンは星の手を掴み、引き留めた。

    「何するの? 私、帰らないと怒られるんだけど」
    「大丈夫、彼になら電話したよ。『今日は星は帰れない』って」
    「は?」

     どうやら彼が連絡したのは本当のようでスマホの発信履歴を見せてくれた。

    (間違いない………組長の携帯番号だ………)

     全くいつの間に組長と彼が繋がっていたのだろうか。

    「ねぇ、星。続きをしよう?」
    「つ、続き?」
    「とぼけないで、キスの続きぐらい君も知っているだろう?」

     アベンチュリンは星の手を取り、チュッと音を鳴らして甲にキスをする。
     彼の口が触れた場所から熱が帯びていくのを感じた。

    (キスの続きって………)

    「嫌かい?」
    「………」

     星はもう彼に落ちていた。全てが欲しいと思う。ただ素直になれないだけで。
     アベンチュリンに腕を引かれ押し倒された星。思っていた以上に大きい彼の体に、星の胸は高鳴る。

    「ダメかい?」

     薬のことは予想外だったが、アベンチュリンはいつか星を自分の物にすると決めていた。だからこそ、早いうちからプレゼントを渡し、組長の弱みを握り、そして、ゴミ漁りをしていた星に近づいて、半ば強制的に付き合うように仕向けた。

     星とは最悪な付き合い方と言うのは分かっている。それでも彼は彼女を欲していた。どうにかして、彼女を独り占めしようと必死だった。その必死さは星には全く持って気づかれていないが………。

    「別に………ダメじゃない」

     星はアベンチュリンの瞳を真っすぐ見つめ、小さく答える。
     星と彼の思いは同じ。未来の心配をする必要はない。もうごっこ遊びじゃないのだから。
     愚かな彼の計画に嵌ってしまった星。彼女はいつだってアベンチュリンの手のひらの中。

    「………優しくしてね」
    「もちろんだよ、星。ありがとう」

     そうして、星は彼に溶かされていくのだ。
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