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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    うち設定のにゃめん(にゃそうぎ)過去話です。

    にゃそとにゃめんの物語雲一つない晴れの日。この日光を逃す手はないと
    バンジークス邸では使用人たちが洗濯にいそしんでいた。
    普段乾きにくいから洗えない大きなものや厚手のものを
    洗い場に集めてはどんどん洗っていく。
    亜双義も部屋のカーテンを取り外し、他に洗い場へ
    持っていくべきものがないかと部屋を見渡すと
    ベッドサイドのチェストの上にある、にゃめんの寝床が目に入った。

    にゃめんもにゃんじーくすも、屋敷中自由に使っているが
    それぞれ自室としている場所がある。
    にゃんじーくすはかつてバンジークス兄弟が使っていた子供部屋。
    にゃめんはここ、亜双義の部屋の一角だ。
    猫は自分の匂いが消えるのを嫌がるので、固定の寝床は頻繁には洗わない。
    だが全く洗わないのも不衛生だ。今日はいい機会だろう。
    ちょうど部屋の前の廊下をにゃめんが通りかかったので
    寝床を洗ってもいいか聞いてみる。
    すると、返事をするより先にチェストに上がり、寝床に敷いてある
    厚手のタオルの下から何かを取り出した後、鼻先で亜双義の方へ
    寝床を押しやった。
    洗い場までお前が持っていけ、ということらしい。
    偉そうな態度はいつものことなので怒る気にもならない。
    ただ気になったのは、寝床の下にしまっていたものだ。
    にゃめんがテリトリーにしているチェストには、誰かの趣味のせいで
    どんどん増える服や気に入りのおもちゃ、お菓子(虫が湧く前に時折回収されている)等
    大切なものをしまう引き出しがある。
    この前、にゃんじーくすがくれたお菓子についていたリボンを
    そこにしまうのも見た。
    にゃんじーくすからのプレゼントよりも大事なものがあるのだろうか。
    疑問に思った亜双義は、今取り出したものを見せてくれるよう聞いてみた。
    嫌がるかと思ったが、意外にもすんなりと渡してくれた。
    それはボロボロで色あせているが、元は鮮やかな赤色だったであろう細長い布だった。



    にゃめんが現れたのは、亜双義が記憶を失い従者としてこの屋敷で
    過ごし始めてしばらく経った頃だった。
    夜、にゃんじーくすが気配を察知し、敷地内の隅で満身創痍で倒れている
    ところを発見された。
    バンジークスが手配した医者に治療をされた後、世話は従者に任された。
    従者の部屋に寝床を用意し、回復するまでそこで過ごした。
    そこは今も亜双義が使っている部屋であり、にゃめんは亜双義が一度
    屋敷を去ってからもそこを自分の場所として居座ったのだ。
    まるでこの部屋を守っているかのようだったとバンジークスは言う。
    寝床はその時から同じもの。となれば、この布もその時にはあったのか…
    そこまで考えて、亜双義は思い出した。
    初めてにゃめんが現れた時、意識もうろうとしている様子ながら必死に
    掴んていたぼろきれのようなものを。あれはたしか、こんな色だった。
    よく見る前にここにしまい込まれたのだろう。
    にゃめんは騒がしいわりに出自を語らない。
    身一つでやってきたこの猫の、唯一の持ち物だ。
    この布はなんなのだろうか。厚み、幅、元の色……じっくり見て浮かんだのは

    「ハチマキ、か?」

    赤いハチマキといえば、かつての亜双義のトレードマーク。
    今は狩魔とともに、日本に帰った相棒のもとにあるはず。
    だが、自分のもとに現れた猫が赤いハチマキの切れ端を持っていたとは
    偶然で片づけていいものだろうか。
    亜双義はさらに記憶をたどってみる。ハチマキにまつわる思い出を。


    倫敦に向けて出航するよりも数か月前。
    亜双義は下宿の庭先で猫の鳴き声を聞いた。茂みをのぞき込むと
    やせ細って震えている子猫が一匹。あたりを見ても親猫らしきものはいない。
    屋根にいる鴉の視線が気になり、子猫を保護した。
    下宿している身なのでどうしたものかと思ったが、幸いにも大家の母娘は
    優しく猫好きだった。いずれネズミを捕ってくれればいいからと
    進んで世話をしてくれた。
    子猫は順調に元気になり、元気すぎるほどになった。
    大家に可愛がってもらっているくせに、亜双義が部屋にいる時は常にそばにきて
    じゃれたり膝で寝たりと、一緒に過ごすのだった。

    「きっと、拾ってもらった恩を覚えているんですよ」

    大家の娘はそう言うが、部屋の中で大暴れをして本の山を崩す姿を見ていると
    疑わしい。
    それでも留学が決まるかどうかの瀬戸際の眠れぬ夜に、腹の上で丸くなっている
    猫に緊張をほぐされたのも事実であった。

    「この猫、気の強そうな顔がそっくりだな。猫の亜双義、にゃそうぎだ」

    部屋にやってきた成歩堂が、猫の眉間をつつきながらからかう。
    猫はムっとしたのかその指を噛んだ。(さすがに手加減してあまがみだった)

    「猫に追われるネズミの龍ノ介、ちゅうのすけもその辺にいるかもな」

    二人、笑いあった。

    留学の条件を告げられた日の夜。心のうちを整理できぬまま部屋に戻ると
    猫が足にすり寄ってきた。見上げる顔は少し眠たげで、わざわざ起きて出迎えてくれたらしい。
    座布団に座ると、垂れたハチマキの端にじゃれついた。
    その無邪気な姿に、何も知らず父の帰りを待っていた幼い自分を思い出す。
    もう戻らぬ日々に胸が苦しくなり、何か吐き出さずにはいられなかった。
    猫を抱き上げ、その小さな額に自分の額をこつんとあてる。

    「猫よ、悪いが俺はもうじきここを去る。英国の倫敦という場所に行くのだ。
     拾っておいて世話を投げ出すようですまないが…どうしてもそこで
     明かさねばいけないことがある。
     だが手がかりは乏しく、頼れる味方もいない。何も分からぬまま
     野垂れ死ぬかもしれない。何もなせなかった己の無力に絶望しながら
     果てる覚悟はしていても……やはり寂しい。
     せめてお前がこうしてやんちゃに、ワガママに、食いしん坊で、元気に
     生きてくれるのなら、俺がこの世で成した唯一の功といえるのだろう。
     どうか、俺の在った証となってくれ」

    何を言われたかなど分からないだろうに、猫は瞳を爛々とさせて
    亜双義を見つめていた。
    その光の強さに少しばかり心強さを覚える。
    約束の印として、ハチマキの端を切り、猫の首に巻いてやった。
    なんだか誇らしげな顔をしたように見えた。

    出立の日、誰にも見られぬように早朝に下宿を出る。
    猫は玄関までついてきて、にゃあお、と高らかに一声鳴いた。
    まるで行ってらっしゃいと言うかのように。


    「まさか、あの子猫か?」

    手の中のボロボロの赤い布切れを握りしめ、亜双義はにゃめんに問いかける。
    にゃめんは答えずにふいと部屋から出て行ってしまった。


    亜双義は成歩堂へ手紙を出し、かつての下宿先に猫の消息を訪ねるよう頼んだ。
    返事によると、亜双義の出航後、半月ほどして姿を消してしまったらしい。
    せっかく託されたのに申し訳ないと、大家の母娘に謝られたそうだ。
    猫が姿を消した頃と、亜双義が船内で死にかけた時期は重なる。

    「ここで初めてあった時から、妙に遠慮がないやつだと感じてはいたが……」

    相変わらずにゃめんは何も語らない。
    やんちゃに、ワガママに、食いしん坊で元気に過ごしている。
    気持ちよさそうに眠るのは洗って間もない綺麗な寝床。
    その中には、敷き直されたふかふかのタオル。
    そしてその下には、赤いボロボロの布切れが大事にしまわれている。

    -完-
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