君よ、人の望みのよろこびよ「貴公が今言おうとしていることなぞ、すべて
分かっている。
そしてどれも何百回と自問自答済だ。
その上で、言っている」
亜双義は壁際に追い詰めたバンジークスを逃さぬよう
その手首を強く握りしめた。
バンジークスが顔をしかめているのは、手首の痛みの
せいだけではない。先ほど告げられた言葉の逃げ道を
ふさがれ、どう答えたものか考えるほどに胸が苦しく
なっていく。
「許されない過ちを犯した私に、
その思いを受け入れる権利はない」
「安易な贖罪に逃げぬ誠実さは実に好ましいが、
惚れている身には堪えるな」
手首をつかむ力を弱めたかわりに、一歩踏み出し
さらにバンジークスと壁の間を詰める。
「お互い、あれだけの思いをしてきて、これからも
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