林檎の里で見た夢 それはジャックの中でもかなり古い記憶の部類だった。
ある夏の夜のこと、幼いジャックは地元の祭りに母親に連れられて来ていた。まだ下の弟も生まれたばかりで、母親は忙しかったはずだが、ここのところずっと赤ん坊に掛かりっきりだったのを気にしたのか、その日は祖母に世話を頼んで、久々に二人での外出だった。
彼女の手を繋ぎ、まだ夕暮れの光が漂う中を歩いて行くと、同じ目的の人込みに交じって、屋台が並んでいる大通りが見えて来た。夕闇の迫る表参道をたくさんの出店が囲んで、彼は思わず小さく声を上げた。テントのような店先を色とりどりの灯りが彩り、まるで絵本の中の世界のようだった。あちらこちらに並ぶ、普段あまり見ることのないお菓子やおもちゃは幼い彼の気持ちを掴むのには充分だったけれど、一際それを奪ったのは屋台の通りを暫く進んだ先にあったものだった。それが目に入った瞬間、ふと足を止めた。
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