「そういえば、小黒の誕生日ってどうやって決めたんだ?」
風息が作ってくれた夕食も平らげて、あとは風呂に入ればいつでも今日を終わりにできる。風息が無限に尋ねたのは、そういう頃合いの時だった。
妖精はそもそも明確な誕生日が分からないものらしい。生まれた瞬間を他者に目撃される事はまずないし、そんな事があってもその妖精が人間の暦を把握しているとも限らない。
妖精は季節に寄り添う存在である一方で、暦を必要とするような生き方をしない者も多いのだ。たとえば小黒は一人で暮らしていたこともあって、誕生日という言葉すら無限から聞くまで知らなかった。
交流をする上で便利な代物として使われる事はもちろんあるが、暦と紐づけて特定の日を記念する意識は希薄らしい。故に、年若く人間の文化に馴染んだ妖精でもない限り、誕生日なんてものを定めて祝う者は多くはない。小黒の誕生日には多様な面子が顔を出してくれたのは、物珍しさも手伝っていたのだろう。
2030