朔の竜「なあ月島。ここは戦場に似ていたか?」
「いいえ。
砲弾も飛んでこない。
飛び散り焼け焦げる肉片も無い。
敵はまともな武器すら持っていなかった。
せいぜいが、制圧です。」
虐殺という言葉は使わない。
「ああ、腹が減ったな」
「携帯糧食はありますが、駆逐艦の中です」
「重焼麵麭は嫌だ。口の中の水分を持っていかれる。握り飯がいい」
「我慢してください。石を舐めたら唾が出ますよ」
「ここの台所に食べものがあるんじゃないか? 位置的に燃えていないはずだ」
「将官が略奪を企んでどうするんですか……」
ああそうか。
弁えている。
鯉登は甘えるべきところ、我儘を言うべきところを知っている。身なりを整え清潔に上品に味の良いものを食べるべき場所と、泥と血に塗れながら喰い物を食べ戦い続ける場所とを知っている。あるべき場所での振る舞い方を知っている。
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