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    pixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに

    #fnaf

    過去ログ1子ども達の楽しそうな笑い声が辺りに満ちている。ピザの焼ける香りに包まれた店内に窓から暖かい日差しが差し込んでいた。平和の象徴だった。誰も彼も笑顔を浮かべてフレディ・ファズベアーズ・ピザの店内での時間を楽しく過ごしていた。
    この店の看板の一つであるアニマトロニクスが廊下を歩いていた。歩く度に身体の内側に敷き詰められたバネが軋み、金属製の関節が唸る。だがそれらを含め、アニマトロニクスモードが起動中である証拠の小さく唸るモーター音と重たい足音は扉を開けてすぐに掻き消された。

    「フレディ・ファズベアーズ・ピザへようこそ!さあ今日も楽しんでいってくれ!」

    よく響く低くて耳障りのいいようにチューニングされたフレディの声と、聞いているだけで楽しげで心が躍るような音楽がステージから沸き起こった。フレディを真ん中に並べられたウサギのボニーとヒヨコのチカが音楽に合わせ、それぞれのプログラムに沿ってパフォーマンスを行う。
    一心にステージを見つめる子ども達はそれが決められたことなのだと知りようもないだろう。アニマトロニクスなんかじゃなく、心のある動物が子ども達のためにピザやケーキを用意し、もてなしてくれているのだと少しも疑っているはずもない。
    ステージの邪魔にならないようにそっと部屋の隅へ行き、椅子にお行儀よく座る子ども達の顔を眺めた。お客様である子ども達が怪我をしたり泣いたりしていないか、またはフレディ達のステージの邪魔をしないかをチェックするために。そうプログラムされた以上、このアニマトロニクスもそうするしかなかったからだ。
    そのプログラムされた視界をくぐり抜けた者が一人だけいた。派手なステージの光彩の影に隠れながらそっとアニマトロニクスの隣に並んで、ふかふかのガワに包まれた手をぎゅっと握る。

    「スプリングボニー!」

    右手を掴んだお客様へスプリングボニーは視線を移すと子どもの目線に会わせてしゃがみ込んだ。

    「こんにちは。楽しんでるかい?」

    音声認識がプログラムされたスプリングボニーは簡単な会話など容易く行えるほどの人工知能が施されていた。人間味を与えるためにできる瞬き何度かをすると小首を傾げて小さな手を優しく握り返した。
    そうすると嬉しそうに男の子は頷き、満面の笑みを浮かべてスプリングボニーのボディに抱きついてステージを眺めた。ケーキを食べたばかりだったのかその手にまだクリームが付いておりスプリングボニーの毛並みを汚したが、それを気にするのは経営者のみだ。アニマトロニクスがそれを気にするはずもない。
    『ショーの途中で騒いではいけないよ』
    そう書かれたポスターの約束事をきちんと守っているのだろう。フレディ達がステージを終えるまで男の子は口を開かなかった。
    飽きっぽい子ども達のために短めに組まれたステージが終わると、嬉しそうに男の子はスプリングボニーの顔を見上げウサギのようにその場で跳ねた。

    「すごかったね!スプリングボニーも見たでしょ!?」

    興奮冷めやらぬといった具合にまくしたてるとスプリングボニーの腕を掴んでブンブンと振った。その勢いに肩の関節が付いていけず、モーターが空回るような音を立てる。また店じまいをした後にはまた修理されるのだろう。

    「そうだね。君が喜んでくれて嬉しいよ」

    ステージが終わるごとに簡単なメンテナンスチェックを行うためにフレディ達が舞台袖へと引っ込んでいく。
    この時間はスプリングトラップにとって多忙な時間だ。暴れん坊な子ども達の多くを一体で引き受けなくてはならないのだから。
    ステージが完全に幕が下ろされると、スプリングボニーに気が付いた子ども達がわらわらと群がり始めた。

    「スプリングボニー!遊ぼう!」

    「こっちに来て!」

    「このピザとっても美味しいよ!」

    音声認識が追いつかないほど多くの子ども達がスプリングボニーに話しかけ、抱きつき引っぱり、ときには蹴ったり叩いたりした。それでもスプリングボニーに怒りの感情はない。そもそもプログラムされていないものがあるはずないのだ。
    ―――だとすれば
    スプリングボニーはプログラムされた知能を越えたところで考えた。
    ―――僕は壊れている
    第一にこんなことを考えること自体がおかしいのだった。プログラムされたこと以上のことをスプリングボニーは考えていた。そして何よりバグが起こっていると実感するのは、こうして子ども達に囲まれている瞬間を楽しいと感じていることだ。
    誰に何をされても敵意を持たないように設定されていたが、感情を持てなどプログラムされているはずはない。”大好き”と言われたら”嬉しいよ”と返すように設定されているとしても、それは感情じゃない。あくまでプログラムにしか過ぎない。
    Botとして用意された言葉ではなく、作られたバネとコードとワイヤーなどで作られた内部のどこかに生まれたものをスプリングボニーは知らなかった。そしてこれを誰かに聞いてしまえばバグとして直されてしまう。バグは直すべきものだと知りながら、スプリングボニーはそれを直したいと思えなかった。
    ―――やはり、何か壊れてしまっている
    人間で言う骨組みが外れてしまった肩に子どもが伸し掛かる。どんなに遊んでも遊び足りず、暴れ足りることのない子ども達を相手にスプリングボニーはプログラム通り尽きっきりで相手をした。
    そしてメンテナンスを終えたフレディ達がメインホールに現れると、何人かはようやくスプリングボニーから離れていった。
    廊下から子どもの甲高い悲鳴が聞こえる。続いて泣き叫ぶようなけたたましい笑い声が響いた。体内にセットされた時間は、ちょうどフォクシーの出番を示している。アニマトロニクスが全員表に出る時間だ。それが物語ることと言えば、今が一番子どもが多い時間だった。
    日曜日の午後、両親に連れてこられた幸せな子ども達の弾けるような笑い声が響く。ここよりも幸せな場所なんてないと、ずっとスプリングボニーは思っていた。

    「メンテナンスの時間だ。スプリングボニー」

    “メンテナンスの時間”という言葉が音声認識機に滑り込むとスプリングボニーは近くの子ども達に小さく手を振った。この言葉を聞くとスプリングボニーは一旦電源が落とされるまで行動が大きく制限されてしまう。
    だがおかしい、と何かを感じていた。内部の時計はメンテナンスの時間ではなかった。あるいはタイマーがずれており、それを直しにいくのだろうか。または…スプリングボニーの隠しているバグがついに見つかってしまったのだろうか。
    ―――嫌だ
    明らかにプログラム外の感情がスプリングボニーに芽生えた。それもネガティブな感情が。

    「おい、どうした?参ったな……。バグか?」

    その言葉もスプリングボニーの耳にしっかりと聞こえた。そしてそれが意味する言葉の意味もだ。
    アニマトロニクスらしく何の感情も見せず、警備員の後を付いていった。
    廊下には子どもはいなかった。ちょうどステージの時間だからなのだろう。警備員がスプリングボニーを連れて行った先は部品置き場になっている部屋だった。いくつものガワが並べられている。そしてその隅に、ゴールデンフレディのガワが投げ捨てられるかのように置かれていた。アニマトロニクスとしてあまりにも不憫で、悲しい姿だ。
    警備員はスプリングボニーを部屋の真ん中に立たせるとクランクを片手に近づいた。着ぐるみモードにされる時間なのだろうか。再びスプリングボニーは嫌悪感を覚えた。こんな感情を覚えるなら、このバグだけ直して欲しいと思うほどの嫌悪感だ。

    「悪いけどな、お前は今日でお役御免だ。”スプリングトラップ”」

    聞き慣れない言葉が、認識できない言葉が流れ込んでくる。それと同時に不穏な気配が部屋に満ちていくのを感じていた。

    「知能があるから一応、説明しておくよ。お前に重大な欠陥が見つかったんだ。この店のためにもお前は今日でお仕事は終わり。”スプリングトラップ”、今まで店の顔として働いてくれてありがとう」

    嫌な笑顔だ、と更なる嫌悪感がスプリングボニーに広がっていった。エラーだろうか。目の前がチカチカ瞬く気持ちの悪さによろめきそうだった。

    「……違う」

    クランクを片手にした警備員が驚いたように血の気が引いた。

    「”スプリングトラップ”?」

    「僕は”スプリングボニー”だ」

    それを聞いた警備員はああ、と呟くと腑に落ちたようにニタついた笑みを浮かべた。

    「そう呼ばれる理由は、その欠陥にこそにあるんだよ」

    「僕に欠陥なんてない。僕はまだ働ける。放っておいてくれ」

    全てプログラムから大きく外れた言葉を並べてしまった。今までできるかもしれない、と可能性を確信していただけで試したことはなかったことだ。それをよりにもよってこの男の目の前でしてしまった。そのことへの後悔すら覚え始めるほど、スプリングボニーは感情に目覚めてしまっていた。

    「お前……」

    アニマトロニクスからかけ離れた言動に驚愕と恐怖に青ざめ、興奮と喜びに頬に朱が差している。その二つが折り混ざり、その顔色はまるで紫だ。

    「どうしてよりにもよってお前だったんだろう。いや、でも…他の人形も可能性があるのか?」

    何かに憑かれたように警備員がクランクを片手にスプリングボニーへと迫った。子ども達のように体当たりでもしようかとまで考えたものの、スプリングボニーにそこまではできなかった。所詮、基本はプログラムされたところまでしかできないのだ。その上メンテナンスの時間という呪いに縛られていた。

    「ゴールデンフレディとお友達だったろ?さあ、傍に行ってやれよ。アイツもきっと喜ぶぜ」

    クランクでスプリングが巻き上げられていく。巻き上げられ身体の中身がどんどん空っぽになっていく感覚にスプリングボニーは小さく呻いた。全てのスプリングが巻き上げられたときスプリングボニーのはシャットダウンされる。目の前がゆっくりと暗くなる。シャットダウンを告げる電子音が内側から響いていた。最後の眠りに就くまでに子ども達の笑い声が聞きたかったが、夢の亡がらを隠す部品置き場にその声は届くことはなかった。

    あれからどれほどの時が過ぎたのか。次にスプリングボニーが目を覚ましたときには店は変わり果てていた。
    ザザッ…ザザッと砂嵐のようなノイズが耳障りだ。それより気になることは内側が発熱したように熱かった。何年も起動することがなかったため、すっかり体中冷めきってしまっていたせいだろうか。
    ふと視界に映った関節も錆でボロボロだ。その関節に油を注す代わりに流れ込んでいるのは錆より鉄臭い血だった。スプリングボニーを中心に血溜まりが広がっていく。それを見て全てを察した。そしてスプリングボニーが抱えていた重大な欠陥とやらも。

    「スプリング…トラップ……か…」

    発した声もノイズが走り、音が割れて何と言ったか聞き取れないほどだ。これだと子どもの相手もろくにできるはずがない。
    ぐるぐると動く視界が次に捉えたものは、フレディ、チカ、ボニー、フォクシーの着ぐるみだった。ガワだけで中身は入っていない。しかしついさっきまで誰かが被っていたかのように塵一つすら被っていない。

    「僕も…そっちに、行って……いいかい……?」

    目の前がシャットダウンするようにブラックアウトしていく。しかしスプリングを巻き上げられていない。スプリングボニーにプログラムの決定的な崩壊が訪れようとしていた。
    こうなるまでにフレディ達も感情が芽生えていたのかもしれない。スプリングボニーは初期に作られたタイプであったために目覚めるのが一足早かっただけで、皆同じようにバグを抱えていた。
    そしてスプリングトラップの欠陥によって死んだ男はそれに気が付き、ここへと逃げ込んだ。だがあの男がバグに恐れを成しただけではないのは確かだ。あの男は人形達の扱いを知っていた。一番複雑なスプリングボニーの扱いを知っている以上それは疑いようがない。だとすれば、人形たちと一つになった子ども達の無念の魂が…。ここまで考えたところで機械仕掛けの脳が唸りをあげてエラー音を鳴らした。ブツッブツッと視界が暗転を繰り返す。その間に見えたものはかつての子ども達の笑顔だけだった。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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