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    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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    DONEモブ狩人がルドウイークにクソデカ感情を一方的に寄せる話
    暴力表現有
    傾倒する狩人の話曇った窓ガラスに雨粒が伝う。重力に従い流れていくそれは自分の人生だ。いずれ父親の石膏細工の家業を継ぐだけのつまらない人生になるのだろうと、黒い革を重ねて繋ぎ合わせたグローブで窓ガラスを撫でる。だが、今日から雨粒が天に昇るように自分の人生も変わるのだとまだ若い狩人は確信していた。先日、祖父の代から続いていた石膏細工屋は廃業した。正しく言えば、家屋が潰されたのだ。家屋だけではない。ともに逃げ隠れていた老いた父と母までもを失った。黒い毛が逆立った金の目を輝かせた獣によって。だが、自分だけは生きている。
    吐いた呼気で窓ガラスが曇った。しかし憂鬱な呼吸には幾分の興奮も含んでいた。その視線の先には一人の狩人がいる。この市街に住む人間で知らないものはいないだろう。教会直属の狩人だ。そして自分は彼のおかげで生き延びたのだった。父の腹を裂き、母の首の骨を砕いた後、狙いを定めて歩み寄ってきた獣の腹を銃で撃ち抜き、一瞬の隙も与えぬ間も無く大剣で首を切り落とした。その剣技は鮮やかで少しの迷いもなく、月明かりのように鋭い一太刀が闇に閃いた。それを思い出すと脳に火照りを感じる。その熱は心臓にまで届き、異様な興奮に囚われる。熱に浮かされていると指摘されれば静かに頷くだろう。その興奮は自覚的でありながら静まることがない。この感情を言い当てるなら敬慕の他になかった。視線を窓ガラスから下ろし、装束越しに左腕を撫でる。革で作られた装束は分厚い。だが指で押すように撫でれば針で空いた穴がチクリと痛み、初めて教会の門を叩いた日のことを思い出した。
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    CAN’T MAKE俺に同棲設定は無理だったよ
    供養机の上に置かれているのは真新しいフォークだ。どこでも買えるような安物だがその切先は鋭い。肌を突いてみれば容易く皮膚が裂けて血が溢れるだろう。そんな物騒なことをクレタスは夢想した。だがそれが叶わない妄想だということはよく分かっている。拘束されてもいない腕は自由にならない。害意を持ってそのフォークを握ることはできないのだ。ましてやそれを自分の首に突き立てることだってできない。自由を奪われることは苦痛だ。その苦痛をより上回るのが現状だった。
    陽光が差し込む一室は穏やかな日常そのものだ。机の上に置かれた白い皿が反射して目が眩む。舌打ちをして目を逸らせば陽の光を遮るように腕が伸びた。そうして皿の上に置かれたのは焼き立ての薄いパンケーキだった。バターの溶ける香りはこの状況でさえなければ食欲を誘っただろう。だが今は胃がひっくり返るような拒絶感を招くばかりだ。挽いたコーヒー豆の香りも嫌に脂っこく感じて喉の奥がひりつく。檻の外で、ダイナーでもなく何処かのアパートらしき一室で朝食を用意されるなんて経験はクレタスは初めてだった。だが新鮮な驚きもない。あるのは焦燥感だけだ。どうすればこの現状から逃れられるのかそればかりが思考を渦巻く。
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    過去ログ31これが夢だということはすぐにエディは理解していた。自分は決して反社会的ではなかったし、暴力沙汰も好まなかった。だから今、この両手が血に染まっていることは夢だとすぐに気づくことができた。骨まで焼けつくような憤怒も。今すぐにでも目の前の男を殺してやりたいと思うほど増幅する殺意も。

    「俺はお前なんか知らない」

    目前の人物は細身ながら引き締まった青年だろうことが伺える。赤と青のスーツに身を包んだ体は地面に伏していた。エディが、ヴェノムがそうさせたのだ。拳で殴打し、腹部を蹴り上げ、爪で皮膚を裂いた。猫が鼠を嬲る残忍さだった。普段のヴェノムからは想像もできないような行動だっただろう。これが正義の元の鉄槌だったとしても決してここまでするはずがない。そして今はあんなに煩わしかったはずのヴェノムの声は聞こえなかった。何度も呼びかけてもお節介なエイリアンの声はエディの耳にも脳にも届かない。声はなくともエディに響く言葉はあった。それは一つ、『殺せ』。それだけだ。戦意を失った奴にトドメを刺せ。心臓を抉り出せ。脳を食い破れ。到底正気ではない言葉が投げかけられる。どうしたんだというエディの問いかけにも応えない。いくら夢であってもこんな悪夢があってたまるだろうか。
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    過去ログ28拳で他人を打ち付けるようなことは過去に何度もあった。喧嘩であれ諍いであれ。そして悪人を罰する瞬間であれ。それは確かに暴力だった。そして今この瞬間もそれは一方的な暴力以外なんでもないだろう。すでに消灯時間は過ぎて暗くなった静かな牢の中に殴打の音が響く。合間合間に悲鳴のような苦痛の喘ぎを漏らす惨めな男の声も。その音は看守の耳にも届いているのだろう。しかし駆けつけてくる気配はない。それもそうだろう。エディにわざわざ目の前のクソッタレ殺人鬼の話を吹き込んでエディの嫌悪感を掻き立てたくらいだ。こうなることは予想し、望んでいたに違いなかった。
    鼻腔から流れた血で濡れた胸ぐらを掴み、壁際に押し付ける。牢獄の壁はコンクリート張りだ。冷たく硬い無機質さがクレタスの体を通じて伝わってきた。身長差も助けられ、その痩せた体は軽々と宙に浮き上がる。多少の抵抗はあるかと思ったが力なく両足はだらりと下がるだけだった。無抵抗のままでいればことが済むとばかりの様子に一層エディの怒りが湧き出てくる。罪のない市民を喜んで嬲り殺したと語った男のその浅ましさにも、今のこの態度にも。全てがエディの神経を逆撫でする。
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    過去ログ26全身に走った衝撃と痛みで意識が朦朧とする。受け身も取れず後頭部を叩きつけたせいだろう。薄い膜を隔てたように視界はぼやけて痛みも吐き気も衝撃も、全て現実味がなかった。しかし、現実味がないのは今日だけではなかった。クレタスにとって全てが古いレンズ越しに覗いたように色の褪せた虚像でしかなかった。祖母も母も飼い犬も。
    そんな中、暴力だけが常に自分に親身に寄り添っていたとクレタスは確信していた。家族の虐待も、父の暴力も、孤児院の子供のいじめも全てが自分を親身に育ててくれたのに何故。どうして今となって暴力までもが自分を負けに導いたのかクレタスにはわからなかった。
    焦点が定まらぬ視界に真っ黒な影が落ちる。昔、孤児院で夜中まで起きていると悪魔がやってきて攫っていくという噂が流行ったことを思い出した。フランシスもクレタスもそんな噂話を恐れなかったし、そんなものがいるのなら皮を剥いで標本にでもしようかと肩を並べ語り合ったこともしっかりと思い出せる。あれは、雨上がりの午後のことだった。蜘蛛の巣には雨粒がいくつも煌めいていて、羽をむしり取った蝶を巣に引っ掛けながら話した日のことだった。指についた鱗粉は妖精の魔法の粉のように輝いていた。それをフランシスの手指に擦り付けた瞬間にだけ、クレタスは確かに安らぎを感じていた。その日々さえ遠くに去り、ここにはない。
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    過去ログ21血を吸って湿った砂塵が靴底でじゃりじゃりと鳴る。乾いた空気はひどく冷え、気が緩めば足が竦んでしまいそうだった。見慣れたヤーナムの街はひしゃげて歪み、整地された道は木の根のようにねじれて小山のように盛り上がっている。岩場を登るように、ときには這うように進んでも見えてくるのは見慣れた筈の聖堂街だ。
    そこに人の影はあった。しかし正気を失い、生ける屍のように血を求めて彷徨う狩人がいるだけだ。かつては自分と同じように狩人だったであろう獣を狩り、肉を裂いて浴びる血に喜びを見出していた。妙に明るい街並みを見渡し、霞む瞳を手で拭う。

    罹患者の症状の一つである、蕩けて崩れた瞳孔のような太陽が不気味に明るい。なんの温かみのない光が崩れたヤーナムを照らしていた。がり、と硬質な地面を爪でかく。腕の力で這い上がれば見えたのは異様な風景だった。ほとんどの道も家も崩れ切ってしまっているのに聖堂街だけはそのままの姿を保っているのだ。また、がりと音を立てて岩のように凹凸が目立つ地面に爪を立てる。見れば爪を立てた場所には深い爪痕が残されていた。背中の産毛が逆立つような不安を感じてルドウイークは装束の手袋を外した。手袋の下には割れた爪が並んでいた。割れた爪の間からは血が滲んでいる。それなのにもはや痛みらしいものさえ感じることもなかった。ルドウイークはここ数ヶ月前から痛みを感じることも少なくなっていた。痛みどころか肉体で感じ得る感覚全てが鈍くなり、体を薄い膜が包んでいるように現実味が薄くなっていた。
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    過去ログ10ここは地獄だ。そう独り言ちたのは帰る家を何年も前に無くしたような襤褸を纏った一人の男だ。目元は古びた包帯に巻かれ塞がれているが、不思議と視界に問題はなく岩場をゆっくりと降っていく。降る途中、目についたのは青白い肌をした巨人だ。その巨体に釣り合いの取れた大砲のような銃を構えている。
    こちらに気がついていないのを幸いに、シモンは静かに弓を引いて狙いを定めた。毛髪のない巨人の頭だ。狙いを定める時間は短いにも関わらず、矢の切先は巨人の頭部を貫き脳漿をぶちまけた。巨人の命を刈り取ったのを見届ければ、またゴツゴツとした足場の悪い岩場を降る。
    鼻につく血腥さはべっとりと張り付き、吐き気を誘った。
    シモンは口と鼻を覆うように襟を立て、袖口で顔の半分を抑える。血の川が流れるのは一際目立つ、壮大な教会だった。地面を埋めつく夥しい量の血は教会から流れている。本来であれば救い手になる為の聖域だ。そこから穢らわしい血が溢れかえっているのだ。その悍ましさに身の毛がよだつのを堪え、慎重にその足を進めていった。べちゃりべちゃりと靴底を鳴らすのは血だけではない。砕けた肉片までもがへばり付いているのだ。
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    過去ログ4今にも雪が降ってきそうな灰色の空をした日のことだった。吐く息は白く濁って空の色に溶け込んでいく。どんよりとしたこの鉛色の感情も溶け込んでしまえば楽になれるのにと少年はとめどなく溢れる涙を袖で拭った。着古して薄くなったコートの袖は涙をたっぷりと吸って重たくなっている。
    今日は少年の7歳の誕生日だった。本当ならフレディ・ベアーズ・ダイナーで誕生日会を開いてもらえる予定だったが……。今日に限って両親の仕事が立て込みパーティーの計画はキャンセルされてしまった。両親の仕事が忙しいのはわかっている。少年の家は自営業を始めたばかりだった。

    『仕事が軌道に乗ればフレディのお店よりも立派になるぞ!』

    パーティーが急遽取りやめになった少年を慰めようとした父の言葉を思い出したが、そんなことはどうでもいいのだ。せっかくの誕生日なのにパーティーも開かれず、フレディから誕生日の冠もメダルも首にかけてもらえない。こんな不幸はなかった。ケーキはフレディの店に頼んでいたから用意できないが、プレゼントだけは用意してくれると母が約束してくれた。だがそれが望みじゃない。一番の仲良しの友達のようにフレディのお店でパーティーを開いてバースデーケーキが欲しいだけ。ちゃんと誕生日の日にだ。来週の日曜日に新しくパーティーの予約を入れてもらったからというのは少しも慰めにならない。
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