甘くとかして※誰も死んでない、ヒナちゃんとは円満お別れの謎時空。
色々捏造。ちょっとだけドラエマ。
* * *
「ねぇ、今日なんの日か知ってる?」
そう声をかけた先、見上げたタケミっちは不思議そうな顔をしてた。
今日は朝からずっとソワソワしっぱなしで、エマには呆れられて、真一郎には苦笑された。一番ムカついたのは下の兄、イザナに鼻で笑われたことだ。もちろん喧嘩になって、エマにお玉投げられた。丁度イザナとの真ん中らへんに飛んできたから二人して避けたら、止めに入った真一郎にスコーンッ! って当たってんの。マジどんくせー。
なんでそんなにソワソワしてるかって、んなの決まってんじゃん。今日はバレンタイン!
学校なんて行ったら面倒なことになんの分かってっし、前はタケミっちがいなかったから、「まぁ、いいか。真一郎が悔しがるだけだし」って思ってた。けどさ、せっかく恋人ができたなら一緒にいたいし、用意もしてくれてるだろうから、他の人からもらうのもちょっとな…、って。だから学校は自主きゅーこう。
家にいるのもすっげぇ暇だったけど、「あんまり強引だと嫌われるよ!」なんてエマに言われたから、ちゃんと放課後まで待って、ホントは校門のとこで待ってようとしたんだけど、さみぃし、早く顔見たかったから教室まで迎えに行っちゃった。んで、まだ先公いたけど、「終った?」って聞いたら「や、まだ…ぃぇ、終わりました…」とか言うから、タケミっちの荷物持って出てきたんだ。これにチョコ入ってんのかな? ってニコニコしちゃった。
さみぃからウチ行こって言ったのに、「すんません、今日は夕飯当番なんス。カレーにします!」なんて呑気に返してきて、あれ? ってこの時に一つ目の違和感。
なら、公園でちょっと話そうってタケミっちの家の近所の公園まで他愛無い話をしながら歩いた。
そこの公園、周りをグルっと大きな木で囲ってて薄暗いし、遊具が少なくて子供は全然。夜になると俺らみたいなののたまり場になるみたいで大人も寄り付かないから、ちょっと駄弁るのには丁度いいんだ。恥ずかしがり屋のタケミっちもここなら人が来ないから恋人繋ぎしても、キスしても許してくれるから、放課後とか集会後のもうちょっと一緒にいたい時に使ってんだ。いつもの定位置。外灯下のベンチで横並びにピッタリくっついてさ。タケミっちは話が尽きないのかたくさんしゃべってた。
「それで、山岸のやつなんて言ったと思います? 〝オレはメガネかけてるから頭いいんだよ〟って! ホントバカですよねぇ」
「うん…」
「あ! もうこんな時間。帰って準備しなくちゃ…」
溝中5人衆なんて言ってるだけあって、仲がほんといいよね。ニコニコとかわいく楽しそうに話すタケミっちはいいんだけど、この時点で二つ目の違和感なわけよ。
木がうっそうとしてるから日が暮れはじめれば、公園内はだいぶ暗くなる。その暗さに気づいたタケミっちが帰るって言いはじめて。
名残惜しそうにはしてるけど、チョコを渡したいような素振りには見えないし。
公園でもオレが持ってたタケミっちのカバンに手をのばしてくるのは視界に入ってたけど、キュッて握りしめて渡すのを拒んだ。
そんで冒頭の言葉に戻るわけだけど、タケミっちは「はへ…?」とか呟いたっきりきょとんとした可愛い顔でそのおっきな目をパチパチと瞬きを繰り返してた。これはもしかしたらもしかするかもしれない、いやな予感。どうしてもその嫌な予感をぬぐいたくてタケミっちに向けて手ぇ差し出したんだ。
「ん、」
「へ? あ、え? えっと……」
目をウロウロとさ迷わせて意を決したように、でも恥ずかしそうに頬を染めて。
ぽふり、といつものように手を繋いできた。
「…………や、違くて」
「ひゃへっ⁉」
普段はあんなに鈍臭いのに、シュバッと機敏に手をホールドアップして奇声を発した。なんだよひゃへって。
そうそう、タケミっちって見た目通り子供体温なんだと思ってたらそーでもないみたい。俺のが体温高くてよく「温かいっすね」なんて言われる。だんだん俺の熱が伝わって暖かくなると手汗が出てきて余計に顔真っ赤にしてるのもかわいんだ。
話逸れちゃった。何にもわかってないタケミっちにもう一度同じ言葉をかけてやる。
「タケミっち。今日なんの日かわかってる?」
「今日? 何の日って…んと14日? ……14、2月14…あ、バレンタイン⁇」
「そ! 何だわかってんじゃん。ほら、渡すもんあるだろ」
「あ、え…ぇぅ…」
焦ったように目をうろうろさせて言葉にならない声を出して、「どうしよう…」って思ってるのがありあり分かる。まさか今日がバレンタインなのも分かってなかったなんて思わなかった。きっと持ってないんだろうなって思ったけど、どーしても諦めきれなかったから意地悪な聞き方しちゃった。
「学校でもらったり、配ったりしてるやついなかったの…?」
「うちの学校、前に問題起こしたらしくてお菓子類の持ち込み禁止なんス…、そっかだから今日持ち物検査あったんだ……」
「ふーん」
これでもし誰か女の子からもらってたら、殴ってやろうと思ってたけど、そっか学校自体が禁止してんだ。しかも結構厳しめ。一体何やったんだろうな?
さて、それはそれとして、どうしてやろうと思うわけよ。恋人なのにイベント事忘れられて、お仕置きかな? なんて考えてたら、オロオロしてたタケミっちが何かをひらめいたのか喜色を浮かべて立ち上がった。
「ちょっと待っててください‼」
「あ、おい!」
下手くそな走り方で、音にするならドタドタってなってそう。そんな後ろ姿を見つめて、公園から出ていくのを見送ると、どっかでコケそうだな…、なんて心配になる。っていうかあんなんで体育とかちゃんと出来てんの? あいつの怪我が多いのってまさか自分で転んだとかもあるんじゃ…。まじか、ほんと鈍臭くてかわいいな。
そんなことをつらつら考えてたら、10分もしないうちに行きと同じく危なっかしい走り方でタケミっちが戻ってきた。
「お待たせしました! 手持ちが全然で、これしか買えなかったんスけど…」
そろりと出てきた手のひらに乗ってたのは、最近コンビニでも買える四角いミルクチョコレートが2つ。
「あ、やっぱイヤっスよね……あの、後日で良ければもうちょっとマシな」
「いいよ、これで」
「のを……、へ?」
早口でまくし立てるのを遮って、ひょいと一つチョコレートを手に取って目の前にかかげる。
あーあ。恋人から貰う初めてのチョコがこれかぁ、ま、タケミっちらしいか。
でもここ数日ドキドキしてた俺がかわいそーだから、ちょっと意趣返し。ガサガサと包装を剥がしてチョコを手に取ると、オロオロしてるタケミっちの口に突っ込んだ。
「え、マイキーくッ、んむっ⁉ うんん⁉ ッ‼」
「…は、んむ」
突っ込んだチョコを追いかけてぱくりとタケミっちの口にかぶりつく。下唇を甘噛してから舌を入れて口内で溶けはじめたチョコを奪ったり、戻したりして、なくなるまで繰り返した。最後に、口端から垂れちゃったチョコ混じりの唾液をぺろりと舐めて離してやる。
「はぅ…、な、なな! なんっ、」
「これでチャラにしてやるよ。来年はちゃんと用意してよね」
「は、はひ…」
「あともう一個あるでしょ、食べさせて」
「ええッ⁉」
「なに、すっかり忘れてたのこれで許してあげんだから文句なんてねーよな?」
ガッチリ握り込まれたもう一つのチョコを指差して凄んで見せれば、真っ赤にしていた顔を青くさせて目に涙を溜めはじめた。逆効果なんだよなぁ、もっといじめたくなる。
「ほら早く。帰ってカレー作るんだろ?」
「〜〜ッ、分かりましたよ!」
乱暴にガサガサと包装を剥がして、少し溶けたチョコを摘んでこちらに向けるかと思いきや、はむッとタケミっちの唇で挟んでさっきまで青かったのに、今度は首まで真っ赤にしてギュッと目を瞑ってる。
「ろぅひょ……」
え、なにそれ。タケミっちのことだから、あ~んってしてくれっかなって思ってたのに、まさかの口移し。
マジそういうとこだぞタケミっち。
その後どうしたかって? そんなん、据え膳なんたらだって、だいぶ理性持ってかれてチョコがなくなっても離してやれなくて腰砕けにして、ベンチに逆戻りさせたのは、あんなことしたタケミっちが悪いと思う。
ちょっとだけ来年もこれでいいかな…、なんて考えちゃった。
「どしたん? ケンチン」
「…や、どうもこーもねーんだわ。俺はそんな話聞くためにわざわざ呼ばれたわけか? ア?」
野郎二人でファミレスのチョコパフェを食べながら、今日あったことを語って聞かせれば、げんなりしてすごまれた。
「えー、だってタケミっち帰っちゃったし。それに話だけじゃねーよ?」
そう言って席の隣に置いてた手提げから箱を取り出すと、ケンチンへ差し出す。
「はっぴーばれんたいん〜。これ、エマからね」
「メインそれじゃねーか‼」
最初は訝しそうにしてたけど、“エマ”って聞いたら目見開いて箱を大事そうに奪ってった。早く伝えちゃえばいいのに“まだその時じゃない”とかカッコつけちゃって先延ばしにしてる。それが気に入らないエマは、ちょっとした駆け引きのつもりで直接渡さないんだって。しょーがねぇからお兄ちゃんは配達員をしてやるのだ。それの駄賃代わりに恋人の可愛いさ自慢したっていいじゃん。
ちなみに、帰るのが遅くなったタケミっちはもちろんお母さんに怒られながら、一緒にカレー作ったんだって。隠し味はチョコレートでしたって言ってた! 俺にもいつか作ってくれっかな?