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    k_hizashino

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    k_hizashino

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    恋愛関係じゃないんだけど長い付き合いでやたら距離感の近い大般若と主。今日ふっとみたらいつも凛々しい姿の主が縁側で大般若にもたれかかってうたた寝をしていた。お互いの選んだ関係がどうあれ、大般若のそばでならあんな風に安心できるのならそれは喜ばしいことだ。みたいな本丸の刀による日記。

    残鐘「今日は主も大般若も仕事が立て込んでいるようでお互いに顔をあわせてはいなかった。だがそれを気にしている様子もなく、滞りなく仕事をしていた。あの二方は仲が良く、それとなく二方でいるところを見かけるのでそうでないときはむしろこちらが気忙しく思ってしまう」

    「主は色恋を好まぬ方であった。ゆえに大般若があの宴の最中に自分が主に恋慕していると告げた時はヒヤリとしたものだ。そう告げず傍に仕えるのみでよしとしようとする刀たちも数は少なくなかった。あの豪気さはあの刀があの刀たる所以だろうか」

    「あるいは思いつめてもいたのかもしれない。実際思いを告げたあと、主がそれを断ってからはふさぎ込んでいたし、自身を折ってほしいとも進言したと聞く。主は刀を大切にされる方であったからもちろんそれを断った。どんな思いなら受け取ってくれるのか、大般若は問うた」

    「主は、刀と主としてなら、と答えた。実際それは主がこれまで貫いてきた姿勢であるし無理からぬことであろう。大般若はそこで一旦は引いたがしかし諦めたわけではなかった。刀と主の有り様にも様々ある。そう言って主に、主が受け取りやすいようにして自らを意識してもらえるようにしたのだ」

    「最初は主もどうしたものかと悩まれていた。これまでほかと距離を保ってきた中で大般若だけを特別扱いするわけにもいくまい。からといって大般若だけを遠ざけるようなことはできないお方だった。我々も主の思いを受けた刀であったから、主の苦しむ姿など見たくはない」

    「もし主が思い詰めるようなことがあればすぐに我らでどうにかしようと。結果的にそれは杞憂であったが。大般若は距離感という点に対して慎重すぎるほどに慎重だった。また書物やほかの人間と親しむことで人間の機微に関しても学んでいるようだった」

    「人の身を持って思うのは、外から見ていたほど人の生とは儚いものではないと言うこと。刀として敵を斬ることが一番を占めてはいたが、我らにも人を真似て生きる時間ができた。その中で身に起こったことのすべては新鮮であった。ああ、こうして痛みを感じるのだと、こうして思いを募らせるのだと」

    「時代が移り、人の死ににくくなった中でも変わらぬものはあり、その度にこれまで我々を継いで来た人の有り様を思う。明日死ぬとしても今日学ぶことは決して無駄ではないのだと。それを大般若も思ったのだろうか。例え別れることが決まっていても、今慕うことは無駄ではないのだと」

    「書類仕事を手伝うこと。時々ともに茶を飲むこと。酒を注ぎ注がれすること。四季の移り変わりを楽しむこと。護衛に名乗りをあげること。主の話を聞くこと。主のこれまでを聞くこと。これからを話すこと。その場その場にある話の流れに逆らって恋を歌うことは決してしなかった」

    「ただ寄り添った。主の有り様を受け止めて、そこに寄り添った。その点に関しては人の有り様に従う物だった。大般若はジッと主のそばにいた。それはすべてを肯定するわけではなく、進言するところではし、教える時は教えて、学ぶところは学んだ、意思ある物だった」

    「主と大般若が築いた関係は信頼という名で呼ばれるかもしれない。だがその名ではおさまりきれぬものだった。だからこそ、あまり趣味がいいとはいえぬがこのように二方の有り様の記録をつけている。自分もまた希っているのだ。例え残らぬとしてもこの行いは無駄ではないのだと」

    「今日でこの記録も終わりとなる。主は主の役目を終えたからだ。我らは主とともに生き抜いた。戦いは終わった。なんと喜ばしく、悲しいことか。主と別れを告げねばならぬことも、友と別れを告げねばならぬことも、人の身と別れを告げねばならぬこともすべてが悲しい。そして何より」

    「あの二方が離れなくてはならないことが」

    「ただ一人だけではなく、その一人が築いた関係ごと私は愛してしまった。愛さざるを得なかった。どうして憎むことができよう。主の暖かな微笑みを、それに真摯に寄り添った兄弟刀のことを。より別れが辛くなることなど分かりきっていたのに」

    「今日だからこの記録に残そう。私は自らの思慕を自らにおしとどめられはしなかった。だからこそここに思いを記した。記さずにはいられなかった。あるじ、大般若。わたしはきみたちをあいしている。どうか、わかれてもまためぐりあうことがありますよう」

    「そして、ふたかたがわらいあうところに、わたしがいますよう」


    「二×××年 第×××××号 称梔子本丸 小豆長光」
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    k_hizashino

    DONE恋愛関係じゃないんだけど長い付き合いでやたら距離感の近い大般若と主。今日ふっとみたらいつも凛々しい姿の主が縁側で大般若にもたれかかってうたた寝をしていた。お互いの選んだ関係がどうあれ、大般若のそばでならあんな風に安心できるのならそれは喜ばしいことだ。みたいな本丸の刀による日記。
    残鐘「今日は主も大般若も仕事が立て込んでいるようでお互いに顔をあわせてはいなかった。だがそれを気にしている様子もなく、滞りなく仕事をしていた。あの二方は仲が良く、それとなく二方でいるところを見かけるのでそうでないときはむしろこちらが気忙しく思ってしまう」

    「主は色恋を好まぬ方であった。ゆえに大般若があの宴の最中に自分が主に恋慕していると告げた時はヒヤリとしたものだ。そう告げず傍に仕えるのみでよしとしようとする刀たちも数は少なくなかった。あの豪気さはあの刀があの刀たる所以だろうか」

    「あるいは思いつめてもいたのかもしれない。実際思いを告げたあと、主がそれを断ってからはふさぎ込んでいたし、自身を折ってほしいとも進言したと聞く。主は刀を大切にされる方であったからもちろんそれを断った。どんな思いなら受け取ってくれるのか、大般若は問うた」
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