カリム×監督生♀ ようやく異世界環境と言うものに慣れてきた監督生は、モストロ・ラウンジでのアルバイトを検討し始める。しかしそれを知ったカリムは、「何が欲しいんだ? これで足りるか?」といっぱいマドルを差し出す。それに監督生タジタジ。
「えっと……カリム先輩。お気持ちは嬉しいんですけど、このお金は受け取れません」
「えっ……!? 🌸、オレの事が嫌いなのか!?」
「いえ、そう言う訳ではなく……!」
ショック!と分かりやすく顔に出るカリム。それを見て必死に、監督生は誤解を解いた。
「カリム先輩の事は、お友達だと思ってます。だからこそ、お金を借りたくないんです……」
「返さなくて良いんだぞ?」
「余計にダメです!」
監督生は必死に、「そのお金は受け取れない」と説得する。そんな監督生の姿に、カリムも「🌸がそこまで嫌がるなら……」といっぱいマドルを仕舞い込む。説得が通じたことに監督生感動。その場はこれで収まったが、カリムのアジームムーブはこんなもんじゃなかった。
「🌸! これを受け取ってくれ!」
「えっ、えー……!?」
ある日の放課後。カリムに引き留められ、渡されたのはラッピングされたあれやこれや。それを一つ一つ指さしながら、カリムは嬉しそうに告げる。
「何が欲しいか分からなかったから、🌸に似合いそうなのを選んだんだ!」
「あの、カリム先輩……!」
「これはカーテン、こっちはキッチングッズ、あとこっちはワンピースに……。あぁそれから!これは最新型のパソコンで……」
「カリム先輩!」
監督生は声を張り上げ、カリムの言動を制止させた。カリムはと言うと、驚いた様子で監督生を見つめる。何か言おう、でもどう伝えよう。そう悩む監督生の姿を見て、カリムはシュン……と小さくなった。
「ごめんな、🌸。オレ、またなんかやっちまったか……?」
「えっと、その……なんて言うか……!」
カリムの行動が、善意からくるものだと分かっている監督生。だからこそ言いづらいし、申し訳ない気持ちが募る。それでもはっきり言わなければ。監督生は腹を括った。
「カリム先の気持ちはすごく嬉しいです、ありがとうございます」
「!」
「でも私は……友達に施して貰うほど、今の生活に困窮してません」
「……? 違う! ごめんオレ、そんなつもりじゃ……!」
「はい、分かってます」
監督生は必死に、無い語彙をかき集めて言葉を紡ぐ。そう、物を恵まれたい訳ではないのだ。そして何か簡単に譲られるほど、自分が価値ある人物だとも思っていない。カリムの善意は暖かい。しかし、それが監督生には少し重い。
「貰った物は、大事に使わせて貰います。でも先輩、お願いですから、もう私に何でも贈らないで欲しいんです」
「……うーん、うん、分かった!🌸を困らせたくないからな。🌸に黙って、こう言うプレゼントは今後控える!」
「ありがとうございます、カリム先輩」
そうして贈られたプレゼントを持って、二人でオンボロ寮へと向かう。その道中、世間話程度に、監督生はモストロ・ラウンジでアルバイトが決まった事をカリムに告げた。それにカリムは、自分の事のように大喜び。
「じゃあ🌸の初出勤の日は、オレも店に行くな!」
「はい、待ってます! ……あ、でもカリム先輩って、ジャミル先輩の手料理以外は食べられないんじゃ……?」
「オレは食べられないけど、誰か連れて行くから大丈夫だ!」
そうして日溜まりのように笑うカリムに釣られて、思わず監督生もにっこり。モストロ・ラウンジでのバイトを頑張ろう、と気合いが入る。
そして迎えた、初出勤の日。
「……🌸?」
「いらっしゃいませ、カリム先輩! 早速着てくれたんですね!」
「その服……!スカートが短くないか!?」
「えぇ?こんなものですよ」
ジャミルを連れてやってきたカリムは、監督生の制服を見てびっくり。学生服よりもヒラヒラで、そしてやはり丈が短い。監督生に見惚れるカリムの頭を、ジャミルが遠慮なく叩く。こうして気を取り直すと、監督生は二人を席へと案内した。
「すみませーん、注文お願いします」
「はい、すぐお伺いします」
テーブルに案内された後も、カリムの視線はジッ……と監督生を追っている。視線に気づきながらも、監督生はそれを無視。忠実に仕事を全うする。ジャミルはと言えば、カリムも監督生も無視して料理を食べ続けている。「まぁまぁだな」となかなか辛口のコメント。
ふとそんな時、監督生がとあるテーブルへと料理を運んだ。運び終わった後も何だかんだと声を掛けられ、監督生は席を離れることができない。やがて困惑した雰囲気を察知したカリムが、素早く監督生へと声を張った。
「🌸ーーーー! 注文良いかーーーー!?」
カリムの良い声は、店内にはよく響いた。まさに天の助けとばかりに、監督生はカリムの下へ。「お待たせしました、ご注文をどうぞ」なるべく平静を装って、監督生はカリムを見つめる。カリムはにかりと微笑むと、自分の隣の席をポンポンと叩いた。
「🌸を買う」
「……え?」
「🌸の時間を買うぞ! 時給はいくらいなんだ? オレはその倍を出す」
「おい、カリム……!」
さすがの発言に、ジャミルは慌てて制止を掛けた。カリムがイケメンでなければ許されない発言だった。だって内容だけ聞けば、キャバ嬢に言い寄る無茶な客そのものだ。カリムの言葉に、思わず店内がシィンと静まる。ジャミルを無視して、監督生を見つめたまま微笑むカリム。そんなカリムに、硬直の解けた監督生もにこりと微笑む。
「お断りだ、帰れ」
「……えっ」
柔らかな微笑みと一致しない、ドスの聞いた低い声だった。思わずカリムは声を漏らし、ジャミルも監督生を凝視する。監督生はそれ以上何も言わず、笑みを浮かべたまま席を離れる。そんな監督生の手を、カリムは慌てて掴み取った。
「っ🌸! 待ってくれ!」
「…………」
「ごめん、ごめんな……。オレ、また何かやっちまったのか……?」
縋るようなその声に、監督生は思わずカリムへと振り向く。眉を下げて、今にも泣きそうなカリムの顔。その子犬の様な愛らしさに監督生は、思わずキュっと眉間に皺を寄せる。監督生は自分に、”諭されてはいけない。自分は怒っているのだ!”と必死に言い聞かせた。そうしてカリムに捕まれた手を振り解くと、「食事が終わったら、帰って下さい」と紡ぐ。そうしてそのまま、監督生は振り返らずにホールから厨房へと消えてしまった。
「…………」
食事を終え、スカラビア寮に帰ってきたカリム。しかし普段の溌剌さはどこへやら。空気の抜けた風船のように萎んでいる。ベッドにうつ伏せになったまま、カリムは自分の行動を振り返る。
「……🌸に嫌われたらどうしよう」
そう口にしただけで、心臓にキュッと痛みが走る。謝りにいきたい。でももし、鬱陶しそうに見られたら?「もう顔も見たくない」と言われたら?カリムは現実から目を逸らすように、強く強く目を閉じる。
「おいカリム、来客だぞ」
「……?」
「ジャミル先輩、案内ありがとうございます」
「!!」
部屋の外から聞こえたのは、焦がれた監督生とジャミルの声。カリムは勢いよくベッドから起きあがると、すぐ様部屋の扉を開く。「🌸!!」視界に監督生が映った瞬間、カリムはその手を引き寄せ部屋へと連れ込む。「ぅ、わ!」為す術もなく、監督生はカリムの部屋の中へ。更には異性に抱き留められ、突然のことに思考は凍った。
「今日は本当にごめん!」
「……先輩」
「……ただ、羨ましかったんだ」
「羨ましい?」
「だってあいつ……お前と仲良さそうに喋ってたから……」
それは、モストロ・ラウンジでの出来事。カリムには監督生が、他の生徒と微笑ましく会話しているように見えたのだ。それがとても、ズルいと思った。羨ましいと。お前ちょっとそこ代われ、と。そうして行き着いた思考が、「🌸の時間を買う!」と言うものだったのだ。不器用にもほどがある。
「……私もさっきは、キツく当たってしまってすみません。あの、これをカリム先輩に……」
「オレに?」
「はい」
そうして差し出されたのは、パワーストーンのブレスレット。それにカリムは見覚えがあった。監督生が普段、肌身離さず持っているものだ。
「っでもこれ……!」
「あっはいそうです、お揃いです」
「……え、お揃い?」
よくよく見れば確かに、今も監督生の片手には、カリムと同じ物がはまっていた。二つ並べて比べてみる。カリムの方だけが、監督生の物より少し石が大きく見えた。そこでようやく、監督生はすべてを語る。
「カリム先輩には、普段からお世話になっているので……。ずっと、お礼がしたかったんです。覚えてますか? カリム先輩、私のブレスレットを見て、”綺麗だな”って言ったんですよ」
そこで監督生は、お礼に同じパワーストーンのブレスレットを贈ることにした。石も、その紐も、すべて自分で調達した。その為に始めたアルバイトだったのだ。そのことを知り、カリムの胸はジワジワと温かい物が広がる。それはやがて全身に浸透し、カリムはポッと顔を染めた。
「🌸……」
「……その、なんて言うか……。”貰う側”じゃなくて、”上げる側”になりたかったんです。自分の努力で、カリム先輩に贈り物がしたかった。だから、簡単にお金をひけらかすカリム先輩に、少しイラッとしてしまって……」
”傷つけてすみませんでした”、監督生がそう謝ると同時に、カリムはキツく彼女を抱きしめた。胸に監督生の顔が当たる。髪から甘い香りがする。抱きしめた身体はどこまでも柔らかく、カリムは視界がクラクラとした。
「あの……カリム先輩」
「……うん」
そう答えるのが精一杯だった。それでも自然と、抱きしめた腕に力を込める。硬直していた監督生も、段々と力を抜いていく。そして控えめに、カリムの腹部の服を掴んだ。
「(あ、好きだ)」
その時、カリムは自覚した。自分は監督生が好きなんだと。この存在を、手放したくないと。贈り物をするのは、優しさや慈悲だけではなかった。ただただ監督生に、自分の存在を刻みつけたいだけだったのだ。
「なぁ、🌸」
「はい?」
「お前が好きだ。結婚しないか?」
「……は?」
カリム・アルアジームの辞書に、躊躇や遠慮と言う文字はない。
その日から監督生は、カリムから熱烈な告白を毎日のように贈られることになるのだった。