蜘蛛の糸 酷くして欲しい。珍しい弥鱈からのおねだりに、うんと酷く甘やかして抱いた。
皺まみれのシーツ上で身体をとろりと熱に蕩けさせながら「酷い男」と啜り泣く様に「望んだ通りだろう」と返したのが、昨夜。朝の白い光が差し込むシーツに転がり昏々と眠る顔は、門倉の目に酷く幼く映る。だからこそ、その泣き腫らした瞼や、頬に残る乾いた涙の跡が目を引いた。頬に手を伸ばし、慈しむようにその輪郭をゆるりと撫でてやる。
聞いた事の無い着信音。端的に交わされるやり取り。消えた数日間。帰宅時の黒いネクタイとスーツ。弥鱈のこの数日について、察しはつくものの此方から何かを言う気は毛頭なかった。成人してから出会った以上、互いに知らない夜があることは当然で。晒される部分外に触れる必要はない。互いにそう分かっているからこそ、弥鱈とのこの関係は楽だった。その筈だった。
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