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    tatuki_seed

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    tatuki_seed

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    尾誕生日おめでとうございます!!
    原作軸にて、師団の面々にお祝いしてもらう祝福話です。

    両手いっぱいの「誕生日おめでとー」
    この上なく不満げな声で発せられた聞き慣れぬ言葉に、足を止めた尾形がそちらを振り返った。
    「何だそれは」
    「は?忘れたの?」
    顔中に不服の文字を浮かべた宇佐美が不快そうに表情を浮かべた。
    「正月に鶴見中尉が仰られてただろ」
    などと言われてもぴんとこない。
    正月の休み、と言っても、大半の人間は兵営で過ごすことが多い。全国から集まっている第七師団は多少の休みでは家に帰ることも困難だからだ。道内に家族のいる、ごく一部の者が帰る程度のもの。遊郭を始めとした店々も閉まっているので、兵舎で見飽きた顔と酒を飲むしかない。
    それは27聯隊も当然同じであり、酒保に集まるのは変わり映えしない面子。ただ一つ違うのは、普段は精々下士官までしか訪れぬところへ、将校たる鶴見もいるという点。
    元より下の者にも気安く、下戸ゆえに酒癖が悪いということもなく、まして正月ゆえの無礼講ともなれば、兵たちにも快く受け入れられており、まして宇佐美などは喜んでべったりと隣に座ったまま離れる様子がない。
    とはいえ鶴見に心酔している者ばかりというわけもなく、どちらかと言えば鶴見を苦手とする尾形も彼の視界に入りにくい席で静かに振る舞い酒を飲んでいたのだが。
    「そういえば最近は誕生祝いというのが流行っているようだな」
    きっかけは、鶴見のその一言だった。
    『年齢計算ニ関スル法律』が施行されたのは少し前のこと。一月一日に皆一斉に歳をとるのではなく、それぞれ生まれた月日に歳をとるというそれはまだまだ馴染みが薄く、それでも確かに一部では浸透しつつもあった。
    鶴見の言葉を皮切りに、じゃあ今日に年齢が変わるわけではないのかと言った声があちこちで上がる。
    「そういえば尾形上等兵の誕生日は今月の22日だったかな」
    唐突に名を呼ばれ、尾形が酒を傾ける手をぴたりと止めた。周囲の視線が一斉に尾形へと向く。
    明らかに不快を表へと出した尾形に、その隣に座っていた谷垣がハラハラしたように尾形と鶴見の顔を交互に見比べる。が、肝心の鶴見は意にも介さずにこにこと笑っている。尾形の機嫌一つを気にするような性質ではない。
    相手は仮にも上官だ。深く溜息を吐いた尾形が、手にしていた猪口を卓に置いて顔を上げた。
    「よくご存知ですね」
    本当に、そう思う。まさか部下全員の誕生日を覚えているわけでもなかろうが、少なくとも尾形の誕生日は正しく覚えていたようだ。
    「なら近くてちょうどいい。お前の誕生日には何かお祝いをあげよう」
    ざわ、と空気がざわついた。
    発言そのものもそうだが、その相手がまた悪かった。何しろ尾形は上等兵ながら、一等卒からクソ呼ばわりされるほどに人望がない。どう考えても嫌がらせだ、と思ったところでどうしようもない。
    「折角だから皆も何かあげるといい。誕生日とはそういうものらしいからね」
    地獄だ。
    更にざわつく周囲も、腫れ物に触るかのように声を掛けてくる谷垣をも無視して、猪口に残る酒を一気に呷った。



    「…あれか」
    針の筵としか言いようのない、あの地獄のような時間を思い出してしまった。苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる尾形へと、此方も嫌々と言わんばかりの表情で手にしたものを押し付けた。
    「ほら、ありがたく受け取れよ」
    押し付けられた黒い缶を受け取り、軽く傾ける。それなりの重さがある缶の中で揺れる液体の動きで、ほぼまっさらに近い程度には中身が入っているのだと知れる。
    「使いかけじゃないのか」
    「失礼だな。そんなガキくさい真似するかよ。お前とは違うんだよ」
    あれだけ嫌そうな顔をしておいて、どの口がそれを言うのか。
    だがまあ、ありがたいのは事実であり。
    「…貰っておく」
    「はぁ。素直にありがとうって言いな?そんなのだからいつまで経ってもガキなんだよ」
    「知るか」
    真顔で返すと、これまたわざとらしい特大の溜息が吐き出された。
    「まあいいよ。鶴見中尉殿がお前に何かやれって仰るからやっただけだしな」
    じゃあねと、ひらり手を振る宇佐美の背を見送ってから、誕生日祝いだというそれを見る。黒い油缶の中身は、当然銃を整備する際に使う油だろう。
    幾ら心酔する鶴見の言葉とはいえ、あの宇佐美が物を寄越してくるとは予想外だった。しかも適当な物ではなく、確実に尾形が必要とするものである辺り、彼の性格が分かるようでもある。
    ともあれ油缶を持ち歩いていても仕方ない。内務班へ置きに戻るかと己の寝台のある班へ戻る途中、扉を開けて班から出て来た2人と遭遇した。
    「げ」
    「クソ尾形」
    「仮にも上官だぞ。陰口はせめて本人の耳のないところで言え、二階堂兄弟」
    同じ顔をした2人が同時に同じ渋面を作り、互いに囁き合う様子を見た尾形が呆れ、2人が出て来た扉へ目を向けた。ここは二階堂兄弟の内務班だったか。
    目の前でクソ呼ばわりされたところで大して気にもならないが、上官たる本人の目の前でそれを言ってのける図太さは評価出来る。
    双子にしても似過ぎている二人を区別できる人間は少なく、特に区別をしようと考えたこともない尾形の目にも同じに見える2人は、こちらの苦言を微塵も聞き入れることなくそれぞれの分身へと話しかけている。
    「どうする洋平」
    「中尉殿も言ってたし仕方ないだろ浩平」
    特に区別をしようと考えたこともない、が、やはり少し違うか。少なくとも2人の性格は、その姿ほどに全く同じではない。
    「ちょっと待ってて下さい、尾形上等兵殿」
    内緒話にもなっていない相談を目の前でやってのけた後、洋平と思われる方が出て来たばかりの班へと戻って行った。浩平と2人残されるが、互いに話すことなどあるはずもない。
    目を合わせることもなく黙り込んでいた2人のうち、双子の片割れが不意に口を開いた。
    「…何でそんなもの持ち歩いてんですか」
    「あぁ?」
    「油缶」
    言われ、手にした缶へ視線を落とす。
    「宇佐美にもらったんだよ」
    「宇佐美上等兵に?」
    「誕生日がどうとか…」
    「お待たせしました」
    珍しく浩平との会話が続く中、漸く洋平が班から出てきた。その手には何かが包まれた風呂敷。
    「風呂敷は後で返してください」
    押し付けられたそれを反射的に受け取ってしまった。中身は何やらごろごろとしているが、しっかりと口が結ばれていて中身が見えない。
    「おい、何だこれ」
    「蜜柑です。静岡の実家からいっぱい送られて来たんで」
    蜜柑とすれば、包みの大きさからして5、6個は入っているか。
    「誕生日でしょう、今日」
    「まさかお前らから物をもらうとは思わなかった」
    「ここで会わなきゃ渡してませんでした」
    浩平の言葉は本音だろう。たまたま二階堂兄弟の班の前で会ったからこそのはずだ。
    ともあれ蜜柑は嫌いでない。断る理由もない。ありがたくいただくことにする。
    片手に油缶、片手に蜜柑の入った風呂敷。早く班へ置きに戻ろうと改めて思ったところで、再び己を呼び止める声が聞こえて来た。
    「玉井伍長」
    「野間。岡田」
    振り返るより早く、そちらを向いていた二階堂兄弟がやってきた人物の名前を口にした。
    己の名を呼んだ岡田だけなら無視してやろうかとも思ったが、上司たる玉井もいるのであれば無視は出来ない。仕方ないなと両手が埋まったまま体ごと振り返る。
    「何だ、もう両手が塞がってるじゃないですか」
    「その風呂敷何ですか?」
    「俺たちがやった蜜柑だ」
    野間が意外そうに呟く横で、風呂敷の中身を洋平に聞く岡田が「俺も欲しい」とねだっている。そういうのは後でやれ。
    「ほら、誕生日おめでとう、尾形上等兵」
    「俺ら3人からです」
    「ボロボロになってきたから、そろそろ新しいのが欲しいって前にぼやいてたでしょう」
    玉井が尾形の腕にぽんと、畳まれた白い布が掛けられた。広げることができないので見られないが、野間が口にした言葉で思い当たるのは普段から使っている外套だ。軍衣と異なり支給品ではないので買いに行く必要があり、それが億劫で今に至るまで新調し損ねていた。
    近いうちに買わねばと思っていただけに、素直に有り難い。
    「ありがとうございます」
    「うん。お前が喜んでくれたなら何よりだ」
    人の良い笑みを浮かべた玉井が尾形の頭を撫でながらうんうんと頷いた。そこまで歳の差はないだろうに、どうにもこの人は己を息子か何かのように扱うきらいがある。
    油缶と蜜柑の入った風呂敷、外套。これは本格的に置きに戻らなければならない。が、遅かった。
    「あ、尾形上等兵殿!」
    「…谷垣ィ…」
    手が塞がっているのが見えないのか。
    谷垣なら無視してもいいだろう。名を呼ぶ声が聞こえなかったふりをして立ち去ろうとしたが、谷垣の声と共に聞こえて来た声がそれを許しはしなかった。
    「聞こえてるんだろ、百之助。無視するなよ」
    「…何でお前がいるんだよ」
    いやいやながら振り返った先には、いつも通りどこか困った様子の谷垣と、その隣には先とは違って何故か機嫌のいい宇佐美。
    「さっき谷垣と行き合ってね、…ふふっ…谷垣が…お前を探してるって言うから…」
    堪えきれない笑いが宇佐美の口から漏れる。間違いなく碌なことにはならない。
    何はともあれ、聞こえなかったふりをして立ち去るという手段は断たれた。仕方なく宇佐美の隣に立つ谷垣を見上げる。
    「何の用だ」
    ここまで来れば用件は分かっている。律儀で几帳面なこいつのことだ。わざわざ探していたと言うのだから、誕生日のお祝いとやらを持って来たに違いない。
    それでも凄むように聞いてやると少し怯んだ谷垣が、ぐっと堪えるように唇を引き結んで勢いよく頭を下げた。
    「お誕生日おめでとうございます!」
    力強い祝いの言葉と共に差し出されたものに、8人もの男が存在する空間に沈黙が走る。
    時間が止まったかのような間の後、あははは!と宇佐美が最初に笑い出した。それを皮切りに固まっていた面々がそれぞれに動き始める。
    「あはっ、あはは!ほんとウケるー!!」
    「お前、何を思ってそんなもの…」
    爆笑して笑い転げる宇佐美とは逆に、詰ることすら忘れたかのように絶句する。言葉の出てこない尾形の代わりに、その内心を代弁するかのように野間が口を開いた。奇妙な空気の中、頭を上げた谷口が気まずげに頭を掻く。
    「その…何を差し上げればいいか分からなかったので、普段世話になってる人にお礼をするなら何を渡せば良いのか相談したらこれを下さって…」
    「誰に聞いたんだ」
    「街で荷物を持ってさしあげたご婦人に…」
    「それ絶対好い人相手だと思われてるだろ」
    一等卒どもの会話を聞きながら、気持ち的にも物理的にも受け取れずにいるそれを見つめる。
    紅色の花。寒椿。それが一輪。
    確かに、谷垣が相談を持ちかけたご婦人とやらは、その「世話になっている人」を「好いた女」だと勘違いしたのだろう。それは仕方のないこととはいえ、そうしてもらった花を馬鹿正直に男に渡そうとする発想が尾形には理解できない。
    「ほら受け取ってあげなよ、百之助。ああ、手がいっぱいで受け取れないのか」
    そしてその話を聞き、嬉々としてやってきた宇佐美が谷垣の手からひょいとそれを取り上げた。
    「おい宇佐美。何をする気だ。ちょっ…止めろ!」
    「んー、髪がないからなぁ」
    制止の声を意にも介さず、宇佐美が尾形の前で何やらやり始めた。尾形の視界の外で為されるそれは、しかし何をしているかは容易く知れて。
    「うん。これで大丈夫。我ながらいい感じ」
    「ふざけんな!」
    やり取りに気付いたその場の人間が一斉に2人の方へと顔を向ける。一呼吸の後、二階堂兄弟が弾かれたように笑い出し、野間と岡田が頬を引き攣らせた。谷垣が言葉もなく口をパクパクさせて、玉井が…
    「おや、意外と似合うじゃないか」
    「冗談でも止めてください」
    枝を耳に掛け、髪飾りのような装いとなった花を落とそうと首を振るが落ちない。何をどうやれば坊主頭にこれほどしっかりと固定させられるのか。それをやってのけた張本人である宇佐美は二階堂兄弟と一緒に笑い転げている。
    「あ、いたいた。尾形上等兵殿」
    「何の騒ぎなの?」
    そう広くない兵舎の通路に更に人が増える。
    「あ、三島、前山」
    岡田の声にちらりとそちらへ目を向ける。こいつらの用件も当然、己の誕生日のお祝いだとかいうやつだ。つくづく碌なことをしてくれねえ、と肋骨服姿の上官を思い出すところへ、ぷっと三島が噴き出す音が聞こえた。
    「あはは!お、尾形上等兵…何、その花!」
    「わあ、可愛い」
    笑われても褒められても屈辱なんてことはそうそうないだろう。
    「てめえら…用がないならさっさと班に戻れ」
    他にも誰が通りかかるか分からない通路の真ん中で見世物になるなど真っ平御免だ。
    ぎろりと睨むも花をつけていては威力も半減するのか、寧ろ滑稽なだけなのか、ひいひい笑いながら三島が何やら小さな紙切れを差し出して来た。
    「これ、誕生日のお祝いに来たんですよ」
    差し出されたは良いが、受け取ることが出来ない。それに気付いたらしい三島が、その紙切れを尾形の前にピラリと掲げた。そこに書かれた手書きの文字に目を滑らせる。
    『尾形上等兵ノ代ワリニ椎茸ヲ食ベル券 全五回』
    小さな紙の真ん中に2行に渡って書かれた一文の下に丸が5つある。
    「一回食べたらここにバツをつけます。5個バツがついたら終わりです」
    丸を指差しながらの説明を聞く後ろから覗き込んだ野間が「良い手を考えたな」と三島に声をかける。金も手間も掛からない上に、内容もきちんと尾形が喜ぶであろうものになっている。
    「妹がよく、肩たたき券なんてのを親に渡してたのを思い出してさ」などと話すのを横目に、今度は前山が外套の上に何やら小さな箱をポンと乗せた。
    「誕生日おめでとうございます。尾形上等兵、甘いものは食べられましたよね?」
    「まあ、人並みには」
    特別好むわけではないが、人に貰えば断らないくらいには食べる。その返事を聞いた前山が小さい目を更に小さくして笑った。
    「それは良かったです。花園団子、人気なんですよ」
    聞いたことはある。この近くの花園公園で売られている団子だったか。甘味好きの鶴見のお気に入りでもあったはずだ。
    「あ、俺のは風呂敷に突っ込んどきますね」
    野間との会話を終えた三島が、蜜柑の入った風呂敷の隙間から持っていた紙切れを押し込んだ。
    しかし狭い通路に総勢10人。最早何の騒ぎなのかも分からない。何故か楽しげに盛り上がっている。これ以上巻き込まれる前に班に戻りたい。
    油缶を持つ腕に掛けられた外套。その上に置かれた団子の箱を落とさぬよう一歩踏み出したところで。
    「おい、お前たちこんなところで集まって何を騒いでる。通行の邪魔だろう」
    こっそり抜け出す前に叱責を受けてしまった。
    この場にいる誰よりも階級が上である軍曹の言葉に全員が揃って口を閉ざし、条件反射のように背を伸ばして直立をした。それは上等兵に過ぎぬ尾形も同じことで。
    「何だここにいたのか、尾形上等へ、い…」
    尾形がいることで何の騒ぎか察したらしい月島が、しかしその姿を見て目を丸くして言葉を失った。
    「…何も言わんでください」
    その原因が、右耳の上に飾られた花にあることは言わずもがな。月島の後ろにいた鶴見が「悪くないじゃないか」と感心したような声を漏らす。鶴見と玉井と前山は歪んだ感性を持っているのかと苦々しく思うところへ、漸く我に返ったらしい月島が花には触れることなく、何かを誤魔化すように咳払いをした。
    「んっ、あー…尾形上等兵。誕生日おめでとう…と言っても、これ以上持てそうにないな」
    言いながら月島が差し出してきたものに、一度は静かになった場が再びざわめき始める。
    「これは…」
    「いや、必需品だし消耗品だから…」
    「しかし誕生日に贈るには…」
    背後から聞こえてくる諸々の感想を耳に、差し出されたものをまじまじと見る。
    「…あの、軍曹殿。一応聞きますがこれは…」
    「褌だ。お前は酒も煙草もやらんし、何がいいのか分からんかったのでな」
    確かに外套と同じく支給品ではなく、しかも定期的に買う必要があるものだ。そして万人が使うものである以上、これを断る人間もそうそういないだろうが。
    「…ありがとう、ございます」
    まさか人から褌をもらう日が来るとは思わなかった。それも衆人環視の中で。この色気のなさが月島らしいといえば月島らしくはあるのだが。
    酒保で買ってきたらしい新品の褌が風呂敷包みの上に乗せられる。
    「私からは月寒あんぱんをあげよう」
    今まで黙って楽しげに様子を見ていた鶴見が、にこにこ笑いながら、さらにその上へと大きなあんぱんを乗せた。もはやバランスゲームのような有様だ。
    「それにしても随分と祝ってもらったようだな」
    鶴見の言葉にゆるりと目を瞬かせ、視線を落とす。
    整備油にみかん、外套、椎茸代食券、団子、褌、あんぱん。それと視界にはないものの一応、花と。貰った品を見てから落とした視線を上げて周囲を見回す。この場にいるのが12人。そこから自分自身を除いて11人。そう思えば確かに多くの人数に囲まれている。
    「どうだね、尾形上等兵。生まれてきたことを祝われる気持ちは」
    それを、この場で聞くのか。
    「…思ったほど…悪い気はしないですよ」
    だからこの人は苦手なのだ。
    誰とも目を合わさぬまま素っ気なく答えると同時に体に衝撃を受け、腕の中のものが落ちぬよう慌てて蹈鞴を踏む。
    「だから素直になれって言ってるだろ。嬉しかったなら素直にそう言えよ」
    「うるせえ」
    がっしり首に腕を回してきた宇佐美を横目で睨みつける。
    「言い方が生意気だよな、浩平」
    「クソ尾形だから仕方ないな、洋平」
    二階堂兄弟が相変わらず上官を上官とも思わぬ言葉を隠しもせず口にする。
    「この人は素直じゃないですからね」
    「あれで喜んでるんだから分かりにくいったら」
    「尾形上等兵らしいじゃないか」
    野間と岡田が呆れたように呟き、玉井が笑う。
    「喜んでもらえたなら良かったです」
    一番突拍子もないものを持ってきた谷口が何故か喜ぶ。
    「尾形上等兵の物言いは今に始まったことじゃないしね」
    「ねー」
    深く気にした様子のない三島に前島が同意する。
    「そもそもこいつが素直だった試しなどないでしょう」
    月島が鶴見に声をかけ、鶴見が笑う。
    「そうだな。皆、それを分かっているようだ」
    確かに誰一人、尾形の言葉を鵜呑みにした者はいない。
    宇佐美に首を掴まれたまま、大きく溜息を吐き出す。
    誕生日が何だと言うのだ。そんなもの何の意味もないだろうに。
    再び賑やかになった通路の真ん中。
    それぞれに貰った品を抱えてゆっくりと口を開く。

    「…ありがとう、ございます」

    その唇は緩く弧を描き。
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