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    literatbarita

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    2024.5.10ピクリエのWEBイベント「れんぎゆcafe」に参加させていただきます!
    キ学の煉獄さんの誕生日前のお話です。

    #煉義
    refinement
    #れんぎゆ
    aLotion

    毛繕いドライヤーのスイッチを切ると、宙を揺蕩っていた黒髪は肩にふわりと着地した。
    しんと静まり返ったバスルームの中、微かな音がいくつか耳に届いてくる。遠くで鉄橋を渡る電車の音、国道を走る車の音。キッチンから冷蔵庫がカラカラと製氷する音。
    耳元で大きな風の音が続いていたせいか、普段は気にも留めない生活の音が、いつもよりもくっきりと聞こえてきた。
    義勇は、薄く曇った鏡に映る己を見る。しっかりと乾かしたつもりだったが、まだところどころ髪に湿り気が残っていた。
    (……杏寿郎の方が上手いな)
    一緒に暮らし始めてからと言うもの、杏寿郎が髪を乾かしてくれることが多くなった。変に甘えるつもりはないし、気恥ずかしさから勿論始めは断ったのだが、きっかけはある日の杏寿郎の一言だった。

    『俺がしてあげたいんだ。……駄目か?』

    柔らかな表情と口調で、眉を下げてそう尋ねられた。その寂しそうな表情を捨て置くなどできるはずもなく、そうなるともう、義勇に断る選択肢は無かった。
    それからは、二人が同じタイミングで風呂に入るときは、義勇の洗い髪はほとんど杏寿郎に任せることとなった。
    以前散髪に行った際に、杏寿郎は律儀にプロに教わってきたらしい。丁寧にタオルで水分を取り、手指で髪を持ち上げながら、根元から温風を当てていき、最後に冷風で整える。
    杏寿郎の愛情と手際の良さのおかげで、義勇の黒髪は、近頃同僚である宇髄や胡蝶にも褒められる毛艶になってきた。

    とはいえ、今日みたいに杏寿郎の帰りが遅い時などは当然自分で乾かすものの、中々彼がするような綺麗な仕上がりにはならない。
    己の見目など特に気にしてはいないが、杏寿郎が大事にしてくれるのだからせめて、自分で現状維持くらいはしないといけない気がした。
    ドライヤーしてくれる時の手順は覚えたから、自分自身ではなく人にやってやるのなら、おそらくまだ上手く行くと思う。

    ちょうどその時、玄関の鍵がカチャリと空いた。夜なので気を遣いつつも、ハキハキとした声が聞こえてくる。
    「ただいま!遅くなった!」
    「おかえり、杏寿郎。夕飯は食べてきたんだったな?」
    「ああ、出張の先生方と一緒に」
    くつろぐ前に風呂に入ろうと、杏寿郎は荷物を置きスーツを脱いで風呂場へと向かった。

    ざぶざぶとシャワーや風呂の水音がしばらく聞こえた後、バスルームは静かになった。湯船に浸かっているようだ。
    今日は遅めの風呂だから、程なくして杏寿郎は風呂から上がってくるだろう。
    義勇の読み通り、数分ほどして杏寿郎が風呂から上がり、風呂場の扉が開く音がした。
    それから脱衣所の戸が開き、ぺたぺた足音が近付いてきて、寝巻き姿の杏寿郎がリビングへと顔を出す。ほかほかと湯上がりのピンクの頬で、首を傾げながら義勇へと尋ねた。
    「義勇、ドライヤーが見当たらないんだが」
    「ここにある。こっちへ来い、乾かしてやる」
    「えっ」
    思いもよらない申し出に、杏寿郎の瞳が驚きで丸くなる。義勇の傍らには、厚手のタオルとドライヤーが用意してあった。
    「お前にばかり世話を焼かせてるから」
    驚いたまま、そして言われるままに杏寿郎は義勇の側に寄った。
    義勇がソファに腰かけ、その足元、敷かれたラグの上に杏寿郎が座る。姿勢はじっと大人しくしているが、その口元はそわそわと緩んで、金の瞳は爛々と期待で輝いていた。
    「……お前みたいにうまく出来るか分からないが」
    金の髪にタオルを被せ、いつも杏寿郎がしてくれるみたいに、指先をつかって優しく満遍なく水分を取っていく。それからドライヤーのスイッチを入れ、熱過ぎないように適度に離して温風を当てる。手指を使い、金の髪を掬い上げながら丁寧に乾かして行った。

    リビングにドライヤーの風音だけが響いている。
    しくじっては行けないと、義勇が集中しているのが指先から伝わってくる。杏寿郎は少しも彼の邪魔をしないように、姿勢正しく静かに大人しくしていた。
    君がせっかく俺に構ってくれる、世話してくれるのを、俺が遮ってはいけないと。
    そっと己の髪をかき分ける義勇の手指が心地良くて、何より彼が構ってくれるのが嬉しくて、杏寿郎は口元がむずむずと綻んでしまう。
    「熱くないか」
    「大丈夫だ!」
    「そうか、熱かったら言ってくれ」
    「ああ」
    返事をした途端、不意打ちに義勇の指が耳元や頸あたりにくすぐるように触れる。杏寿郎は思わず体が跳ねそうになったが、腹に力を入れて全力で耐えた。

    義勇はまだ知らないけれど、己は耳が結構弱いのだ。
    囁くなり触れるなり、耳の辺りをどうこうされるなど、お互い前後不覚の時だけだから。そして義勇の方があちこち弱いし、いつも先にいっぱいいっぱいになるから、彼はまだ気づいていないのだけれど。
    そのうち義勇には知れるのだろうが、いまここで変に己が力んで見せて、彼の手を止めるなどあってはいけない。
    浮かれつつも己を戒めている杏寿郎の器用さには気が付かないまま、義勇はドライヤーを最後に冷風に切り替え、全体を手櫛で優しく梳いた。
    「……よし、いいだろう」
    義勇が満足そうに小さく呟いた。杏寿郎と己の髪質は違えど、彼の手順手つきをうまく真似して、綺麗に仕上げられたと思う。
    「杏寿郎、終わったぞ」
    ふわふわと金の髪を撫でながら、義勇が声をかける。けれど、杏寿郎は足元から動こうとはしない。
    「杏寿郎?」
    義勇からもう一度声をかけられ、杏寿郎はくるりと身体の向きを変えた。にっこりと目を細め、義勇の足元に座ったまま、太腿に頬擦りしてきた。
    こんなにわかりやすく甘えてくるのも珍しい。温もりをはらんだ焔色の髪を撫で、義勇が柔らかく問いかける。
    「どうした」
    「……ありがとう、嬉しい」
    心底幸せそうに、低く小さな声で杏寿郎が呟く。
    「喜んでもらえたなら、良かった」
    杏寿郎の深く満ち足りた声音に、上手くできて良かったと義勇も一安心する。
    せっかくの週末だし、ビールでも持ってこよう。杏寿郎の誕生日のささやかな前祝いにと、取り寄せていたクラフトビールとおつまみがある。
    そう考え、義勇は立ち上がるため、頭を預けている杏寿郎の肩をぽんぽんと叩いた。
    けれど杏寿郎は、義勇の太腿に頬を寄せたままで、少しも動こうとしない。
    「杏寿郎」
    義勇はもう一度柔らかく名前を呼ぶ。自分が立ちたいのは分かっているはずだ。
    すると杏寿郎は身体を起こして、無言のまま義勇をじっと見上げる。
    「杏寿郎、キッチンへ行きたいんだが」
    杏寿郎は義勇を見つめたまま、小さく首を振る。いつもならばはっきり分かり易くものを言うのに、今は視線だけで訴えてきた。
    何をねだっているのか義勇は悟り、身を屈め、その両手ですべすべした桃色の頬を包んだ。何度か軽く唇を重ねて顔を離すと、声にならない声で杏寿郎が囁いた。
    「もっと」
    義勇は杏寿郎の寂しそうな表情にも弱いが、たまに見せる年下らしい甘えにはさらに弱かった。
    仕方ないな、と口だけ言って見せると、義勇は髪を耳にかけ、乞われるままにもう一度身を屈めて口付けた。唇を少し開き、一度目よりもやや深く。
    粘膜が触れる微かな水音がすると、杏寿郎の両腕が義勇の腰に回った。
    唇を重ねながら、杏寿郎は膝立ちになり、ソファに乗り上げる。義勇の方へ少し体重をかけて寝そべらせると、その上に覆い被さった。身体を密着させ、小さな彼の口へ舌を忍ばせて中を弄り、深く口付けた。
    薄い寝巻き越しに体温と湿度が伝わってくる。肌を隔てる寝巻きがもどかしいというように、忙しなく衣擦れの音を立てながら、何度も何度もキスを繰り返した。
    不思議だ。言葉もなくこんなに静かなのに、今はもう遠くの電車や車の音が聞こえない。届くのは相手の吐息と心音だけだった。
    気付けば湯上がりの杏寿郎と同じくらいかそれ以上に、義勇の頬は桃色に染まっていた。
    このまま流されてもいいのだけれど、今夜は杏寿郎の前祝いをしようと決めていたのだ。主導権を取り戻すべく、義勇が落ち着いた素振りで杏寿郎を見上げる。
    「お前の誕生日の前祝いに、お取り寄せのビールがあるから」
    「ありがとう、義勇。嬉しい」
    でも、と杏寿郎が続け、もう一度顔を近付けた。
    「まだキスしたい」
    先ほど心を込めて丁寧に乾かしてやった金髪が、義勇の頬をくすぐる。つやつやふわふわとしていて、気持ちが良くてこそばゆい。
    (日付が変わる前に、前祝いは出来るだろうか)
    そんな義勇の心配を読み取った上で、杏寿郎はにっこり笑って頬擦りした。それは確約できない、とでも言っているような。
    もうすぐ誕生日なのだし彼の望むようにさせてやりたい。そう思いながらも、義勇は少しばかり悔しくて、頭に浮かんだ一言を口にした。
    「……甘えんぼ」
    「君の前だけだ」
    そう言われてしまうと義勇には返す言葉がない。
    せめてものささやかな抵抗で「仕方ないな」と呟いて見せると、義勇は杏寿郎の頸に両腕を回した。
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