少々騒がしい店内の一角で、私達はバディ結成1周年を祝われていた。
メンバーはTPA内でオペレーターやメカニックを担当している先輩2人と同期1人。本来であれば、現役で活動中の先輩がもう一人来る予定だったのだが任務が入ったため急遽欠席となったらしい。
「俺から見ても、二人は最高のバディだと思うよ。入隊希望者が増えるのも当然っていうか」
「いえ、そんな。自分はまだまだですから、暁さんの力ですよ」
「謙遜することはない。君は暁くんの隣に立つために日々努力している。その成果が出ているということだ」
「そうそう。あのナハトと1年も続いてるんだからライゼはすごいと思うよ」
褒め殺しの数々に理人はすっかり顔を赤くしていた。酒が入っているのもあるが、照れの方が圧倒的に大きそうだ。
「そろそろ止めてください。理人が茹でダコになってしまいます」
バディを褒められて悪い気はしない。ずっと聞いていたいところだが、これ以上は理人が耐えられそうにない。
「ごめんごめん。なんだか嬉しくてさあ」
オペレーター担当の先輩が朗らかに笑う。
「ナハトにやっと相棒ができたんだもんねえ」
しみじみとそう言ったのは、メカニックを担当している同期の男。
その脇腹を私は軽く小突いた。
聞いていれば、さっきから一言多い。
確かに理人が来るまでに何人かと組んではいる。ついていけない、合わせられないと言われ、1年も経たないうちにバディを解消するばかりだったのも事実だ。
そのお陰で死神だなんだ嬉しくない二つ名が付きかけたのは忘れたいところである。
「まったく……」
自然と口角が上がりそうになるのを堪えながら酒を口にする。
ちらりと見やれば、理人も頬を染めながら穏やかに微笑んでいた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、私達は「末長くお幸せに」と見送られながら店を後にした。
飲み過ぎたのか少し足取りの危うい理人に、肩を貸す。
心配なのでそのまま部屋まで送ることにした。
「すみません暁さん」
ベッドに座らせると、理人は申し訳無さそうにそう言った。
「気にしなくていい。少し待っていなさい。今水を……理人?」
服の裾をくいと掴まれた。
「暁さん、私は貴方の役に立てているでしょうか?」
ぽつり、ぽつりと理人の口から小さな声がこぼれ出る。
「みなさん、ああ言ってってくださいました。すごく、すごく嬉しかったです、でも」
裾を掴む手に力が入ったのが分かった。
「それでも、貴方のような高潔で素晴らしい人の隣にいるのが自分で良いのか、バディとして役割を果たせているのか不安で――」
「なんだ。そんなことか」
私は理人の頭に手を置いた。幼子にするように、ぽんぽんと軽く頭を撫でる。
「お前はよくやっている。もっと自信を持ちなさい」
隣に腰掛けて目線を合わせると、理人の目には涙が滲んでいた。
「私のバディは理人だけなんだ。これからもよろしく頼むよ」
「はい、暁さん」
差しのべた手を理人は力強く握り返した。
「理人?」
水を持ってくると、理人はベッドの上で静かに寝息を立てていた。
「まったく」
コップをベッドサイドに置き、 起こしてしまわないようにそっと毛布をかけてやる。
一線は既に超えているというのに、寝顔を見るのはこれが初めてだった。
「私も、お前が言うような高潔な男じゃないんだがね」
理人の手首に口づけを一つ落とす。
バディ以上の関係になりたくないのかと言われれば、それは嘘になる。
だが――。
明日もその先の未来も共に歩んでいける。今はそれだけで充分だ。
「おやすみ理人」
部屋を出て、私は静かにドアを閉めた。