ガープとルージュの話南の海は冬でも温かい。黎明の頃ともなればさすがにやや肌寒いが、分厚い外套が必要というほどでもない。
島の中では新年を祝う宴の声が響いている。その熱狂に水を差さないよう、ガープはその喧騒から離れた裏道を一人急いだ。
この島の住人にとって一年ぶりの新年の宴なだけあって、歓喜の声はそれはもう盛大だ。昨年は皆、今のガープのように息を潜めて過ごしていたのだ。
誰もが解放的な気分に酔っているおかげで、ガープは誰にも見咎められずに目的地へ辿り着けた。
島の外れの一際静かな場所にその産院は佇んでいた。まるでその一角だけ切り離されたかのように静かで厳かに見える。
その空気の中でガープの軍靴の足音がやたらに大きく響いた。
「……懐かしい音です」
1936