あなたの愛を退ける 高校卒業してもお付き合いはそのまま継続してて、遠距離だけどなんとか休みを合わせて会ったりもして変わらないお互いの気持ちに満足して。角名が大学のレギュラーになってからの試合も観に行ったし、治のバイト先に角名が来ることもあった。
そんなある日、テレビが騒いでいたのはある有名人のスキャンダル。熱愛発覚と銘打ったそれは大々的に報じられてて、外に出る時はより一層慎重になったと侑が言っていたことを思い出す治。
一足早くプロの世界に入った侑も、会社やチームにどこで撮られるかわからないから節度を持った行動をと釘を刺されていたらしい。応援してくれるファンがいるのだから裏切るような行為はするなと。そこで、はたと気づく。
── 俺との関係は、角名のこれからにとっては邪魔なんじゃないかと。
本人はまだ迷っているようだが、複数のチームから声がかかっているらしい。そろそろ次の進路を決める頃合いで、タイミング的には今しかないんじゃないかと角名から離れる決意をする治。話があると言って電話をかけ、世間話の延長で「…俺ら、別れよか」と切り出す。
「…は?」
「これからお互い忙しくなって時間もとれんやろし、ここらが潮時なんとちゃうか」
「ちょっと待てって…。なんだよ、急に…」
「俺も自分のことで手一杯になってきよんねん。角名やって、これからのこと決めるのに忙しいやろ」
角名の言い分も聞かずに一人で話を進めて、勝手に完結させて一方的に電話を切る。かけ直してくるかメッセージでもくるかと思ったが意外にもそんなアクションはなく、それ以降角名からの連絡はなかった。
結局角名の進路はわからなかったが、侑によればプロチームとの契約が決まったらしい。ルーキーともなれば注目度も増すだろう。モンジェネ世代と持て囃されるのなら、なおさら。
(やっぱこれでよかったんや。俺との関係は…、これからの角名にとってマイナスにしかならん)
軋む痛みを知らんふりしてたある日の閉店後、暖簾を下げてるのに扉が開く音がしたので「すんません、今日はもう」終わりなんですよ、と続けようとした。それなのに、静かに佇んでいる角名の姿を見て呼吸が止まる。
一方的な別れを切り出して以降、角名からの連絡はなかった。唯一あったのは、店を開くことをグループチャットで連絡した際、みんなに混じって送られた「おめでとう」という五文字だけ。それなのにどうしてここにいるのかわからずにいると、角名がゆっくり近づいてきて真っ直ぐ視線を合わせてくる。
「俺ね、プロになったよ」
「…知っとる」
気になっていたけど本人には聞けなくて、侑経由で知ったこと。そうなるんじゃないかと思って、その可能性が高いと思ったから、俺は…。
「治に電話で言われたこと、納得できずにいたんだけど……そろそろ、区切りつけようかなと思って」
そう言って角名は怒るでも蔑むでもなく、優しく微笑う。慈愛に満ちた顔をしていながら、残酷なことを吐き捨てる。
「面と向かってさ、もう一回言ってよ」
そうしたら、ちゃんと納得するから。吹っ切れたように紡ぐ角名に、思わず想いが込み上げる。…別れようと、もう一度言えばいい。たった一言…、それだけでいいのに、唇が震えて声にならない。
「…っ、言える、わけ、ないやろ…っ」
顔を見ながら言えなかったから、電話越しで言ったのだ。直接対峙して言う勇気なんて持てなかったから、顔を見てしまったら決心が揺らぎそうだったから、あの日電話をかけた。一方的に言いたいことを言って、角名の言い分なんか聞こうともしないで。身勝手に切り出したから、また言えるとでも思ったのだろうか。そんなこと、あるわけないのに。
── だってこんなに……まだ、こんなにも好きなのに。
「…俺はね、まだ好きだよ」
俯いた顔を上げれば、瞳が潤んだ角名がいた。けれどそれは自分の視界のせいかもしれなくて、迫り上がってくるなにかを堪えるのに必死だった。
「治は俺のこと…もう、嫌いになった?」
「ッ、好きに、決まっとるやろ…!」
思わず抱き締めた身体は昔より少しだけ逞しくなっていて、相変わらずバレーが好きなのかと思うと同時に自分のこともずっと好きでいてくれたのかと思うと嬉しくて、溜まっていた涙が零れ落ちる。
「…よかった、直接来て」
「ッすまん、角名…。俺、ひどいこと言うた…」
「いいよ。…俺も、考えなかったわけじゃないから」
だから治の気持ちもわかったし、そうしなきゃいけないんだろうと思った。けどそれでも、どうしても恋しい気持ちが消えなかったんだと、寂しそうに角名が零す。
「…だから、来ちゃった」
これでフラれたらそれまでだって思ってたから、安心した。そう情けなく微笑う角名がたまらなくて、久しぶりに唇に触れる。
「…俺、諦め悪いから…もう離してやれんで?」
「気が合うじゃん」
ってお付き合い再開して、角名のチームの試合会場とかにも行くようになって、角名には特別おにぎり持たせたりしちゃって、たまにおに宮の二階に泊まって末永く幸せであれ。