age.15 月も星も届かない森の奥で、狼は手にした一つの灯りを手に草を踏んだ。
人も獣も寄り付かない深い木々の隙間を縫うように進む目には、夜闇に惑わされる事なく真っ直ぐと進むべき道を見据えて静かに光を纏うようで。
自らの足音のみが静寂に飲まれるのを耳にとめながら、狼はゆらりと尻尾を揺らして歩く。
野鳥の鳴き声も虫の羽音も無いわりに妙に煩いのは、そこに命だけは確かにあるからだ。
ただ全てが息を殺し、狼が行き去るのを待っている。
人も獣も、あらゆる命が息をひそめる森の奥を訪ねる者は無い。
狼すら、集落の大人たちに「決して近寄ってはならない」と言い聞かせられて育った場所。
夜をものともしない狼でも時間をかけて向かう先にいるのは、古くから森の領主と呼ばれるものだ。
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