ST闇慈ルート。「ザナフ、御津は氏(うじ)の贔屓(ひいき)の色子か?」
ちょっくら様子を見てくるわと闇慈が姿を消し、二人になったチップに、苦労して『友達』になった『侍』が不思議なことを訊いてきた。
「いろこ? Sorry. 言葉がわかんねぇわ。」
「ふむ。御津と同衾する仲ではないのか?」
「……やたら敏(さと)いな。」
今度は率直に言い表された言葉に、つい今まで子供のようにはしゃいでいたチップが、少しだけ警戒の色を覗かせる。
「我の人として生きた時代、そう珍しい物でなかった故な。」
我が主も小姓を側に置いていたものよと、遠い昔に思いを馳せているのだろう侍は軽く天を仰いだ。
「我を上総介に献上した者らの教義では男色は最たる罪の一つであったが、上総介の国では罪どころか主従の絆を強くするために契ることもあるというのに随分と驚いたものだ。」
「そういうのを『いろこ』って言ってたのか?」
「否(いな)。御津は歌舞伎芸者か何かなのであろう? 上総介の世の後(のち)になるが、そういった者は若きうちは男娼を兼ねていた。そういう者を色子と呼んだのだ。」
「あー、アイツのはKABUKIじゃーねーな。それに闇慈はaspro(男娼)でもねー。どころか、根っからの女好きだぜ。」
「陰間や色子に身を落とした者らも初めから男色の嗜好だったわけではない。糊口を凌ぐための手段よ。」
「そういうんなら、闇慈より俺の方が身近だな。俺は売ってねーが、周りじゃそういうのが日常だったクソッタレな育ちなんでな。」
「我とて元は奴隷だった身よ。
しかし、御津には悪き思い違いをしたものだ。氏に先に確かめておいて良かった。」
顎髭に手をやりさりさりと撫でている侍……名残雪は、一体どういった意図でそんなことをチップに訊いてきたのか。
「……そう怖い顔をするものではない。
氏と御津がなさぬ仲に見えたので訊いてみただけだ。」
「だが、アンタにゃ闇慈が『売って』るように見えたんだろ?
……アンタもアイツに、『そういう』意味で興味があんのか?」
「其方が御津を『芸者』と呼んだゆえ、昔の記憶が重なって解釈を誤っただけのこと。
……だが、そうだな、ないと言えば嘘になるやもしれぬ。」
「……。」
「あの血の香りは香(かぐわ)しい。
それに酔うものか、認識が曖昧になる。」