暗闇のなか、響く音 あの大きな手のひらで掬いとられると動けなくなってしまう。これから起こるであろう事に期待が膨らんで、そして願った通りに叶えてくれるものだから、心も体も喜んでしまう。
それが日本号の癖なのだと気が付いた頃には、もう遅かった。真正面から己に両手を伸ばし、俺を見ろとばかりに私の視界を奪う。いいか、と視線だけで問うて、顔を寄せる。無抵抗は是として唇を落とし、深く注ぐべく舌を差し込む――…口付けを交わす時の、お決まりの所作である。この『お決まり』によって、無抵抗どころか、もはや顔に手を添えられるだけで受け入れるようになってしまった私は、情けないようでいて、差し込まれる愛情を感じていたくもあり、なかなか複雑な気持ちだ。
大きな手のひらは、態となのか偶然であるのか、簡単に耳を塞いでしまう。口付けの時に、相手を見るなどという豪胆な事は出来ない性分であるから、私は暗闇のなか。加えて、聴覚までも奪われているものだから、たまったものではない。集中――…いや、夢中に成らざるを得ないのだ。これを狙ってやっているのだとしたら、本当に本当に質が悪い。
ぐちゅりと交ざり合う舌と、ずるる、と吸われる音。小刻みに食まれたら、どちらのものともつかない吐息が洩れる。頭のなかで反響しているリップ音が、隣の部屋にまで響いている気にさえなる。少しずつ身体の力が抜けて、小さく内腿を擦る。その瞬間を狙っていたかのように強く吸われ、腹の底がぎゅっと絞まった。
離れる唇と、満足そうな顔。肩で息をしながら、私は日本号へ手を伸ばす。
「……もう少し、」
ちょうだい、の声が口腔に消えた。