2022.02.18
澄んだ空に手を伸ばす。敵対の気配もなく、分厚い塊も伴わず晴れ渡る青空はひたすらに遠い。あの、ずっと向こうから現れたアルタイルは、我らがコアの導きに従っておとなしく眠りに就いてくれた。彼と語らう存在が成長を果たし、共に沈んだ島へ辿り着けるよう守り抜くまで俺の役割は終わらない。その為に力と体を与えてもらえたのだから、当然だ。
己の意志で役目と受け入れられたのは幸いだった。与えられるばかりに身を任せるのは楽だけれど、そんなものを生きているとは言えない。心があれば、迷うけれど、戦いの合間にあいつの生きた軌跡をなぞる事ができる。守りたかったろう未来への道を歩む人々を、少しは手助けしてやれる。ああ、それから、新しい命の育みを代わりに見届けるのだって。……虚しいったらない。おいていかれる空虚を知っているだろうに、遺される側の気持ちなどちっとも考慮しちゃいない。生きて、足掻いて、生き抜いて、先に逝ったお前の歩みたかった道など俺にわかる筈もないのに、後を追いやしないと確信するようにたったの一言、
『後を頼む』
この胸に刻んで旅立ってしまった。あんなもので未練を断ち切れるわけがないのに。気休めの一言を、それでもわざわざ、俺を見て与えてくれた事実が嫌だと振りたがる心を諦めさせた。
……後を追うなとは言われていない。……なにもかもが終わったら。世界の空が明るく、平穏に、雲を流す日々が始まれば。人々の命が続く空に在れたなら。それから、存分に、生き抜いたなら。もう、どこにもいない、あいつを探しに行こう。言葉を交わせなくていい。姿がなくたっていい。なにを残さなくてもいい。ただ俺が、会いに行く。だから。だから少しだけ。長く短い少しの先で、俺がたどり着くその日まで。