零北いつからだったのだろう。
革命のために手を貸してくれた先輩に対して、、恩以外の別の感情が心を満たし始めたのは。
伝えるつもりはなかった。
妖艶な美しさを持ち合わせてもなければ、護りたくなるような清楚さや可愛らしさももっていない、無骨な男などに想いを寄せられたところで迷惑でしかないだろう。
だからこそ、墓の下まで持っていくつもりだった。
そのつもりだったのに――。
「好きです」
零れ落ちてしまった想い。
紅い瞳に捕らわれて、伝えてしまった想い。
言われた零は少しばかり困ったように微笑んだ。
「氷鷹くんは我輩のことを知らないはずじゃ」
「朔間先輩のこと……?」
「我輩は夜闇に巣くう化け物じゃ。氷鷹くんには似合わない深き闇の生き物じゃ」
優しく諭す口調。
「星も……夜に属する物です」
かつて、両親のような太陽の輝きに憧れた。
だが、絶対無二の輝きではなく、他の光を打ち消さない輝き方をしたいと思ったのはいつからだったのだろうか。
「氷鷹くん。我輩は不死の化け物じゃ。だから――」
どうして、彼はこんなことを言うのだろう。
優しくされれば、この想いは膨れていくだけなのに。
(それなら……我が儘を言ってもいいだろうか)
この人の優しさに甘えているのはわかっている。
それでも――。
「俺は受け入れてもらおうとは思っていません。ただ、一つだけ我が儘言います」
顔を上げてまっすぐに相手の瞳を見つめる。
「何かえ?」
「先輩が俺に相応しくないってそんな言葉じゃなくて、俺の想いが迷惑だって言ってくれませんか?」
自分のためだと諭すのではなくて、そんな対象としてみられないと、拒絶してほしい。
この優しい人にはそれをしたくないから、敢えて遠回りに言っているのだろうが、自分のためだと言われても、この想いを断ち切ることなどできはしない。
「氷鷹くん」
「朔間先輩が俺の想いが迷惑だと、煩わしいと言ってくれたら、俺はこの想いを捨てます。捨てられなくても……努力はしますし、二度と言いはしません。だからーー」
実際に拒絶されたことを考えると、胸が痛む。
だが、そこまでされないと、自分はこの想いを抱え込んでしまうし、彼にも伝わってしまうかもしれない。
「氷鷹くん」
「好きです。朔間先輩。俺の想いを受け入れてほしいなんて思ってません。ましてや応えてほしいとも。ただ、想うことを赦してほしい。それが赦されないのなら、あなたの手で断ち切ってくれないだろうか」
「迷惑じゃな。我輩の本当の姿を知らず、幻影を愛されても困るのう」
すぅっと紅い目を細めながら告げられる。
「だったら、本当の姿を見せて下さい。それを見てもう一度俺も気持ちを見直しますから」
知らないと言われたら、知っているなどとは言えない。だが、知らないからといって拒まれるのなら、教えてほしい。
「確かに俺はあなたの一部しか知らないかもしれない。でも、あなたがどんな顔をもっていたとしても、優しい人だって知ってますから」
だから、きっと好きなままでいます。
きっぱりと言い切った。
「本当に不死の化け物でも?」
「北斗星君は死を司る神ですよ」
北斗はふわりと微笑む。
この想いを本当の意味で彼が拒絶しない限り、引く気はない。
そんな強い想いを込めて。
「逃げたくなったら、いつでも逃げるといい。我輩は追いかけたりはしないからのう」
根負けしたように微笑むと、零は北斗の頬に触れた。
「先輩は吸血鬼なのに、俺よりも温かいんですね」
頬に繊細に触れる指先に北斗は自分の指先を重ねた。