セーラー服と大学生「タクミ、折り入って相談があるんだ……」
珍しく真剣な顔で切り出した歳上の友人に、一体どんな深刻な悩みがあるのかと親身に話を聞こうとした俺が馬鹿だった。
話は遡ること数時間前、昼休みのカフェテリアで始まった。昼前の授業で一緒になった友人と後輩の三人で飯を食っていれば、友人が深刻そうに話を切り出したのだ。一体どんな深刻な悩みなのかと思って続きを促せば、「セーラー服を着てみたいんだけど、何処で手に入れれば良いと思う?」という馬鹿馬鹿しくとんでもない話だった。その手の店に行けばいくらでも売ってるだろ馬鹿じゃねぇの。外人の考える事は良くわからねぇ。イヤ、こいつと一括りに外国人を語らない方が良いような気がする。テーブルの向かいに座る友人ーーヴィンツェンツ・フェルマーは「パチもん臭いのじゃダメなの!」と拳を握り力説する。隣に座る後輩である瑞原をチラリと見れば黙々とうどんを食っている。聞いたれよ。そもそも馬鹿馬鹿しくてどっから突っ込めば良いのかわからない。とりあえずヴィン、お前はもうちょっと落ち着けよ。
「で、何で俺に言ったよ」
「ミサキちゃん経由で何とかならないかなーって思って!」
ミサキとは俺の幼馴染で、他学部に籍を置く大学の同期でもある。ヴィンとも顔見知りな筈だけれども、ミサキに頼み事がある時は大抵俺を通す。しゃぁねぇな、と携帯のアドレス帳を開き、ミサキに電話する。3コール目で「佐波、どうした!」と調子良く電話に出たミサキに「今学校に居るか?」と訊けば答えはYes。ヴィンがミサキに相談だってよ、と返せばカフェテリアなら10分で行けるとの返答。あ、コイツ面白がってんな。
「ミサキ、10分で来るってよ」
「やったぁ!」
そう無邪気に笑うヴィンはとてもじゃないが歳上には見えない。そして10分も経たないうちにミサキも小走りでやってくる。ロングのふわふわとしたパーマは軽やかに靡いて、何処からどう見ても今時の女子大生なミサキの相変わらずな擬態っぷりに感服する。擬態系腐女子恐るべし。
「セーラー服?女装キタコレ!!!私ね、ヴィンは絶対女装似合うと思ってたの!こないだ女装ネタで出した薄い本、結構な人気だったんだよ!」
「うすいほん?」
「ヴィン、ミサキの言うことは気にすんな」
「でも私もセーラー服は持ってないなぁ……ヴィンは細いし男にしちゃぁ小柄だから、体格的には私の服合うと思うんだけど……」
うーん、と真剣に悩むミサキにまさかの人物が口を開く。
「ありますよ、セーラー服」
「あるの!?」
「マジかよ!?」
口を開いたのはマイペースにうどんを食っていた瑞原。お前、女装するようなキャラだっけ?
「俺の妹、去年ここの附属卒業したんスよ。今は家出てんですけど、ちょっと聞いてみます」
そう言って携帯を弄りはじめた瑞原は放っておいて、俺とミサキはヴィンに向き直る。
「でも何でいきなりセーラー服?」
「シュンメがね、セーラー服の女子高生ってやっぱイイなーって」
「それでセーラー服着て瀬波先生を誘惑しようと思ったのね!女装誘い受けキター!!!」
一人でハッスルしはじめるミサキにクエスチョンマークを浮かべるヴィン。なんだこのカオス空間。
そう、ヴィンはゼミの担当でもある講師の瀬波さんと付き合っている。というか、同居してる。何で俺がそんな事を知って居るかと言えば、あの二人が全く隠そうとしていないからだ。少しは隠せよ、と突っ込みたくなるようなイチャイチャっぷりは最早ゼミの名物で、ゼミが終わるや否や夕飯の相談をし始めた二人に恐る恐る尋ねたのは記憶から抹消したい出来事だ。
「妹のオッケー出ました。もう要らないから返さなくて良いそうです」
瑞原がそう言って、ヴィンは諸手を上げて無邪気に喜ぶ。その隣でガッツポーズをするのはミサキだ。
「ようし!瑞原クンからセーラー服が届き次第、佐波ン家で着替えね!腕によりをかけてヴィンを可愛く仕上げるよ!」
「ミサキちゃんありがとー!タクミとリョーヘーも宜しく!」
俺に拒否権は無いらしい。
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途中まで書いて放置してた現パロササセナヴィンでヴィンと友人たち。
ヴィンの周りの学生の事を考えたことが無かったから新鮮。
佐波巧(サワタクミ)ヴィンと同ゼミ、巻き込まれ体質。一人暮らし。
御崎灯(ミサキアカリ)佐波の幼馴染、隠れ腐女子。寮生。
瑞原遼平(ミズハラリョウヘイ)佐波・ヴィンの後輩、実家生。
(2014-10-11)