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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2015-07-15/PF+20くらいで片桐くんの休日

    ##PianoForte

    Let's Session 圭子さんは以前勤めていたピアノ教室で行われるというイベントの準備を手伝いに行ってしまった。子供二人も学校で授業を受けているのだろう。ポッカリ空いてしまった一日のオフ、誰もいないリビングに差し込む日光を浴びながら、おれは腕を組み、思わず唸ってしまった。

    「で、ココに来たわけか」
     そう言いながら紅茶を出すのは鷹晴さん。結局おれは一人で時間を潰すのを諦めて、開店前のピアノフォルテに居る。店自体が休みでさえなければ、昼過ぎには誰かが居るこの場所は、圭子さんや二人の子供たちも開店前冷やかしに来るらしい。というのは圭子さんから聞いた話なのだけれども。
    「最初は圭子さんについていこうとしたんだけど、止められちゃって」
    「そら、有名なピアノ教室だつったってあの片桐飛鳥が来たら大騒ぎだろ」
     そう言われて思い出すのは何年も前の事。十数年ぶりに圭子さんに会った日のことだ。ああ……と遠い目をしてしまったらしいおれに「前科アリかよ」と鷹晴さんは笑う。
    「結城だって有名人の癖にぜんぜんバレないじゃないですか……リョーマ君だって!」
    「シュン坊はちょっとマニア層だろ、リョーマはもはや別人だし。それに比べて片桐君はなーそのまんまだろ」
     笑いながら自分もコーヒーを啜る鷹晴さんに返す言葉がない。「ゴモットモデス」そんなやりとりをしていれば、カランとドアチャイムが店内に響く。
    「おつかれさまでーっすって、片桐さん来てたんですね」
     それならもうちょっと早く来ればよかったーなんて言いながら店内に入ってくるのは店員兼この店の事務を担うサカエちゃん。サカエちゃんは元々ここのオーナーである結城が昔、マスターである鷹晴さんや、今や人気ロックバンドのリーダーでもあるリョーマくん、この店にお菓子を提供してくれている茜くん、そしておれがやっていたアマチュアバンドのファンであったらしい。どんな情報網を使って入ってきたのかは知らないけれど、結城と面接で対面するや否やそのバンドへの愛を熱く語り、即採用されたという経歴の持ち主だ。サカエちゃんが来た後に初めてバンドのメンバーが揃った時にサカエちゃんが持っていた自主制作盤にみんなでサインしたのは良い思い出だ。
    「コイツ、休みの潰し方がわかんなくて結局ココに来るしかなかったみたいだぜ?」
     はしゃぐサカエちゃんに、鷹晴さんはニヤニヤと笑いながらそう告げる。「あの超有名ピアニスト片桐飛鳥に趣味が一つもないとはなぁ」なんて言いながら。
    「マスターは素直じゃないですねぇ、仲間が遊びに来て楽しくないわけ無いのに。ねぇ、片桐さん」
     そんな鷹晴さんにもサカエちゃんはたのしそうにそう返し、更におれに同意まで求めてくる。
    「鷹晴さんが素直じゃないのは今に始まった事じゃないでしょ」
     そう同意をしてやれば、サカエちゃんは我が意を得たりと自信満々の顔つきで胸を張る。それを見たおれは思わず小さく噴き出してしまう。
    「あっ、片桐さん酷い!せっかく助け船出したのにー」
     そう言って膨れっ面を晒すサカエちゃんにごめんごめん、と言いながらも漏れでる笑みは押さえきれず、弁明する。
    「だって、杏里……娘みたいで可愛くって思わず、ね」
     そう言えば「片桐さんが私のこと可愛いって!」と鷹晴さんに自慢する。
    「サカエそりゃあ子供っぽいって言われてるだけだろ」
     そう鷹晴さんから突っ込みを受ければ「それは言わないお約束です」とビシッと指さしポーズを決める。
    「騒がしいと思ったら片桐来てたんだ」
     ワイワイとした声が聞こえていたのか、寝ぼけ眼の結城が裏から顔を出す。
    「あれ、結城居たんだ」
    「久々のオフだって言うのに南海さん出張でふて寝してた」
     カウンターの中で、寝癖なのかいつもよりも乱れている癖毛をわしわしと掻きながら欠伸混じりにそう答え、「タァ兄俺にもコーヒー」と隣にいる鷹晴さんにコーヒーを求める。
    「オーナーも休みなら、今日いっそ片桐さんとオーナーでセッションしたらどうですかね!?」
     そんなダルッダル全開の結城を見ながら、今思いついたかのようにサカエちゃんは提案する。
    「サカエおまえなぁ……」
     そう窘めようとする鷹晴さんに「だって今日誰のライブも入ってないし、折角だから良いじゃないですかっていうか私が聞きたい!」とサカエちゃんは噛みつく。
    「お、久々にやるか?面白そうじゃん」
     食いつくのは結城で、片桐どーよ?とおれに意見を求めればそりゃぁ答えは一つに決まってる。
    「やるに決まってるでしょう」
     よーしそれじゃ、作戦会議だ!とカウンターの中から出てきた結城に腕を引っ張られ連れてこられた店内の小さなステージの上で、端に置かれたスタンダードの楽譜が納められたカラーボックスの中を漁り、どれをやるよ、とわくわく顔の結城と共に音符の世界へと潜りかけた瞬間、ハタと気づく。「圭子さんに連絡いれとかなきゃ、一応」そう呟けば、今度はカウンターの方からサカエちゃんの明るい声が響く。
    「私やっておきますよ!ミケさんとはメル友なんです、私!」
     圭子さんもずいぶん馴染んで来たんだなぁ、と思いつつ、連絡はサカエちゃんに任せ、おれは今度こそ心おきなく音符の世界へと潜り込んだ。


    —————————————————


    最終的に片桐くんがシャンソン歌わされるに一票。
    (2015-07-15)
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