賢いペットに御褒美を「先輩、お盆休みどっか行きましょうよ」
俺が転がり込んで同棲に持ち込んだ先輩の家のリビングで、俺が折角だから遠出したいなぁなどと思って掛けた言葉は数秒も立たず「俺、盆はおじさん家行くから」とぶった切られた。
「先輩のおじさんって遠くに住んでるんですか?」
「いや、市内。ここら辺からならバス1本で1時間掛からないな」
すらすらと返される言葉に思わず「じゃぁ何で!」と突っ込んでしまう。盆休みの全てをそのおじさんの所で過ごすような口振りの彼が俺は解せない。恋人同士のはずじゃなかったのか!と心の中でだけ叫び狂いながら、彼の言葉を待つ。
「イトコが来るっつーんだよ、久々だし折角だから集まろうぜと」
イトコ、という彼の言葉に思わず思い出したのは、以前偶然彼と一緒に居るところを見かけてしまった俺と年齢が変わらないくらいの気の強そうな女性の姿。あの時は浮気か!? 等と気が動転してその後帰ってきた先輩に泣き縋りながら「浮気なんですかあああ!?」なんて喚いた黒歴史とも言える思い出もセットになって記憶の引き出しから漏れ出てくる。
ちなみにその時ドン引きした先輩から「従妹だし、アレと付き合うとかねぇわ」という言葉まで貰った末に仕事帰りに紹介された。眼光鋭く俺の事を鼻で笑った彼女に「これと先輩が付き合うとかマジねーわ」と思った事は今でも覚えている。
でも、だからといって「笹野さんって職場近いしいつでも会えるんじゃ……」わざわざ盆に会うような遠くに住んでる人じゃないだろう、という思いをこめてそう問えば、「バカ、リツだけじゃねぇんだって」という回答。
「リツの他に3人居るんだよ。リツの弟と地元出てるもう一方のイトコ兄弟が二人」
何でも先輩の親御さんの兄弟は三人兄弟らしく、末の従兄弟がこっちに来ると言うことでそれなら折角だし集まろうか、との事らしい。「ウミ……俺の妹な、あいつも旦那の実家には行かないらしいからこっち来るっていうし」と更に付け加えられれば成る程、と言うしかない。
「ちなみに、6人全員揃うのっていつぶりなんですか?」
「6年とかそれくらいじゃねぇかな」
これは俺に勝ち目はなさそうだ。「それならしょうがないですね」とため息と共に絞り出せば、先輩は苦笑しながら俺の頭をわしゃりと撫でる。そんな珍しい先輩の挙動に目を丸くして彼を見上げれば、「何驚いてんだよ」とケラケラ笑う。
「秋の連休、そこでどっか行こうな」
先輩の珍しい挙動が見れたから驚いてるなんて言えなくて、言葉に詰まっていれば更に先輩は爆弾を落としてくる。
「ハイ! 俺がプラン立てますね! 絶対ですよ!!」
「ハイハイ、絶対な」
こんなご褒美がもらえるのなら、我慢するのも悪くない。
それを先輩に言ったら頭を撫でてる手に叩かれるのだろうけれど。
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青嗣くんに対してツンしか見せない宇宙さんのかつてないデレ。
(2015-07-25)