Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🙏 👍 🍻
    POIPOI 139

    狭山くん

    ☆quiet follow

    2021-11-25/もしもの空閑汐♂シェルツ♀の出会い。普段の静かな海〜の人達とは一部の性別が逆転してたり名前が変わったり職業がちょっと変わったりしてます。そもそも空閑が生きてるし。

    ##静かな海
    ##空閑汐BL

    What if「飲み物は何がいい? コーヒー? 紅茶? ココアもあるよ?」
    「あ、コーヒーでお願いします」
    「オッケー。砂糖とミルクは要るか?」
    「えっと、お願いします」
     口々に問いかける男達に言葉を返せば、よしきた。とソファから一人の男が腰を上げてキッチンへと向かう。その姿を見送りながら、ハンナ・シェルツは困惑していた。ハンナの前にはキッチンへと向かった男とは別にもう一人の男が残されていた。彼は人好きのする笑みを浮かべたままで「アマネの淹れるコーヒー、めちゃくちゃ美味しいんだよ」とハンナへと楽しそうに告げるのだ。
     ――何がどうして、こうなったんだっけ。
     ニコニコと笑みを浮かべたままの男へ、にこりと笑みを浮かべるハンナの口元は引き攣っていた。そして彼女はこの場所に至るまでの出来事を思い返すのだ。
     月面に造られたいくつかの都市のひとつであり、最も歴史のある街であるオーベルト。その市唯一の病院での勤務を掴み取ったハンナは、身ひとつでこの地へと降り立った。荷物は全部事前にオーベルトに借りた部屋へと送っていたからだ。
     初めて降り立ったオーベルトに感動と興奮を隠しきれなかったハンナは、そのまま街の中を散策しようとし――そして、そこでならず者に絡まれた。
    「なぁ姉ちゃん、金持ってんだろ?」
    「えっと、あの、」
     古い作りの建物が立ち並ぶエリアは、あまり治安がいいと言えない場所だとは聞いていた。けれど、こんな昼間から絡まれるなんて思っても見なかったハンナは、うっかり軽く肩が触れてしまっただけの男から詰め寄られ形の良い眉を下げる。
    「治療費、払ってくれんだろぉ?」
     ずい、と寄せられた男の顔に、ハンナが思わずふいと視線を逸らしてしまえば男は激昂したように声を荒げる。
    「おら、サッサと金出せよ!」
     ビリビリと空気を震わせる胴間声に肩を震わせたハンナは、震えの走る指先を鞄へと伸ばそうとしたその刹那、ハンナの目の前から男の姿が一瞬にしてかき消された。
     壁に押し当てられていた男の手がハンナの肩を掠め、バランスを崩した彼女はそのまま地面へと尻もちをついてしまう。座り込んだままのハンナの視界の端には地面に大の字になった先程の男と、その男の胸あたりに片足を乗せた男の姿があった。
     恐る恐る男達へと視線を向ければ、地面に転がされた男よりも随分と細身である青年と思しき年代の男が転がされた男を踏んだままで口元だけで笑みを浮かべていた。
    「お前さ、可愛い女の子が居るからってあらぁ良くない絡み方だな?」
     青年の言葉に男は何も答えない所か、指先一本動かす事はなかった。その光景を不思議そうに眺めて居れば、その答えを三人目の男がハンナへと齎した。
    「いや、一発目で伸びてるじゃん。っていうか生きてる?」
     飛び蹴りでアッパー狙うとか、相変わらずヤバいな。なんて言葉を重ねながらハンナの視界に現れた男は地面に座り込むハンナに気付き、彼女の前に膝を付き手を差し伸べる。
    「お嬢さん、怪我はない?」
     さらりとした黒い髪を揺らし深い海の碧と同じ色をした瞳を細めながら人好きのする笑みを浮かべた男は、ハンナへと問いかけながら首を傾げていた。
     第三の男の出現に若芽の色をした瞳を幾度か瞬かせたハンナに、はたと気付いたように男はジーンズのポケットからパスケースを取り出しその中身を彼女へと提示する。
    「怪しいものじゃないよ。軌道警察局オーベルト支局勤務のヒロミ・クガと言います。あっちのガラが悪いのはアマネ・シオミ、ああ見えて連邦宇宙軍所属のスゴ腕パイロットなんだよ」
    「警察の人、と軍人さん……?」
     ヒロミと名乗った男へ、その身分を確かめるような言葉を零したハンナへ「見えないよねぇ」とヒロミは笑う。
    「何か紐みたいなもんないか、縛っとくから」
     恐る恐るといったようにヒロミが差し出し続けていた手のひらに己の手のひらを重ねたハンナは、立ち上がったヒロミに引き上げられるように地面から腰を上げる。そして、奥からはアマネと紹介された男の声が投げられた。
    「紐? 俺のシャツで縛っとく?」
    「上半身裸で歩くつもりか警察官」
     アマネの言葉へのんびりと言葉を返したヒロミへ、呆れたような声が投げ返される。
    「あっ、でもそうするとアマネが俺に付けたものを見せびらかしちゃうもんね! アマネも脱いじゃだめだよ、虫除けにいっぱい付け……」
     ヒロミの言葉を遮ったのは、アマネが投げた自身の靴だった。鋭い速度で投げられたアマネの靴は的確にヒロミの急所へと当たり、その痛みに彼は思わず踞ってしまう。
    「使い物にならなくなったら困るのアマネだよ!?」
    「黙れ色ボケ!」
     もう一方の靴を振りかぶりながら吠えるアマネに、ハンナは困惑するばかりで。困惑しながらも、自身の頭部を飾るカチューシャの存在を思い出したハンナはそれを外し、輪になっているそれを勢いをつけて縫い目を千切り紐状にする。路地には糸が切れる音が響いた。
    「あの、これ良かったら」
     アマネの元へ駆けよりそれを渡したハンナに、驚いたように目を丸くするアマネは次の瞬間には柔らかな笑みを浮かべてそれを受け取る。
    「ありがとな、後で新しいの買わせてくれ」
     その言葉と共にハンナが渡したカチューシャであったものを貰い受けたアマネは伸びたままの男の手首を纏めて縛り付ける。そしてそのまま意識のない男の上に腰を下ろして蹲ったままのヒロミへと「って言うか早く引き取りに来させろ」と声を投げるのだ。
    「うぅ、仰せのままに」
     呻き声の後にそう重ねたヒロミはようやく立ち上がり壁に凭れながら端末でどこかへと電話を掛ける。二、三言葉を紡いだヒロミは「ジュールがあと数分で来るって。近くでパトロールしてたみたい」と口にした。
     アマネの見せた笑みに既視感を感じたハンナは眉を寄せ首を傾げる。何処かで見たその笑みは、いつのことだったろう。そんなハンナの様子に、アマネも不思議なものを見るように首を傾げた。
    「どうしたんだ嬢ちゃん」
     嬢ちゃん、と投げかけられた言葉に、ハンナは思わずあっと声を上げる。そんな声に目を丸くするアマネはアジア系という事もあってかどこか幼く見えた。
     ――私、この声で、嬢ちゃんと呼ばれた事があったじゃない。
     それは、ハンナが大切に記憶の底へと仕舞っていた幼い日の思い出だった。

    「嬢ちゃん、迷子か?」
     それは二十年以上も昔の事で。幼い日のハンナが迷っていたのは、家の近所にあった国際航空宇宙学院のイベントへと親に連れられて来た日の事だった。年に一度開催される学院とそこに隣接する航宙士学院の合同解放日、それは幼いハンナにとって年にいくつかある恒例の楽しみのひとつでもあった。学院の学生たちが出す模擬店や展示を周っていれば、いつの間にか両親の姿が見えなくなりそれを探すために歩き回った結果ハンナは人気のない場所まで来てしまったのだ。
     そしてそこで心細さに泣きそうになっていたハンナに声をかけたのが、二人連れの青年たちであった。
     一人は航宙士学院の制服をきっちりと着込みハンナへ人好きのする笑みでにっこりと笑いかけ、一人はラフなティーシャツとジーンズにナイロン製のフライトジャケットを羽織った姿でハンナと目線を合わせるように片膝を付けてひざまづいてハンナへと問いかけた。
     青年の言葉に小さく頷いたハンナに彼らは口々に「じゃぁ、パパとママを探してみようか」「俺たちはここの学生でな、ちゃんと放送かけて貰える所に行こうな」とハンナへ笑いかけフライトジャケットを羽織った青年がハンナを抱き上げる。
    「わ、ぁ!」
     ふわりと抱き上げられたハンナが驚いたように声を上げれば、思わず口から出したといった「すまん」という反射的な言葉が返されて。もう一人の青年より少しだけ背が低く細身であった青年は、ハンナの身体が不安定にならないようにしっかりとその腕に彼女を収めた。
     落ちないように、と言われハンナを抱き上げる青年の首へしっかり手を回したハンナはまじまじと自身を抱き上げる青年の横顔を見つめていた。
     ――まるで、王子様みたい。
     そしてハンナは青年達へといくつかの言葉を掛けてみる。学生さんなの? 宇宙に行くの? 学校って楽しい? 無邪気な子供の質問へ、彼らは丁寧に言葉を返してくれたのだ。そうだよ、パイロットになる勉強をしているんだ。ちゃんと卒業したら、宇宙に行く予定だな――オーベルトって知ってるか? 月に造られた1番最初の街でな、そこに住むのが当面の目標だな。毎日刺激的で楽しいよ、あっこれ見てよ、このぐるって回ったのがアマネが乗ってる飛行機だよ。口々に返される言葉に、ハンナは楽しそうに頷いたり感嘆を零す。柔らかな言葉でハンナへと語りかける制服の青年と、ぶっきら棒だがしっかりと言葉を紡ぐハンナを抱き上げて歩くフライトジャケットの青年。ハンナの心を奪ったのは彼女を抱き上げる青年の方だった。
     彼らはハンナの両親が運営本部へと迎えに来るまでの間ずっとハンナとの会話に付き合い、その行為を煩わしげにすることは一度もなかった。そしてハンナが両親の元へと戻る直前、ハンナは意を決してフライトジャケットの青年へと声を上げたのだ。
    「ねぇ! 私もオーベルトに行くから、私がお兄さんの居るオーベルトに行ったら結婚してくれる!?」
     幼い子供の告白など一笑に付されても仕方のないものだったが、彼はそうしなかった。少しだけ驚いたように深い焦茶色の瞳を開いた青年は、小さく柔らかな笑みを浮かべて最初に会った時と同じようにハンナと目線を合わせるようにひざまづいて「嬢ちゃん、ごめんな」と言葉を返す。
    「ごめんねお嬢ちゃん、アマネは俺の彼氏なんだ」
     フライトジャケットの青年に後ろからかぶさるように抱き着いた制服の青年は、言葉を繋げるようにハンナへと笑いかける。
    「まぁ、そう言う事なんだ。コイツが俺の彼氏でな、可愛い嬢ちゃんを嫁にするとこいつが黙ってねぇんだ」
    「いっそ今大声で泣き喚いてもいいけど」
    「お前に泣かれるのに弱いの、知ってる癖に」
    「泣き落としたからねぇ」
     少しだけ困ったようにしかしそれでも真摯に言葉を紡いだフライトジャケットの青年と、じゃれつくように相手の首筋に唇を落として笑う制服の青年のやりとりに最高速度で始まり終わった初恋に眉を下げたハンナはそれでも小さく頷いた。
    「まぁ、嬢ちゃんが大きくなってオーベルトに来れて、俺らもオーベルトに居たら茶でも飲もうや」
     そう言って優しく笑ったフライトジャケットの青年は優しい手つきでハンナの頭を撫で、ハンナの両親が待つ入り口へとハンナの背を押しその後ろ姿を見送っていた。
     それが彼女のほろ苦くも大切な初恋の思い出となったのを、二人の青年は知らなかった。

    「嬢ちゃん? どうかしたか?」
     思わず上げられた声に驚いたアマネは、首を傾げてハンナを見つめる。その相貌は二十数年の歳月を経ても、あまり変わらないような若々しさを保っていて。不思議そうに二人の元へと歩み寄るヒロミと並べても、彼らが同年代とは信じがたかった。年齢が分かりにくいアジア系であってもあの頃よりも幾分か大人の男性の風格を纏ったヒロミと比べ、アマネは青年のような若々しさが残されていた為だ。
    「あっ、あの、昔、国際航空宇宙学院のイベントに居ませんでしたか!?」
     思わず口からそう出していたハンナの言葉に、顔を見合わせたアマネとヒロミは合点が言ったように「あぁ!」とユニゾンで声を上げる。
    「あの時の迷子か、大きくなったなぁ。あれもう二十年くらい前だったか、そりゃ立派なレディにもなるわな」
    「アマネにプロポーズしたお嬢ちゃんかぁ! えっオーベルトに住んでるの? すごい偶然だねぇ!」
     口々に楽しげな声を上げる二人の男が自分の事を覚えていた事に驚き安堵したハンナは「あの時も、今も、助けてくださってありがとうございます」と頭を下げる。
    「なんも、なんも。困ってるかわい子ちゃんは助けないとだろ」
    「そうそう、そもそも俺なんて今やお巡りさんだからね。非番でもこんなの逃したらダメでしょ」
     口元だけで勝ち気な笑みを浮かべたアマネとにっこりと柔らかな笑みを浮かべるヒロミは口々にハンナへと言葉を返す。
    「そういや、あの時、オーベルトで会えたら茶でも飲もうって言ってたもんな。此処で会えたのも何かの縁だろ、時間あるならウチ、寄ってくか? 男の二人住まいでも茶ァくらいは出せるぞ」
    「良いねそれ! お嬢ちゃんがよければだけど、せっかく同じ街に住んでるんだし、仲良くしようよ」
     楽しげに声を上げる男達の勢いに、ハンナは思わず頷いた。
    「あっ、えっと、私ハンナって言います。ハンナ・シェルツ。よろしくおねがいします!」
     名乗っていない事に気付いたハンナは、その時ようやく自身の名を口にする。
    「よろしくねハンナ。さっきも名乗ったけど俺はヒロミ・クガ。こっちは俺の旦那さんのアマネ・シオミ」
    「いい名前だな、ハンナ。こいつの言った通り俺はアマネ・シオミ。こいつは俺の旦那だ」
     ヒロミとアマネは互いにそう名乗り、ハンナへ向ける笑みを深める。彼らのそれぞれの左手には、同じデザインをした銀色のシンプルな指輪が照明を反射して光っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works