文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day19 ガラスの器に降る雪のような氷の欠片にフェルマーは歓声を上げる。小さな子供のようなはしゃぐフェルマーの様子を見ながら、汐見はかき氷機のハンドルを回していた。手回し式のかき氷機をどこからか引っ張り出してきたフェルマーは、その作業を汐見に押し付けて。汐見もそれを嫌がる事なく引き受けていた。
「アマネ、代わるよ?」
「俺がこの程度でへたると思ってんのか」
四杯分の氷を削った所で、汐見の後ろに立っていた空閑は彼に声を掛ける。空閑の言葉に心外だと眉を寄せた汐見に「まさか」と空閑は笑い声を上げて。
「じゃなくて、アマネのは俺に削らせてよ」
「あぁ、そう言う事。んじゃ遠慮なく」
空閑の言葉に一度頷いた汐見は、自身が立っていた場所を空閑へと明け渡す。そうすれば空閑は鼻歌混じりでハンドルに手を掛けるのだ。
「ヒロミってアマネに甘いよね」
「まぁな」
白い氷の山を青色に染め上げたフェルマーはスプーンでその山を崩しながら汐見へと声を掛ける。その言葉に何の気負いもなく頷いた汐見に、フェルマーは揶揄うようにヒュウ、と唇を鳴らした。
「お前ら、学院でもこのままで行くつもりか?」
呆れたようにため息混じりの言葉を溢すのは高師で、彼の手にもちゃっかりとフェルマーと同じ色彩で彩られたかき氷が乗せられている。
「このままと言われてもなぁ、俺にとってはもうこれが普通だし」
「他の男に……ううん、女にもだけど、アマネを取られないように精一杯の牽制はするに決まってんじゃん!」
ガリガリと氷を削り続け、遂にその中身を空にしたらしい空閑はかき氷機のハンドルをカラカラと鳴らしながらも宣誓するような声を高らかに上げて。その言葉を揶揄うように汐見に声を投げるのは篠原だった。
「牽制するとか言ってるけど、そこんとこどうなんだ?」
「まぁ悪い気はしないよな」
肩を竦めながら小さく笑みを浮かべる汐見に「ていうか、汐見のが過激な手段に出るんだったな。そういえば」と思い出したように頷いた篠原はかき氷機の下に置かれていた器の状態に「うわ」と声を溢す。
「浩介! うわって酷くない!?」
「いや、ヤバいだろそれ」
「ヤバいな」
汐見が削り出した四人の分よりも堆く積まれた氷の山に、流石の汐見も眉を寄せてしまう。
「アマネへの愛の大きさだと思って欲しいよね!」
「いや、これは愛とか言う以前に頭痛にやられる未来しか見えないぞ」
空閑の言葉にため息混じりの声を返した汐見はそれでも、その器を手に晴れた空よりも濃い青を白い雪山へと振りかけるのだ。